2004年夏。 ライタ−住さんのご協力を得て、虫たちのうんこを熱心に作っていた息子のオンも中学2年生になった。
身長はすでに私を10cm近く上回っているが、飄々とマイペースなのはあいかわらず。バスケ以外はすべて「どーでもいいー」という無気力男だ。
中2男子たるものこれではいかん。
そう思い、強制一人旅に行かせることにした。 場所はモンゴル。
そう聞いた彼は、なぜかおどろきもせずに 「ふーん。いいね」 と他人ごとのようにテレビを観ていた。
もうちょっとびっくりしろよ!と思いつつ、私もまた「まあいいか、どーだって」と思い直していたのです。 その時点では。
(text by 土屋 遊)
はじめて息子を一人旅に行かせる母を初体験
今なにしてんの 今どこにいるの イタズラ電話したの わかったなー
息子を見送ったあとの、母の心境がここに凝縮されている。
"猛毒"というミュージシャンの曲だが、恥ずかしながらずっとこんな心境だった。 ほぼ30分おきにこの歌が脳内に流れてくるのだ。
テレビもない。電話もない。イタズラ電話はできないけれど、はるか彼方にいる息子は今なにをしているんだろう。
彼の一人旅がはじめてなら、「息子をはじめて一人旅に行かせる母」も初体験だ。
ツアー名:遊牧民ホームステイツアー
旅行日程は一週間。 「残り一名様しか空きがございません」
旅行会社の言葉に、反射的に申し込んでしまったものの、そのあとで不安材料がつぎつぎにでてきた。
現地では初日からモンゴル遊牧民ご家族のお世話になる。そのほとんどを大草原と住居の"ゲル"で過ごす予定だ。
ラッキーなことに、今年は建国800周年記念イベントが開催されているという。 「800年後には生きていないだろうから」を理由に一日だけオプショナルツアーを組み、2万頭の騎馬隊を観戦するスケジュールにした。
緊張しているのは周囲だけ
合同ツアーグループも同行添乗員もいない。ほぼ一人での行動である。首都のウランバートルは治安が悪かろうと心配の声も小耳にはさんだ。
なによりも、一番の不安材料はオン本人に緊張感がまったくないことだった。
担任の先生はよく「オンは中2の自覚がない」とおっしゃるが、「モンゴルへ行く自覚もない」ようだ。なににおいても自覚はないのだろう。
一週間前にメガネをなくし、2日前には川へ行った帰りに荷物をまるごと忘れて手ぶらで帰ってきた。モンゴル語の本も買わせたが、開いた様子はまったくない。むしろ私の方が先に覚えてしまった。
ザー、ヤワホー?(では、いきますか?)
いいやいいや、もうどうなってもいいや。
スーツケースを置引きどろぼうから受け取り、搭乗手続きも無事終えたオン。
「んじゃ、行ってくんね」
と、あきれるほどいつものセリフで消えていった。