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ロマンの木曜日
 
サバイバルメシ炊くべし
うまく炊けるかな?


これでも母である。
同期の友と顔を合わせると、我が子がどれほど頭も態度も趣味も悪いか、まるで張りあうかのように私たちは語る。そして自分たちも、毎日先生に追いかけまわされ、親をさんざん泣かせてきたことを思い出すのだ。

そうだよ、私たちもこうしてなんとか通報されずに生きているじゃないか。

けれども現実はここにある。また息子の成績が下がった。(二期生のため秋休み前の通知表だ)

「一度も行ってないのが、やっぱりまずいのではないか」
いつもはバラバラな心をひとつにして確信していた。
毎年行っている「秋川渓谷」(東京都檜原村)へ、今年は一度も行っていないのだ。

今夏は色々と多忙をきわめ、天候にも泣かされた。
9月にはあきらめモードに入っていたがずっとモヤモヤとしていたのだ。 
あの秋川へ、行こう、明日。

(text by 土屋 遊



今回のテーマはサバイバル飯

秋川行きが急遽決定したことで、人数分の車の(運転手)手配ができなかった。通常ならとっととあきらめるところだが、今回はちがう。なにしろ子どもの成績と心の安定がかかっているのだ。

よし、じゃあみなで電車。

まずは、電車と一日4,5本しか出ていないはずのバスの時刻を調べるなければならない。去年の、修行のようなウォーキングはこりごりだ。
参照:秋川サバイバー(2005.8.25)

次。薪は炭は鉄板は?電車じゃ重たいよ。

「さあここでサバイバル飯の出番ですよ」

そういえば数日前にも、友人の伊藤さんはテレビで見たという"サバイバル飯"について熱く語っていた。
さっぱりわけがわからないので気にもしていなかったのだが、缶で米を炊くと言う。

夜になって、メールが来た。

:持ち物

  • ハサミ
  • 火(ライター)
  • 研いだ米0.8合
  • 缶(350ml缶2コ) ・牛乳パック3本
  • カッター
  • 水(コーヒー用も)

サバイバル飯、略して「サバメシ」に必要なもの一人分のすべて。


いったいどうした。伊藤さん……ものすごく張りきっている……。

こんなに長いメール、それよりも日本語として成りたっている文章も初めてもらったような気が……。
いつにない気合いを感じたは早めの就寝で明日に備えた。

 


スコーン!

変わらぬ川の麓へ

みんなが、そして私自身が一番案じていた寝坊もすることなく、定刻通りに電車・バスを乗り継ぎまた今年もやってきた。
私が小学校のときからなにひとつ変わっていない神聖な場所は、いつもどおりの空だ。

ただひとつ案じていたことがあったがそれは橋を渡る直前で確信に変わった。

川の音がちがうのだ。まるでもう、ぜんぜんちがう。

ズガーン!

とんだ誤算

2日間は嵐だった。

増水して川原も通常の7分の1くらいしかない。
流れもあまりにも早すぎる。激流だ。とても川へ入れる状態ではなかった。
一歩足を滑らせれば、流れに飲みこまれ、気がつけばたちまち滝ツボに叩き込まれるだろう。

残念ではあるが、せまくなった川原でのんびり過ごせばいいじゃないか。
そうだよ私たちは川に会いにきたのだ。癒されにきたんだから。


「サバメシは防災訓練のひとつ。こういう状況こそふさわしいですよ」

伊藤さんもどこまでも前向きだ。

しかし子どもたちはもっともっと前向きであった。


さっさと水着に着替える子どもたち。
「ごりゃあああー!」
渓谷で罵声がこだまする。

 

災害時に備えて

子どもたちをようやく説得し、今日の川ダイブを断念させた。
いよいよサバイバル飯の準備に取りかかる。

昨夜、まともなメールを頂戴したあたりからどうも様子がおかしいとは思っていたが、友人伊藤さんの目つきは尋常じゃなかった。

なにかに取り憑かれたように、解説をはじめだした。

どうなってるんだかわからないが、ここは私もおとなしく従うしかなさそうだ。


声のトーンも顔つきもいつもの伊藤さんではなかった。いち早く察知したのは長男ヒロシと……
長年の友(席もとなりだった)だろう。「はいはい、わかりましたよ……。切りゃあいいんだろ、切りゃあ」

 

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