人体の不思議:目が慣れる
足元を懐中電灯で照らしても、3mほど先はもう影もかたちも見えません。
闇に怯える間もなく、はぐれないようについて行くのがやっとだった私たちも、林道が終わる頃にはすっかり目が慣れて、人体の不思議に唸りました。
「月明かりの、なんと明るいことよ!」
これがウワサのムーンライトウォークでしょうか。
そして山へ。道なき道へ。
ゆるやかな林道がおわるころには鼻歌もでるほど余裕がでてきました。
天笠山の山道へ足を入れたとたん、己の体力に対する恐怖が襲いかかります。日頃の運動不足に加え、木々に覆われ月明かりも届きません。
急斜面があっても、すぐにはそれとは気付かないおそろしさ。今度は本当に手も足も使って山を登ります。こんなところでムーンウォークではなくスパイダーウォークをするとは思いませんでした。しかし急いでなどいられません、慎重に、慎重に、おいていかれてもいい、滑り落ちるよりは。
「ああ、もう、ダメだ」「私ダメだ」「もう、40才、だから、ダメ」といちいち同情を引くようなセリフを、ゼエゼエという息と一緒に吐きだしました。人の声というよりも、獣のうなり声のような私の弱音とゼエゼエだけが、ただむなしく山に響いている気がしました。
ぽっかり浮かぶような夜景
これ、いつまで続くんだろう……酸素缶持ってくればよかった……ああ酸素缶……などと思った瞬間、天の声が聞こえてきました。
「山頂でーす」
え?もう着いたの?こんなに早く?なーんだ。
人体の不思議と、己の単純細胞の神秘を痛感した山頂に到着です。ああまぶしい! |