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ロマンの木曜日
 
風で、絵を描いた
風か……。


チンパンジーの描いた絵が、288万円で落札されたのをご存知でしょうか。ちなみに過去、私が作った作品のなかで一番高く売れたのが5000円(一週間かけてつくった豆本)でした。

サル、象、イルカ、ネズミ、カラス、そしてウジ虫……。今、生き物たちが描いた絵が、ひそかなブームを呼んでるのだそうです。

むしろ描いている意識があるかどうかさえ怪しいサルの絵が、私の作品の5760倍もの額で取引されている。 サルに生まれてくれば良かったです。

情報社会に生きている我々は、正真正銘の「意味不明」に飢えているのかもしれません。わけがわからなければわからないほど、もてはやされるとみました。

しかし残念なことに、うちのモッシュくん(犬)や、息子の絵が、288万に対抗できるとはとても思えません。

そこで、自然界代表の「風」で、絵を描くことにしました。
いや描いたというか、描いてません。

(text by 土屋 遊



芸術は物干竿から

当日の風速2.9m/s、最大風速5.9m/s、最大瞬間風速は15.9m/s。北西の風。

物干竿にヒモを吊るし、その先に「ペン」をつけておきます。風が吹くたびにゆらゆらと揺れるペン先が、モダーンアートを形成してゆくのです。

「風の描く絵」とはいえ、風そのものが意思を持って描いたわけではないことはみなさんおわかりだと思います。でも、詐欺でもイカサマでもありません。

参考にしたのはウジ虫絵画。
ボディに絵の具を塗られた彼らが、キャンパスの上を縦横無尽に動き回る。ただそれだけで「ウジ虫が描いた絵」と言えるのですから今回私が「風が描きました」と断言したとてウソだとは誰にも言えないのです。


これだけでアートと称してもよいのが現代美術なのです。

 

大自然に立ち向かう

我々が相手にしているのは自然です。都会と言えども大自然。思うようにいかなくて当然でした。

風が、吹かないのです。体感的には無風でした。

屋上提供者であり友人の伊藤さんが「いいコト思いついたっ」と両手にうちわを取り出してきましたがそれは反則です。伊藤さんはある取材がきっかけで、スキさえあればどこでもいつでも隠し持っているうちわを取り出してくるので油断なりません。

さらに1時間後、すっかりペン先が渇いてしまいました。

 

筆ペンで水墨画に挑戦する

油性マジックですからペン先が固い。これもなかなか描けない要因かもしれません。
そこで、先のやわらかい筆ペンでリベンジすることにしました。成功すれば「風が描いた水墨画」にもなりますし、モダン率もぐんとあがります。


あやつり人形のようです
吊るしあげた瞬間から、風の息吹を感じました

 

偵察にはいります

ヒモの長さ調節も肝心な作業でした。

地面(キャンパス)ギリギリだと、動くたびに浮いてしまいうまく描けません。逆に地面にしっかりと密着しすぎると、今度は微風では動かなくなってしまう。そうカンタンに芸術は生まれないことを思い知りました。288万円のアートに対抗するためには、これくらいの苦労を惜しんではいけません。

筆ペン購入に走ったり、商店街でたいやき食ったりした時間のロスが幸いしたのか、今度はよい風が吹いてきたようです。
あとはひたすら風の動きに集中して、交代でペン先を見守ることにしましょう。


生きているかのような動きを見せるやつら

当日は北西の風。
三本の筆ペンがいっせいに同じ向きに動くものだと思っていましたが、そうではありませんでした。

じっーっとながめていると、まるで意思があるかのようにそれぞれ勝手に動きまわります。

筆が小刻みに動いたり、半周くるくるまわったり、いきなりフワーと逃げそうになったり……。


かなり身勝手です。
オマケ:カラスの鳴き声

個性的な彼らでしたが、やはりただ傍観しているとつい288万が頭から離れてしまいます……。


寝てた。


 

正しい風との向き合い方

「だいたい風に絵を描いてもらうのだから、感謝の心を持たなくてはいけないんですよ」
友人の伊藤さんに説教されてしまいました。
「ありがとうという感謝のこころっ!忘れたの!?」

これは我々の母校(中高)の教え『五心』のひとつで、ほかには「はいという素直な心、私がしますという奉仕の心、おかげさまでという謙虚な心……」などがありました。月曜の瞑想朝礼では、みながこの五心を言わされたわけですが、全校生徒で絶叫してみると意外とすっきりとした気分になれたものです。


「ありがとう……」

 

そういえばあの「五心」。
学園創立者のお言葉だと信じていましたので、卒業後に土産やで「五心湯のみ」(五心が書かれた湯のみ茶碗)を見つけたときはいささかショックでした。場末の温泉地でした。


 

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