■なんたる青さ、なんたる突き抜け感

12:53　砂浜に到着

　なにもかもがやけくそに高彩度だった。海も空もやけくそに青い。雲の高さも尋常じゃない。なんたる開放感。砂浜は真っ白で白い珊瑚の残骸がゴロゴロ落ちていた。そして、人間は一人もいなかった。ああ、なんていいとこなんだ。

　関東の海岸なんて、緑色に濁っていて海草がプカプカ浮かぶ中、人間だらけで自由に泳げない。同じ海で繋がっているとは思えなかった。スーツ姿で砂浜に降り、靴と靴下を脱いでズボンをまくり、海へ入った。

　容赦ない太陽光で温められた浅瀬の海水はぬるかった。温水プールの様で気持ちいい。小さな魚が群れをなして泳ぎ、僕から逃げていった。そうか、僕はよそ者か。

■人がどこにもいない秘密と可愛いヤドカリについて

　海から上がって、道路に戻ろうとしたら木陰に島の人がいた。こんにちはーと声を掛けると、今日は暑いねーと返ってきた。

　今日は風もないし、特に暑いのだという。なるほど、やっぱり暑かったのか。なにしてるのかと聞かれたので、飛行機の時間まで暇なのでブラブラしてますと答えた。

　暑いのに大変だね、内地の人は我慢強いね、島の人はこんな暑い日は家から出ないよ、と言われた。

なるほど、それで人がどこにもいないのか。

　その人はタバコを吸いながらバイクにまたがり仕事に戻っていった。ふと足もとを見るとオカヤドカリがいた。ウジャウジャいた。

　ペットショップで見た事があったが、野生のものを見るのは初めてだった。安藤さんの記事を読む前だったので天然記念物とは知らず、思わず連れて帰ってきてしまう所だった。

思いとどまって良かった。犯罪者一歩手前だった。

■道ばたに、山羊

　　海沿いの一本道を進む。暑い。わずかに張り出した枝の影を渡り歩き、淡々と歩いていると前の方に動く物が見えた。

　僕は眼鏡を掛けても視力は1.0程度なのでしばらくそれがなんなのか分からなかったが、それは山羊だった。

　半放し飼いの山羊が道草を食っていた。歩道は彼らのフンだらけで、奔放に草をはんでいた。僕が近づくと人なつこく寄ってきたがなにぶん体が大きいのでちょっと怖い。

　横に割れた目で見つめられると、山羊好きの人には申し訳ないが怖かった。

■山羊も植物も奔放すぎた

　島の周回道路は、屈託無く伸びた植物でいっぱいだった。大きなアダンの実がわっさわっさなっていた。

　アダンの実はパイナップルっぽいけど食べられない。残念(食べられる実なら食べてたかもしれない)。

　歩道は伸びすぎた下草で寸断されていた。伸びすぎた街路樹の松が塞いでいた場所もあった。

　きっとこの道を歩く人は少ないんだろう。聞いた話では、島の人は島内を歩いて移動する事はほとんど無いのだという。

■どうにか空港に到着

14:43　空港に到着

　水はとっくに底をついていた。汗の出も悪くなってきた頃やっと多良間空港に到着した。歩き始めてから3時間、僕の多良間島紀行は終わった。

帰りの飛行機まであと2時間。冷房が効いた空港で休む事にした。