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ひらめきの月曜日
 
夜中にしか開かないパン屋があった!

翼よ、あれがパン屋の灯だ!


東京は広い。いろんなお店がある。

なんと、夜中にしか営業しないパン屋があるらしい。
夜中1時から3時まで。わずか2時間だけの営業だ。

なぜ夜中だけしか開いてないのか?
どんなお客さんが買いに来るのか?

今日は、一部の間では有名な夜中にしか営業しない謎のパン屋『キクヤベーカリー』に行ってみることにした。

夜中にしか開かない謎は解決するのか?

(text by 梅田カズヒコ



深夜0時55分 東急祐天寺駅

『夜中にしか開かない』というイメージから、新宿や渋谷など、夜中までたくさんの人があふれるような街にあるのかと思いきや、件のパン屋の最寄り駅は、典型的な住宅街、東急祐天寺駅だった。


終電がいったあと。駅の明かりが消えた。

駅前に人影はない。タクシーが何台か止まっているだけだった。正直、今から営業するパン屋があるとは思えない。僕がパン屋のご主人と友達だったら「売れないからやめておいたほうがいい」と注意していると思う。ごめん普通の考え方で。

しかし、ライターとしてはがぜん「なぜこの時間にお店を開けるのか?」というところが気になってきた。現場へ急ごう。

 

お店に到着


あ、これかな?

 

現在時刻1時2分。(手元の携帯で確認)
確かに夜中に開いているパン屋があった。

営業間もないお店に到着

駅から連なる商店街の一角に、煌々と輝く一軒のお店。暗闇の中で文字が読みづらいが、確かに『焼きたてのパン キクヤベーカリー』との文字が。

もっと異彩を放っているのかと思ったら、どこの商店街にもありそうな非常にポピュラーなパン屋である。違うのはただ一点。今が夜中の1時で、通常のパン屋であればシャッターを下ろしている時間帯であるというだけだ。

そして驚いたのはこんな時間なのに人が何人か居るということだ。目算で三坪ほどの売り場には十種類程度のパンと3人のお客さん、そしてご主人とおかみさんが居た。

あたかもお店の中とお店の外にはまったく世界が広がっているようだった。ひょっとするとここはパラレルワールドの入り口かもしれない。扉の向こうは不思議の国かもしれないのだ!

なんてことを思いながらシャッターを切っていたが、別のお客さんに不審者がられていたので、くだらない妄想をやめさっそく中へ。

 

お店の中もいたって普通


鏡に撮影中のライターが入っているが許してくれ。店内は狭くて、どうしても鏡が映るのだ

いらっしゃいとやさしい声で迎えられた。パラレルワールドどころか、平均以上に平均的な内装だった。

 

撮影を許可してくださったやさしいおじさん。

手作りの感じがたまりません。ポップが朴訥なのがまたよし。エピソードも含め『散歩の達人』とかにでてきそうですね。

さっそく店主に営業の謎を聞く

梅田「ここの営業時間って何時から何時ですか?」

ご主人「最近は1時〜3時までの営業です」

梅田「ここはなんで夜中にしか開いてないんですか?」

ご主人がちょっと返答を考えていると中のおかみさんが言った。

おかみさん「一生懸命パンを作っていたらこのぐらいの時間になっちゃうのよ」

意外な答えにとまどった僕。

梅田「夜遅くなのにお客さんがやってきますが、お客さんは近所にお住まいのかたが多いですか?」

ご主人「うーん、さあね。お客さんに尋ねたことないからわかんないな」

 

話しをまとめると……

おじさんやおかみさんの話。そしてネット上に散見される話しをまとめるとどうやらこういうことのようだ。

  1. かつてご主人は昼間、ホテルに卸すパンを作って配達に行っていた。
  2. 戻ってきてまた仕込みなおしてパンを焼くとどうしてもできあがるのが夜中になってしまう。
  3. そこで夜中だけ限定でお店を開けることにした。
  4. 現在は腰を悪くしてホテルの仕事はやめた。
  5. でも、営業時間は今までどおり開けることにした。

ということだ。いづれにせよ、ご老体で今日も僕らのためにパンを作ってくれるとはうれしいじゃないか。


パンを買って食べることに。

ご主人と話し込んでいたらおなかがすいた食いしん坊な僕は、とりあえずパンを買ってお店の近くで食べることにした。


お父さんに怒られて家出中の人ではない。これでも社会人だ、ゴミはちゃんと持ち帰るぜ。

夜中には油っこいと感じつつも、スパゲティの魅力に負けて買ってしまったスパゲティパン。うまい

うまいぜ、キクヤベーカリー!

外は寒かったし、写真が撮れないので、その後家に持って帰って食べました。

スパゲティパン。給食などで出るようなコッペパンに、これまた給食ででるようなスパゲティをはさんだ感じ。懐かしい味がします。

あんぱん。いかにも手作り、といった感じのぼこぼこ感がたまらない。

メンチカツが挟まったパン。キャベツがたまねぎがたくさん入った具沢山。ちょっぴりコショウが効いていて、とってもうれしい。

現地に行かないとわからないこと

キクヤベーカリーは個人のブログやテレビで何度か見て、行きたくなった。
テレビでは「夜中にしか営業しない」というところだけがクローズアップされていて、店主の人柄やお店の雰囲気は伝えていなかった。テレビとはたいていそういうものだからしかたない。

ただ、実際に行ってご主人と少しの間だけだがお話すると、「夜中にしか開かない」というのはお店の個性の一部でしかなくて、もっといろんなことが見えてくるなーと感じた。ネットではクリームパンが話題になっているようだが、クリームパン以外もうまいよ。

今日もいい体験ができて幸せだ。パンがうまい。
そしてご主人、身体に気をつけておいしいパンをいつまでもひとつよろしくお願いします。


キクヤベーカリー

目黒区五本木2−13−3
TEL:03−3712−7408
営業時間:1時〜3時(ご主人の体調によって変更のおそれあり)

※老体のご夫婦が丹精込めてパンを作ってらっしゃるので、くれぐれもお店にご迷惑のかからないようにしましょう。


 
 
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