僕が欲しいのはこんなバナナじゃないのだ!
皆さまは最近真っ黒いバナナを見たことがあるだろうか?
僕はない。
しかし、僕が子どもの頃ぐらいは近所のうらびれた八百屋に行けば、腐りかけの真っ黒いバナナを販売するおばあちゃんのお店があった。
いつの間にかそういうお店はなくなり、ある八百屋は垢抜け、ある八百屋はつぶれ、ある八百屋はスーパーになり、もう誰も黒いバナナなんて販売しなくなった。
もう一度黒いバナナを食べたい。そう思った僕は居ても立ってもいられず、外に飛び出した。
(text by 梅田カズヒコ)
まずは近所の八百屋へ
時代は移り変わっていくものだと思う。 だから、変わることをむやみに否定するのは違うと思う。
しかし、時代に取り残されていく文化があったとしたら、それを懐かしむ自由が僕らにはある。
だけど誰も真っ黒いバナナを売る八百屋を懐かしんだりはしない。だから僕が懐かしもう。
『さあ、出て来い! 真っ黒いバナナよ!』
と息巻き地元である下北沢の八百屋を徘徊したものの、普段訪れる下北沢の八百屋はやはり皆まっ黄色のバナナを販売していた。
南口に自然食品が売りの生鮮品を販売するお店があるのを思い出し行ってみた。自然食品ってことはあれだ、おおざっぱに言えば虫食いがあったり黒ずんでいたりするんじゃないのか?
先ほどのお店よりやや黒い部分があるもののどう見ても黄色のバナナである。では下北沢よりややうらびれた感のある東北沢の駅前の八百屋はどうだろう? 行ってみた。
東北沢の八百屋にいたっては黄色を通り越してむしろ白い。レモン色、とでも形容すべきか。
グラデーションの表の外側に位置する色合いになってしまった。
やれやれ、これだから都会ってやつは。
では、東京の中央線を代表する下町、高円寺に向かってみよう。なんとなく真っ黒いバナナがありそうな街だ、と言ったら地元の人に怒られそうだが、まあちょっとだけ期待しつつ向かってみることにした。
しかし、中央線を代表する下町のバナナは袋になんかくるまれ、おしろいでも塗ったかのようにきれいな色だった。
南口は土地勘がないせいか八百屋が見つからなかったのでスーパーで調査した。こちらも立派な黄色のバナナ。
どうやら高円寺には真っ黒いバナナは売ってないようだ。
どうしよう? やっぱり山の手じゃなくて下町を探すべきか。
中央線、山手線と乗り継いで、下町を目指すことにした。
上野に到着。