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ひらめきの月曜日
 
筆で暮らす

■学校編

学校編、といっても勉強するのではない。教える方だ。
専門学校で講師をしていて、ちょうどテストの採点の仕事があった。

過去十数年、朱色の筆でダメ出しをされ続けていた自分が、反対に朱色を入れる!
なんだか妙に興奮しながら学生さんたちのテストを取り出す。


あこがれの朱色の墨。
うひゃっひゃ。なんだろうこのうれしさは。
マル、マル、バツ、バツ…。
ちゃんと勉強してたのか、みんな。

じつはこれ、ダミーのテスト。

実験したところ、朱色の筆でマルバツを書くと、その下の鉛筆線や印刷線までつぶれてしまうので、実際に学生さんのテストには使えなかったのだ。残念。

しかし朱色の墨の使い方はほかにもあった。

 

■ご家庭編 〜伝言を書く〜

家で書くといえば、家族への伝言。
うちではメモ用紙に書いて冷蔵庫やテレビなどの目立つところに貼っておく。

それを筆で書くのだが、上記の朱色の墨を使ってさらに目立つようにしてみた。


家族への伝言といえば、やはりこういうのだろう。
朱色の墨で強調したら、とたんにおばあちゃんが経営する店のメニューみたいになった。
何かの罰だろうか。
ただの連絡なのに、そんな気さえしてきた。
3枚貼ってみたら、急に我が家の冷蔵庫が威圧的になった。

家庭内での伝言など、たいてい小さいものだ。
「○○があるから食べて」
とか
「明日××(用事)がある」
とか。

それをわざわざ筆で書いたところ、帰宅した家族に
「……これ、怒ってるの?」
と聞かれた。

いや、そういうわけでは。
あやうく、家庭内に不要な波風がたつところだった。
わかりやすい方がいいだろうと、クッキリハッキリ書いたが、それがまずかった。

 

■ご家庭編 〜FAXを出す〜

そんな反省をいかして、今度はFAXを出すことにした。

筆は書き方にもよってニュアンスが出せるわけだから、そのときの状況によって書き方を変えればいいのだ。


お礼文は、絵手紙風に。
弟への借金の取り立ては丁寧、しかし威圧的に。

この通り、ペンで書くよりニュアンスがよく出る。
サッと書くだけで絵も字もそれなりにサマになるのがいい!
絵手紙を好んで書く人の気持ちがわかった。

いままでで一番「こりゃいいや」と思った筆の使い方だ。

■筆、それは感情がダイレクトに伝わるツール

今回あれこれと筆で書いてみてわかったのは、確かに筆は不便だし汚れる心配もあるし、向いていない場面もあったけれど、書き方ひとつでいろいろできる、ということがわかった。

何かお知らせしたいときは、クッキリ黒々と大きな字で書けばインパクト大。きっちりした楷書で書くと威圧的で、かすれるくらい荒々しく書くと怖いほど。

反対に、丸くてかわいい字を書いたり、ささっと絵を添えるのも簡単にできる。
書き手の感情を、そのまま出しやすい筆記具ではないだろうか。

とまあ真面目な話はともかく、毛筆の目立ち度はかなりのものだった。

皆さんも、ここぞとばかりに主張したいことがあるときは、ぜひ筆で書いてはいかがだろうか。きっと気持ちが伝わることだろう。 

が、しかし油断してはいけない。
上記のように「三万円返して下さい」と実家(静岡)の弟にFAXしたところ、数日後、返信のFAXがきた。

毛筆返し!しかも、金は返す気なし!

弟が書道五段だったのを忘れていた。
しかも今も習っている、現役五段だ。
字の崩し方といい、筆運びといい、さすがにうまい。無駄にうまい。

ここで教訓。
うかつにも、自分より字がうまい相手に、えらそうな字を書かないように気をつけよう。


 

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