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はっけんの水曜日
 
おやゆび姫と一日
寝ていたらいつの間に


 先日デイリーポータルZライター数名で合同取材をするために、愛媛県は今治というところへ行った。

 1泊2日の忙しいスケジュールだったのだが、1日目の夜みんなと部屋で飲んでいたらいつの間にかうとうとしてしまった。

 翌朝起きるとなぜか僕の右手の親指にはかわいらしいお姫様がいたのである。

(text by 藤原 浩一

舞台は蕨市

 おやゆび姫といえば、おやゆびサイズの女の子が気持ちの悪いカエルやらコガネムシやらに拉致されたり、性格の悪いモグラと無理やり結婚させられたりそうになりながら、なんだかんだあってイケメン王子様と結婚する話だ。

 それはおとぎ話として、今、僕の右手のおやゆびには実際に女の子の顔があった。作り話と違うのは、向こうが「おやゆびサイズの女の子」であり、こっちは「おやゆびに女の子」という点だろうか。


それが、これ。おやゆび姫。

 名前を聞いたら「サム子」というらしい。とても実直な名前だ。

 するとサム子は「海に行きたいわ」と言い出した。お前はどこのお姫さまだと聞こうとしたが、やめた。たぶんデンマークあたりだろう。

  とりあえず言うとおりに海に来た。瀬戸内海だ。


透き通ってきれいな瀬戸内海。

白いもさもさした犬。


 海の近くの道を歩いていたら、白くてふさふさの犬がいた。サム子はどちらも同じくらい興味があるようだ。

 しばらくするとサム子は満足したようなので、ホテルへ戻った。

 海からホテルに戻ると、サム子は「プリクラが撮りたいわ」と言いだした。見知らぬ街のゲームセンターの場所なんてわからないので、そんなのは無理だ。

 するとサム子は「ちかくにダイソーがあったでしょ。あそこの100円プリクラでいいわ」と言った。ダイソーにプリクラとは。サム子は物知りだ。


ツーショットだ。

 撮ってみたが、画像に絵や文字を書き込む時間が短く設定されていたおかげで、面白みの無いプリクラになってしまった。

 サム子のわがままに付き合っていたら、高速バスに乗る時間が近づいてきた。僕たちは急いで荷物を片付けて今治駅に向かった。


今治駅。

  サム子は今治駅にあった、この街の地図に注目した。


サム子ご満悦。

 「ここでは、南ちゃんの方が双子なのね。きっと裏で糸を操るのはヤスね。」

 タッチのは朝倉じゃなく浅倉だし、ヤスが犯人なのはボートピアじゃなくてポートピアだが、僕は黙っていた。彼女はすこし怒っていた。

 そうこうしながら僕たちはしまなみ海道を渡る高速バスに乗った。


瀬戸内海と彼女。

 しまなみ海道は愛媛県今治市と広島県尾道市をつなぐ西瀬戸自動車道のことだ。瀬戸内海に浮かぶ島々に10本の橋が架かっている。

 橋の上から望む瀬戸内海は、さっき近くから見た瀬戸内海とは違った美しさをもつ。


彼女と瀬戸内海。

 僕は、きれいに輝く海面を見つめる彼女に、君を前にすると瀬戸内海の景色も霞んでしまうよ、と言った。

 「ピントがあってないのよ」

 彼女は冗談が嫌いみたいだった。


福山駅で新幹線に。


 何本も橋を渡り、僕たちは瀬戸内海の向こう側、福山市までやってきた。後は、ここから新幹線に乗っていけば、東京までは4時間くらいで着く。ふと彼女を見ると、様子がおかしかった。なんだか、少し色が薄くなっているような・・・。

 「東京もいいけど、私、名古屋できしめんが食べたいわ。寄って行きなさいよ」

 また彼女がわがままを言い出した。やれやれ、僕は仕方なく名古屋行きの切符を買って行くことにした。


名古屋にいそげ


 福山駅のホームからは福山城が見えた。

 彼女と城を一緒に撮ろうとしたが、うまくいかなかった。


彼女が写れば、城がぼやけ
城が写れば、彼女がぼやけ

 新幹線の車内は混んでいた。疲れていたので本当は座って寝てしまいたかったのだが、それはできそうにない。

 「私は別にいいけどね」

 彼女は立っているほうが楽らしい、というか座れないのだ。仕方なく持っていた小説でも読みながら時間をつぶすことにした。手に汗握る内容だ。

 そしたらあっという間に名古屋についてしまった。


混んでるわねえ。

 彼女を再び見る。やっぱり大分薄くなっているみたいだ。どうしたんだろうか?


だいぶ薄くなっているような・・・

 「ぼけっとばかなこと考えてないで、さっさときしめん食べさせなさいよ・・・私だって、ちょっと疲れてきたんだから・・・」

 やっぱり様子がおかしい。しかし、今の僕には彼女を救う手立てを持たない。ここは急いできしめんを食べに行くとことにした。


彼女ときしめん屋

 きしめん屋についたら、急いでメニューを開いて「牛肉きしめん」を注文した。少しでも彼女が元気になるように。

「牛肉なんて乗せたら、汁に油が浮かぶじゃない、バカ・・・」

台詞とは裏腹に彼女はかなり元気が無く、姿も消えかっていた。


汁を気にする彼女

 きしめんはかつおだしのきいた汁に、しこしことコシのある麺が入っていた。牛肉は甘め。僕の少ない経験からだが、今まで食べたどのきしめんとも印象が違う。うんうん、おいしい。


歯ごたえのある麺。

 何も考えることなく、一気に食べ終わってしまった。


ごちそうさまでしたー。

 お腹いっぱいになったらトイレに行きたくなったな。ちょっと行ってきます。


ジャー
ふう
あっ!

 しかし帰ってくると、彼女の姿はもうなかった・・・。

 彼女は一体どこへ消えてしまったのか、それともはじめからいなかったのかもしれない・・・。

 僕は小さな思い出を胸に、家路についた。

 こうして僕の春休みの一日は終わった。

 おしまい。

と思ったら

 翌朝起床したら、こんなところに生まれ変わりが。今度はかかと姫か。

やほほーい。

 
 
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