学生時代、13年書道を習って、いちおう三段をいただいている私。 ある日文房具売り場をながめていて、フト思いました。
そういえば、10年以上、習字の筆を持ってないな…。 久しぶりに、習字とかやってみようかな…。
待てよ。
むかしの人はボールペンも鉛筆もなく、筆だけで暮らしていたわけで、もしかしたら現代人も、じゅうぶん筆で暮らしていけるんじゃなかろうか。
というわけで、筆記具は筆オンリー!で、暮らしてみました。
(text by 加藤 和美)
■ビジネス編 〜準備〜
ビジネスシーンに筆か…。 微妙に不安をおぼえながらも、とりあえずいつも通りにパソコン起動。 そしておもむろに墨汁、筆、すずりなどを取り出し、墨をすり始める。 あたりにただよう墨の香りがなつかしい。
ちなみに、墨汁そのままでは、色の濃さや持ちがぜんぜん違う。 書道を習っている時も先生から「よく墨をするように」と言われていたが、今回、半紙以外のものに書いてみると、それがよりハッキリした。
ツルツルの紙に墨汁そのままで書くと、墨がはじかれて薄くなる。 しかし、ちゃんとすった墨で書くと、同じ紙でも黒々とした色が保てるのだ。 油性ペン並みに黒々している。 墨ってスゴイな!
準備は完了。 最初は面倒くさいかな?と思っていたが、パソコンの立ち上げに時間がかかるので、その間に墨をするとちょうどよい時間つぶしになる。
墨をすって、パソコンが起動し終わったら、さっそく仕事仕事。
■ビジネス編 〜電話応対〜
仕事相手からメールが着ていたので、電話をすることにする。 もちろん筆を持ち、傍らにはメモ帳をスタンバイ。
たんなるメモなら、筆は黒々としていて目立つし、サラサラと文字が書けるのは良いのだが、やはり細かい字が書きにくい。
周囲からは「怖い」「威圧感がある」と若干不評だった。
しかし言い換えれば、それだけ目立つということなので、どうしても重要な用事は筆で書くと見落とされない。 「いつも上司がメモを見てくれなくて…」とお嘆きの方は、いっそ筆で書いてはどうだろうか。
■ビジネス編 〜ふせんを書く〜
つづいては、ふせん書き。
今日やらなくてはいけない作業をふせんに書いていく。 私はふせん愛好派で、わざと邪魔なところにふせんを貼っておき、忘れないようにするのが好きだ。
というかそうしないと本気で忘れるので、ふせんの有無が死活問題だ。
ここでも、墨汁そのままだとふせんの紙が墨をはじいてしまうので、墨をすっておく必要がある。
内容は激しく目立つが、さすがに細かい字は書きにくい。 しかも筆文字が短冊状に並ぶようすが、居酒屋の壁のメニューを思わせる。 早く仕事を終わらせて、一杯やりたい気持ちに。
ある意味、仕事がはかどるかもしれない。
■ビジネス編 〜メールを書く〜
仕事の相手先に文章で連絡をしなければならない。 むかしのメール、つまり手紙をしたためることにした。
筆で手紙を書くのは激しく楽しかったのだが、いかんせん内容が 「Exelがどーの、Wordがどーの」 とか 「画像ファイルはJpegでください」 とか パソコン用語が多いので非常に書きにくい。
そしてくるくる巻いてから気づいたのだが、「Exelのリストを添付します」といつものクセで書いてから、「あっ、添付できない…」と気づいた。 そもそもこれを渡す相手のところまで持っていかなければいけないのだ。 久しぶりに会うのもいいかもしれない。 お誘いのメールを出そう。
本末転倒だが結果オーライだ。 渡された相手がこの巻紙を見て、引いてしまわないことだけを祈ろう。