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ひらめきの月曜日
 
21世紀のお伊勢参り


気分だけは江戸の人

「伊勢に行きたい伊勢路が見たい、せめて一生に一度でも、ヤートコセーのヨッコーイナ♪」と唄に歌われるほど、江戸時代の庶民にとって、お伊勢参りは夢の一大イベントだったらしい。

長屋に住む弥次さんと喜多さんは家財道具を売っ払って旅支度をしたというが、時は遷って2007年。平成の世に住む私は、何も売り払わずとも伊勢に行くことが可能だ。とりあえず電車賃さえあればいい。

携帯の着信音を「コメディーお江戸でござる」のテーマ曲にしているほど江戸の文化に憧れを持ち、大学でも日本史を専攻した私だが、ただ憧れっ放しなのもシャクだ。ここらで現代の恩恵というものを噛みしめてみたい。

というわけで、高度に発達した交通手段を駆使して「日帰りで伊勢参り」にチャレンジしてみました。

高瀬 克子



平成でも朝は早い

東京から伊勢に行くには名古屋まで新幹線を利用し、そこから在来線に乗り換えるのが便利で早い。日帰りだってラクラクだ。

しかしいくら新幹線が速くとも、伊勢での滞在時間を考えると、出発の時間はなるべく早く設定したほうがいいだろう。トンボ帰りではあまりに悲しい。

というわけで、始発の東海道新幹線に乗るため午前5時前に家を出た。江戸の人も旅立ちの朝は早かったらしいが、その点では平成の人も負けてない。


東京駅発、のぞみ1号
外はまだ真っ暗です

弥次喜多が住んでいた八丁堀は東京駅から目と鼻の先であり、出発点はほぼ同じと言える。江戸に思いを馳せる者にとっては、そういうことがいちいち嬉しくてたまらない。

さて、6時に東京を出発した新幹線は、品川宿(駅です)で客を乗せ、続いて保土ヶ谷宿(新横浜駅)に停車した。江戸の気分で新幹線に乗るのは楽しい。だんだん過去と現代が錯綜してくる。いや、勝手に錯綜させてるのは私なんですが。

と、この新横浜で、今回の旅の相棒であるAさんが新幹線に乗り込んできた。


Aさん、カツサンドと共に登場

「あんたのメールに『腹減った』って書いてあったから買ってきたわよ」とAさん。よく気の付く人です。

実は今回の伊勢行きには、ひとつ目的がある。そりゃ伊勢神宮を参拝するのはもちろんだが、その門前で300年にわたって飲食店を営んでいるという歴史ある店々で、思いっきり食を楽しみたいのだ。

「なんだよ、しょせん信心より食い気か」と思う方もいらっしゃいましょうが、江戸時代の人も「旅の楽しみは神社仏閣の門前に広がる歓楽街にあって、お参りはオマケのようなものだった」という説がある。昔も今も、人はあんまり変わってないのかもしれない。


途中で陽が登ってきました

そんなわけで、旅の同行者には「えー、また食べるの?」などと決して弱音を吐かない、胃腸の頑丈な人が求められた。Aさんは友人の中で一番たくさん食べる女だ。しかも伊勢には行ったことがあるという。これ以上の心強い道連れはいまい。

「で、伊勢でどっか行きたい店とかあるの?」とAさん。
──え? いや、うーん、どこでもいいよ。
「ガイドブックとかは持ってきた?」
──っていうか買ってないし、見てない。
「……。これ一応取材なんでしょ? なんで調べてないのよ。あー、なんか無性に腹が立つ。あんたっていっつもそうだよ。だいたいね…(小言始まる)」


「なんでアタシがガイドブックを持って来てるってのに」
「あんたは手ブラなのよ(小言、続行中)」

Aさんのようなしっかり者がいてこそ、お調子者(私のことです)は、なんとかやっていけるのですな。

と感心している場合ではなく、Aさん持参のガイドブックを見ながら「これとこれは絶対食べたいね」だの「いや、全部だよ、全部」だのと話している間に、新幹線は名古屋に到着。時刻は7時39分。は、早い。


私の場合、普段ならまだ寝ている時間です

すぐに伊勢行きの電車に乗り込みたいところではあったが、カツサンドだけでは昼まで持ちそうもないので、ここで何か腹に入れることにした。

道中で各地のおいしい物を食べるのは江戸の人も好きだったことだろうし、ここは迷わずホームの立ち食いきしめん屋へ直行といこうではないか。


早朝から賑わうきしめんスタンド
揚げ物が完売してたのが悔しい

ズズズッとおいしく食べてからホームの時計を見ると、まだ7時50分であった。いやぁ、新幹線ってすごいなぁ。江戸時代なら、まだ神奈川に入ったあたりか?

どうだ、江戸時代の人よ、うらやましいか。


近鉄線に乗り換えたら
あっというまに、そこは伊勢

伊勢に着いたのは、ほぼ10時であった。

弥次喜多は11泊12日で伊勢に到着したというが、私たちの場合は寄り道を含めて移動時間約4時間。つくづく、鉄道ってすごい、と思わされた。これぞ文明の利器。

では、さっそく参拝といきましょう。


 

 
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