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ひらめきの月曜日
 
ホルスタイン専門誌
専門誌は奥が深い。


世の中には数多くの雑誌が発行されていて、書店などの店頭をにぎわせております。

その中には、私のおよび知らない、存在すら知らないところで発行され、愛読され、活用されている雑誌も多々あります。

「自分の知らない世界」に関心をもちつつも、なかなかふだんの生活圏では目にかかれない、専門誌。
今回偶然目にした看板から、ある北海道らしい専門誌の存在を知り、お話をうかがいに行ってきました。

(text by 加藤 和美



■出会い そして疑問

ある日車を走らせていると、こんな看板が目に入った。


「ホルスタイン・マガジン社」


ホルスタイン(乳牛)の雑誌?
どんな本だろう、見てみたい!!

こんな気持ちから、ホルスタイン・マガジン社さんのドアを叩き、
月刊「HOLSTEIN」を1冊購入させていただいた。
いきなりあらわれて、新刊を1冊買って帰る女。
ホスルタイン・マガジン社のみなさんは不審に思われたかと思う。
みなさん、すみません。


そして帰宅後、月刊「HOLSTEIN」を広げてみると、やはり中には乳牛、乳牛、乳牛…と、期待にたがわず、ホルスタインがズラリ。

乳牛の飼育に関する専門的な情報が掲載され、ホスルタインの雌牛・雄牛のデータベースがぎっしり。誌面のあいまには、乳牛や、乳牛に関する器具の広告が載っている。


こちらがホルスタイン・マガジン社さん発行の、ホルスタイン専門誌「HOLSTEIN」。
たくさんのホルスタイン情報が掲載されている。
広告もやっぱりホルスタイン。力強い!

あっちもこっちもホルスタイン…。
専門誌なのだから当たり前といえば当たり前だが、なにせ初めて見るものなので、素人の私は大興奮。

が、しかし。

読み進めていくと、「HOLSTEIN」誌のあちこちに、専門用語、記号、数字たちが飛び交う。


雌牛情報のページ。もう、素人には何がなにやら…。

「泌乳力」というのは、お乳が出る量のことだろうか。
「産次」って何のことだろう。
「偏差値」って、牛にも偏差値があるの?
牛の写真の下にズラリと並ぶ数字の列は何?
数字の最後についてる「ET」って何?

…と、あこんなぐあいで、素人にはさっぱりわからない言葉がズラリ。
この暗号(?)が読み解きたい…!

そして私はふたたび、発行元のホルスタイン・マガジン社さんをたずね、直接お話をうかがうことにした。


こちらがホルスタイン・マガジン社さん。
牛の飾りが非常にかわいらしい。
ホスルタイン・マガジン社の小川さん(左)と、今回お話をしてくださった森田さん(右)。
社員の粕谷さん。牛の画像の加工をして、「HOLSTEIN」誌の表紙や、カレンダーなども作成している。
同じく野崎さん。牛の膨大なデータを、パソコンに入力している。かなりの情報量…!

 

■なぜ月刊「HOLSTEIN」は生まれたのか

お話を聞かせてくださった森田さんは、ホルスタイン・マガジン社社創立メンバーの一人。

そもそも、どうしてホルスタインの専門誌をつくろうと思ったのか。
当時のことをたずねてみたところ、月刊「HOLSTEIN」を創刊したのは、なんと1969年6月。
37年ものあいだ、ホルスタイン情報を発信しているということになる。


森田さんのお話によると、当時アメリカにはホルスタインの専門誌があったが、日本にはなかった。
そこで、日本でホルスタイン専門誌を創刊すれば、酪農に関係する人たちの役に立つのではないかと考え、創刊にいたったとのこと。


創刊当時(1969年)の「HOLSTEIN」誌を見せていただいたが、牛の体型が今と違うのに驚いた。
現在のホルスタインよりも全体的にずんぐりした印象がある。
それだけこの37年間に、日本でもホルスタインの品種改良が進んだというわけだ。
ホルスタインの写真で、37年間という年月の長さを感じた。


当時、外国のホルスタイン専門誌を参考にしていた(写真は現在のもの)。
記念すべき創刊号!
今から37年前に発行された。

 

■ホルスタイン写真のひみつ

森田さんに月刊「HOLSTEIN」を制作するうえで大変だったことを聞いたところ、一番大変なのは「牛の撮影」。

広い北海道のこと、遠い牧場へ取材に行くのが大変なのかと思いきや、「牛の撮影」が大変というのは、どういうことだろう。

くわしく聞いてみると、この1枚の牛の写真で、牛の評価に大きく影響するので、決まったポーズでキレイに撮影しなければいけない。


これがお産をした雌牛の、定番ポーズ。
後ろ足を前後に開くのと、前足を少し高くして、スタイルを良く見せるのがポイント。
この牛は、今年の全道チャンピオン。さすがに体型、毛並みが美しく、お乳も立派!

なぜこのようなポーズをさせるのかというと、これには深い理由がある。
乳牛の最大のポイントは
「たくさん乳を出すかどうか」
これにつきる。

乳をたくさん出すかどうかは、骨格、皮膚、乳器(乳房)を見ればわかるらしい。

そして、乳器を見る際に大事なのは、乳器のつき方で、特に見るポイントは、乳器の後ろの部位だそうだ。


1930年代に、乳器をよく見せるため、後ろ足を前後に開かせる、このポーズが定着したとのこと。


なお、未経産牛(まだ子供を生んでいないので、乳房が大きくない雌牛)については、後ろ足を開かせずそろえて、姿をキレイに見せるのがポイントだとか。


ホルスタインの品評会では、美しさも重要な要素であり、美しいほど点数も良い。
そのため、見た目の美しさにも、細心の注意が払われているのだった。

何気なく眺めていたホルスタインの写真に、こんな秘密が隠されていようとは。

あらためて見ると、どの牛もまったく同じポーズだった。
足元に注目。ちょっと前足を高くしてあげると、より美しい。
乳牛のよしあしを見分けるポイントは、乳器(乳房)の後ろ側!

こちらは雄牛。頭を上げて、下半身より上半身の方を高くすると、かっこよく見える。

森田さんによると、「じっとしている牛の方がまれ」とのことで、ほとんどの牛はウロウロ動きがち。

そのため撮影時には、まず人が牛の顔をしっかり保持して、他の人が数人がかりで牛の足を動かし、ポーズを決める。


が、しかし相手は牛。
人間が頼んだポーズをとりつづけてくれるはずもなく、牛が止まっている一瞬で撮影するという、高等なテクニックが必要なのである。
過去にこの写真1枚撮るのに、2日かかったこともあるという。


ちなみに現在では、数人がかりで牛を押さえて写真を撮り、あとで人間をフォトレタッチで消すという方法もあるらしい。


そして驚いたのが、乳牛でも「調教」が必要なのだそうだ。
暴れまわっていたのでは、共進会(牛のグランプリ)で上位にいけない。


乳牛はとにかくお乳がたくさん出ればいいものだと思っていたが、乳牛の世界は、予想以上に奥が深い。


そしていよいよ、ホルスタインにまつわる暗号(?)の解読方法を教えていただくことに。

 

■ホルスタイン情報を読み解く!

さて、私が気になってやまない、「HOLSTEIN」誌の読み方を教えていただいた。

まず、誌面の後半に載っている、雌牛の情報。
素人目には、カタカナと数字の羅列にしか見えないのだが…。

 

 

たとえば、上記のように、雌牛の情報が書いてあるとする。

これだけではさっぱり意味がわからないが、教えていただいたことを元に解説をつけてみると、こうなる。

 

 

カタカナ部分は牛の名前かなぁとは思っていたが、意外なルールがあった。


そして、聞きなれない「ET(受精卵移植)」という言葉。
これは、優秀な雄牛と雌牛の受精卵を、母体になる雌牛に移植して産まれた牛のこと。

ズラリと並んだ情報を見ると、父牛のほとんどに「ET」がついているので、受精卵移植で生まれた牛ばかりということになる。
ETは雄牛に多いが、最近ではETの雌牛も増えているという。
雌牛が生涯に子牛を産む数は限られているので、こうやって優秀な牛を増やしているというわけだ。


さて、そして問題は、後半の数字たち。
こちらも解説をつけてみた。

 

 

後半の数値は、その雌牛の情報だった。
年令などに加えて、どのくらい優秀なお乳が出るのかが必須情報だということがよくわかる。

何気なく見ていたが、聞いて驚いたのが、「乳量」。
単位はキログラムなので、この牛は年間11806キロの乳を出している、ということになる。

年間1万キロ以上!?

1キロが約1リットルなので、年間約1万リットル、と言い換えてもいい。
1リットルの紙パックで想像すると、1万本…。
あらためて言われると、驚きの数字だ。


そしてさらに驚きなのが、年間2万キロを出す牛が、全国で200頭記録されているという。
なおかつ、過去にただ1頭、年間約3万キロの乳を出している牛がいるそうで…。ここまでくると、もうただ「すごい!」としか言いようがない。


ふだん何気なく飲んでいる牛乳だが、乳牛たちがいっしょうけんめい(?)出していると思うと、急に頭が下がるような気持ちに。


1頭の優秀な乳牛が1年間に出す乳は、この紙パック1万本以上…。

また用語としては、「産次」はお産をした回数のことで、「偏差値」は情報から計上した数値のこと。

人間だけでなく、牛の世界にも偏差値があるのだ。
牛も大変だ。


これで皆さんも、ここに載っている情報が把握できるようになったはず。

ホルスタインを見る目が変わりました

競馬のサラブレッド同様に、奥が深かったホルスタインの世界。
今回紹介した情報以外にも、たくさん珍しいお話をしていただき、気分だけはすっかりホルスタイン通になったつもりでいます。

日々何気なく牛乳を飲んでいましたが、これをつくりだすための技術や労力をあらためて知り、牧場でぼんやりエサを食んでいる乳牛たちにも頭が下がる思いです。

 

ところで、この取材の直後に会った友人が着ていたTシャツ。

ちょっとプリントがはげておりますが。

ひと目見るなり、友人に言いました。

私「この牛、オスだね」
友人「何でわかるの!?」
私「体型とポーズからすると何十年か前の牛じゃないだろうか」
友人「何でわかるの!?」

驚いた友人を見て、ひとりで悦にひたりました。


取材協力、写真提供:
(株)ホルスタイン・マガジン社

〒062-0005 北海道札幌市豊平区美園5条3丁目3-11
TEL:011-812-3565
FAX:011-812-5113
URL http://www12.plala.or.jp/holmaga/


 

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