●疑似その1:実感がない
天狗や人魚や河童のミイラ、心ときめく物体を目前としていた。ネットや書籍でしか見たことのない「百鬼夜行絵巻物」や「河童・川太郎の図」もある。あの本物が目の前にあるのに、さほど高揚もコーフンもしていない。これはおかしい。
七つのレンズを通して化け物を見ることはできるのだが、どうもこう実感がわいてこない。シラフの私とはあきらかにちがう。
"ゲロを吐きながら終電のために突っ走る"という神業サラリーマンを目撃したことがあるが、あれも「吐いている実感」はないとみた。
つまり、「酔ったら実感がわかなくなる」は成り立っている。
自家製酔いメガネ7、成果はあるようだ。
●疑似その2:わからない
化け物がさらに化け物らしく見えるのではないかと期待していた私だが、実際のところどうなのかわからなかった。だって正常時がわからない。
以前開催された「ひとりだけ飲み会」での高瀬さんは、なにか話そう話そうとしてわからなくなって困ってばかりだった。
なにかメモに残そうと必死に書いていたがその文字は暗号なのか象形文字なのかそれもわからなかった。
そうだ。「酔ったらわからなくなる」も成立するみたいだ。
●疑似その3:カニ歩き
うす暗い会場で、私はカニ歩きをしていた。ものすごい混雑ぶりで、順番に並んでゆっくりと見て歩くのだ。
私の前には妖怪(好き)一家がいらっしゃった。
お父さまがやたら化け物に明るいらしく、研究者か、でなければ本物の化け物かと思うくらい博識な方だった。
化け物豆ちしきを娘たちにいちいち発表しており、解説文を読むことができない私はおかげさまで耳から情報を入手することができた。そのためにはカニ歩きが一番有効だったのだ。
千鳥足は酔いのまわった人の専売特許だろう。少しちがうがカニ歩きもそうとう酔った状況に近いのではないだろうか。そうか。「酔ったらカニ歩き」か。
自家製酔いメガネ7、ほれぼれするほど大変な成果だ。 |