渋谷でまた打ちのめされる
結論から言うと、ものすごく期待していた、というか主力の一角と睨んでいた東横線の渋谷では、昼間でも完全に整列乗車が行なわれていて、乗客が降りたあとホームの客が乗り込む前にドア閉めが行なわれてしまうため、フェイントが存在しませんでした。 利用客も慣れたもので、みんなスマートにホームに降り立ちます。何だかひとりひとりが颯爽としていて、レベルの差を見せつけられた感じです。
それでも一縷の望みをかけて少しの間観察しましたが、もともとが練馬人(注)である僕にとって、この東急の渋谷駅という場所は非常に息苦しく、耐えられなくなって渋谷を後にしました。きっと東急沿線住民の彼らは「ドア閉めフェイント」などという喧しいものを見ないまま一生を過ごすのでしょう。
(注:「練馬人」の特徴や生態については、泉麻人氏の著書「東京23区物語」に詳しく解説されています。簡単に言うと東急沿線や青山、六本木などの文化に対し生理的に弱い。)
新宿で復活
このところ通勤で毎日利用している新宿駅に戻ってきて、ようやく僕は息を吹きかえしました。
気合いを入れ直して、まずは小田急から見てみたいと思います。
少し前ですが、小田急のラッシュは半端ではなく、そのためドアの幅を広くして乗り降りのスピードを上げようとしたら逆に挟まれる人が続出して余計に遅れた、というような話を聞いたことがあります。ドアに対する試行錯誤を経験しているだけに特徴的なフェイントが見られるかも知れません。
ここでもしばらく観察を続けましたが、ほぼこのシングルフェイントクローズで統一されていました。社内規定なのか、ベテランから若手への技術の伝播なのか分かりませんが、ウチはこれ、というようなコンセンサスが感じられます。久しぶりに基本に忠実なフェイントが見られたせいか、派手さはないものの嫌いではありません。技術点、芸術点ともに安定した数字を残しました。
フェイント王、京王
最後は僕がいつも利用している京王線の新宿駅です。初めてフェイントを意識したのもここ、もっとも激しいフェイントを見たのもここでした。しばらく観察した結果、今回のグランプリで他を圧倒的に引き離し、最高に美しく決まったフェイントがこれ。
ダブルフェイントのあと、クローズしながら4回もフェイントサウンドを響かせるという、難易度ウルトラCのドア閉めでキッチリまとめてきました。京王はほかの車掌さんも総じて高い技術を持っています。女性の車掌さんも派手にフェイントかましまくりでした。
絶妙の間合いで繰り出すトリプルフェイントのあと、5回もクロージングフェイントをかます女性の車掌さん。一瞬躊躇したのか、トリプルの3回目がちょっと大きすぎるのが惜しまれます。技術点で上回っても芸術点に足をとられてしまった格好です。 しかしこのレベルになると、車掌さんと乗客による、斬るか斬られるかの真剣勝負の様相を呈してきます。
とここまで書いて、ふと思いました。 ひょっとして僕は京王をスタンダードだと思い込んで、それをほかの会社に無理矢理押し付けようとしていたのでしょうか。 でも各社の個性的な乗客捌きを見出せたのでよしとしましょう。
何の役にも立ちませんけどね。
競技会を開催したい
もう少し乗客が多い時間帯だったら、西武や小田急の勝負フェイントも見られたかも知れません。余所者にはそう簡単に手の内を見せられないということでしょうか。まだまだ観察の余地はありそうです。 東武と東急には、ぜひ社内規定を改変してでもフェイントグランプリに参戦してもらいたいものです。 いいスタジアム(降車ホーム)持ってるんですから。