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ひらめきの月曜日
 
豚で豚を作る


もっとも豚の原型から遠ざかった形態

これほど豚肉について考えたことはないと思う。

11月、12月と、2ヶ月に渡って豚肉部として活動を続けてきて、いま、改めてそう思う。

私は普段、自分が口にするものについて、あまり深刻に考えたりしないタチだ。「ここにあるから、これを食べる」。それだけだ。それだけで生きてきた。しかし今、あらためて「きちんと考えておいた方がいいんでなかい?」と、どこからともなく声が聞こえる。

亥年ゆえの空耳だろうか。イノシシが「もうちっと豚肉について考えてくれよぉ」と言っているのだろうか。

ならば、ちっと考えてみよう。

高瀬 克子



で、豚で豚とは?

私は普段、真面目に誠実に日々を過ごそうと思っている。もうすぐ四十路に手が届こうという今も、その思いに変わりはない。

そんな私がタコウィンナーを作って、誰からも責められないのはどうしたことだろう…と思うのだ。だってこれって、よく考えたら、かなりふざけた献立と言えるんじゃないか?


タコとして食べられる豚の立場は。

もしも私が食肉用の豚肉として生涯をまっとうしようと気持ちを引き締めているとして、最終的に「おまえはタコの擬態をさせられる」と知らされたとしたら、どんな気持ちになるだろう。

正直、やりきれないと思う。

しかしこのことについて、誰も「不謹慎だ」とか「ふざけるな」という意見を寄せる人はいなかった。

さらに、どうかと思わされた件がある。どうか皆さんで見ていただきたい。豚の店でもらったカレンダーだ。


「ぼく、10人兄弟の末っ子だよ! 今はお母さん豚のおっぱいが大好き!」
「食べざかりの今は、トウモロコシが大好き!」
「みんなと一緒に稲刈り。なんだかホッとするね」
「大「みんなと一緒に稲刈り。なんだかホッとするね」きなおにぎり! お米っておいしいんだね」

…いやいや、舌なめずりしてる場合じゃないぞ。きみ自身が「おいしいんだね」と言われる立場だ。分かっているのかい?

共食いキャラクターも真っ青な状態ではあるが、私はこのカレンダーが大いに気に入っている。部屋の目立つ場所に貼ったくらいだ。

世の中、これが許されるのならば、私がやろうとしていることに、誰が口をはさめるだろうか。


豚ひき肉に、しめらせたパン粉を混ぜて卵を入れ、
クッチャクッチャとよく混ぜます
ボッテリと重いかたまりが出来ました。
それを成形していきます。
ここまできたら分かるでしょう?
そう、豚です。

豚を作ったつもりがカバになってしまった。太りすぎのムーミンとも言えるか。

気にせず、焼いていこう。


崩れやすい状態の肉塊を焼いていきます
焼き色をつけたら、オーブンへ。
首、完全に埋まる。
表面はカリッと焼き上がりました。

私は普段、真面目に日々を過ごしている。あ、これは前も言いましたか。

とにかく、豚を豚として食べることが、どれほどきちんとしたことかお分かりいただけたのではないかと思っているのだが、どんなもんでしょうか。

少なくとも豚肉に対して、タコの形を模するよりは誠実な対応をしたつもりだ。そして豚肉は、今日もおいしかった。それがなにより大事だろうとも思う。

豚肉が好きです

豚肉部をやっている間、いろいろな意見を頂戴した。「私も豚が大好きです!」という意見がほとんどであった。

本当に、豚っておいしいですよね。

「いただきます」は「あなたの命をいただきます」を縮めた言葉だと聞いたことがある。「あなたの命を無駄にしません。おいしくいただきます」

なんだかんだ言って、私に出来ることは、それしかないと思うのです。

今日も、いただきます。

 

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