デイリーポータルZロゴ
検索天気地図路線このサイトについてランダム表示ランダム表示


ロマンの木曜日
 
昭和建築を左官した

左官屋前夜

はじめての左官体験を、私はものすごく楽しみにしていました。
なにかに誘われると「あーその日は左官屋なんだよねー」とお断りするのがうれしくてしかたなかったです。 あまりにもはりきりすぎて前夜はタフマンとか飲んだのに、起きたら集合時間をとっくに過ぎていたので「申しわけありません」とメールをしましたが神田ぱんはどうでもいいふうだったのでよかったです。むしろそれどころじゃない感じ。幸いでした。


塗装用ローラーで力を入れて塗る作業
コテ。町屋の荒物屋はホームセンターの半額以下の値が。
素人ならエッジ使いをマスターしよう

みなが塗りやすいように、前日に夫妻で下塗りをやっていたとのこと。木の部分を養生(ビニールテープを貼る)したり、下地剤を塗ったり。実はこの作業が一番大変だったようで……あーよかった。


左官八人衆が(やっと)そろいました

左官チームは全部で8名。
あるじのマクラさん神田ぱん夫妻とマクラさんの会社の工場長テラマエさん。そして三人娘のナオ・カオ・アイちゃんに、友人代表えりこさんと遅刻常習者の私です。

私は方々に「左官屋をやる」「漆喰で壁を塗るのだ」と宣言してきましたが、じっさいに塗ったのは"タナクリーム(生石灰クリーム)"だそうです。でも「タナクリームを塗るのだ」ではいまいち職人としてカッコつかないような気がしたので漆喰でいいと思います。1缶7800円で、5缶ほど使用しました。

新たに缶をあけるたびに、娘たちが「ハハハ、肥だめみたいー」と毎回言いあっていて微笑ましかったです。箸が転んでも笑えるお年ごろ。純白のタナクリームが「肥だめ」に見えたとしてもおかしくはないでしょう。肥だめ娘です。

でも中年の私がまっさきに目についたもの、それは「肥だめ」ではなく職人仕様のコテでした。でもコテ板は100円ショップのちりとりで代用していました。この辺りはまさしく「貧乏な感じ」の必須アイテムといえます。


漆喰(タナクリーム)は重かった

コテ板にタナクリームを乗せるとずっしりと重く、すぐに「筋肉痛」という未来予想図ができあがりました。コテにクリームをつけて壁にのせるのですが、すぐにボタボタ垂れてしまいます。最初はそれをすくいあげるのに必死です。
いつかテレビで見た、職人のワザが頭にちらつきます。広い面でうすく均等に伸ばすことに時間を費やしましたが、皆に絶賛されていた次女カオちゃんの匠のワザを盗み見し、エッジで擦るように塗るとよいと気付いたのはもう終わりのほうでした。

 

高いスペースはとてもつらそうな作業なので私はやりませんでした。
隅っこもむずかしいので若人におまかせします。熱中するえりこさん(右)と私。

 

これが39年築の家。その歴史を体感する

赤の他人でありながらなぜか私がじまんしたい、家のあれこれを紹介させて頂きたいと思います。
町屋生まれの町屋育ちである元家主の老夫婦。遠方に嫁いだ娘さんのもとで暮らすため、家と土地を売却なさったそうです。彼らから譲り受けた家具も少なくありませんでした。大切にしていらしたのでしょう、昭和の匂いそのままが残っているようです。


レトロな足踏みブラザーミシン。この他に三面鏡の化粧台もゆずりうけました。(高値で売れそう……)
全貌でなくて残念ですが、私が悲鳴をあげたほど羨んだ物干し台。ここで野良猫を相手にギターを弾くのが夢です。
一階の奥が仏間。私たちが合宿するさいにはこちらを寝室にするつもりです。
T字路の突き当りに魔よけに取り付けられるという「いしがんとう」。門柱の一部として設置予定

 

グチャグチャ壁と化す10分前の写真
立ち飲みカウンターの下、壁記念碑。最初は手形を残そうという話でしたがうまくいかず

「もっとグチャグチャに!」

昭和建築ツアーをしている間に、ほぼ作業完了の様子です。

多めに購入しておいたタナクリームの缶が余っています。とっておいてもムダ。壁に塗らなきゃただの(本当の)肥だめです。階段や二階(マクラさんの自室)も塗ることになりました。 「家の顔」といわれる玄関でないだけでもとても気が楽です。

そもそもマクラさんは塗装半ばからなぜかグチャグチャに塗ってほしいことをアピールしていました。私は、他人である私たちに気を使っているのだろう、「気遣いの人だ」と思っていましたがどうやらそれは見事な本心だったようでさかんに「もっとグチャグチャに!」とか言ってました。

二階の自室などはグチャグチャにすればするほど高笑いをするので少々心配をしたほどです。最後には「投げ塗り」というワザも開発していました。

昭和の家族の姿です

家族全員が適当な性格らしく、失敗しても塗り残しがあっても「いいよいいよ、なんでもいいよ」と言ってくれるので本当に楽しく作業をすすめることができました。 人類のなかでもかなりいい加減な性格だろうと思っていた神田ぱんが、オカンモードで一番こまかいほどだったのが驚きです。 一家の懐の大きさはすばらしい。証拠もあります。ごらん下さい。

 


寛容なファミリーにまじってえりこさんと私も、永遠の名を刻みます。

 

老後は安泰、の予感

玄関に掲げた私の名。
これでもう、いきなり夕飯中に突撃することも、なんの前ぶれもなく宿泊することも、ああそうだすでに勝手口も確認済みですから、お留守の際はあの裏口から侵入すればいい、すべて堂々とできるはずです。なんせ玄関ののれんをくぐればすぐ、私の名も刻まれているのです。

警官に不審者あつかいされても、「ほら、これ、直筆のなまえです」と指さしながら見せつけることができます。いやむしろこうなったら不審者扱いされたいくらいです。

みんなが嫁に行って独立したら、あの家に徐々に住み着いていって、年寄りの茶飲み集会所にしたいと思います。本気です。

引越というよりゴミ出し

改築中の町屋ハウスから、神田ぱんが泥棒してきた古新聞。畳を上げたら、昭和42年の新聞がおいてあって、工事の人に見つからないようにコッソリ持ってきたそうです。

「怒られないかドキドキしたが、私の家なんだから、この新聞込みで買ったんだから、私のもんなのよ!と言い聞かせて盗んだ」とのこと。ばかげてますね。

サウナ&クリニックの青山「リバース……」クリックで拡大

彼女は「散歩の達人」という雑誌のライターをしていて、珍妙で地味な祭りをねり歩く「東京ぱん祭り」を連載しています。DPZの記事も「昭和」をテーマにしたものが多いですね。会うたびにレトロな場所や怪しい路地裏をゴーインに連れまわされ、私はいつも筋肉痛……。

さて。一家の転居は来週のクリスマス直後。
どこへでかけてもムダでおかしいモノばかり盗んだり拾ったり買ったりした因果が報い、現在は何十時間もかけてゴミ出しに取りくんでいます。「今、ゴミゴミ詐欺の電話が来たら、きっと振り込んでる」ほど弱っております。ゴミゴミ詐欺の皆さん、今がチャンスですよ。


 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ

 
Ad by DailyPortalZ
 

アット・ニフティトップページへアット・ニフティ会員に登録 個人情報保護ポリシー
©2012 NIFTY Corporation