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ひらめきの月曜日
 
完成前に新東京タワーの建設予定地を見ておきたいと思ったのだ
610mの高さを誇るタワーができる予定地へ…


東京タワーの約2倍の高さの電波塔、『新東京タワー』(すみだタワー)が近く墨田区押上・業平橋の地に建設される。予定では2008年から工事が始まり、2011年に完成するようだ。

建設予定地をめぐって様々な候補地が争っていたことや、塔のデザインに建築家の安藤忠雄氏が名を連ねたりと、現在の計画が決定するまでにも何かと話題を振りまいていたので気にかかっていた人も多いかもしれない。

僕も気になっている。

完成すれば観光客が予定地に訪れ、街の雰囲気も変わるに違いない。

完成前に、現場を見ておきたいと思った。だから、現場に行って写真に収めてきた、新東京タワーが出来る前の押上と業平橋を。

(text by 梅田カズヒコ



押上駅前は更地が多い。
しばらく歩くと商店街が。知らない街に来ても商店街があったら落ち着くよね。
押上通り商店街で見つけた「新タワー誘致決定」のポスター。しかし、時間が経ってめくれてきている。

駅前の風景 (東京に大きな空き地ができるということ)

六本木の東京ミッドタウンは旧防衛庁の跡地に生まれた。汐留のシオサイトは旧国鉄の貨物駅、汐留駅の跡地に生まれている。このように、東京では何かの跡地として広大な土地が生まれたとき、大規模な再開発が行われることが多い。

押上駅周辺もまさにそんなところで、かつてはここに東武線の大きな貨物駅があった。その貨物駅がなくなったことで、押上駅・業平橋駅間の駅前にはぽっかり穴が空いたように更地ができてしまったのである。これを利用し、新東京タワーを建設しようという計画が生まれたという経緯があるようだ。

東京の土地は遊ぶことを許されないのだ。

しかしながら、駅前がいきなり大きな空地というのは、周辺住民じゃなくてもちょっと寂しい気がする。きっとこの空地もそう遠くない未来には商業施設やマンションが立ち並ぶのであろう。完成後にまた訪れることを思い、シャッターを切っておいた。

 

まずは押上駅で一番にぎわう押上通り商店街へ

しばらく歩くと「押上通り商店街」という商店街に出た。こじんまりとした商店街ではあるが、駅前がいきなり空地だっただけに商店街の看板を見つけたときにはちょっと安心した。

商店街って、知らない街に来ても「こっちがあなたが歩くべき道ですよ」って教えてくれているようで嬉しいですよね。

新しいタワーができるとあってきっと地元も盛り上がっているのだろう。ひょっとすると商売っ気の強いお店に行けば一足先に「新東京タワーみやげ」が買えるかもしれない。

 

地元は静観しているようです

地元はさぞかし「新東京タワー」一色で、どこに行ってもその文字が見られるのかと思いきや、新東京タワーの建設を意味する看板はほとんど見られなかった。商店街の端のほうのお店の軒先に、唯一新タワーの誘致決定を祝うポスターがあった。

少なくとも僕が歩いた中では、「新東京タワーが来るぞ!」という浮き足立った雰囲気は感じられなかった。完成が2011年とかなり先だから、ということもひとつの原因かもしれない。

 

地元の人は新しくできるタワーをどう思っているんだろう

商店街を端から端まで歩いてみたが、特に変わったものはない。予想では新東京タワーを模したデザインで、携帯電話に着信があると光る「新東京タワー電波塔ストラップ」や、立たせたエビフライが美しい「新東京タワー定食」とか、頓狂な商品であふれかえっているのかと思いきや、やはり大人の街、そんな分かりやすい浮かれかたはしていないようだ。

このままでは、ただ落ち着いた街をブラブラしているだけの企画である。困った。どうしよう。ちょっと疲れてきたので商店街のはずれにある一軒の喫茶店に入ってみた。


いい雰囲気の喫茶店を見つけ、さっそく中に入ってみる。

中はまさに純喫茶風の内装が施されていた。喫茶店好きにとってはぐっとくる雰囲気。座った席は気持ち傾いているし。

僕が座ったテーブル席。地面から少し傾いている。(歩道を歩く通行人を参考にすると傾き加減が分かりやすい)

マスター、というかママが居た。ママは60歳ぐらいだけど、昔はそうとう美人で、今でもたまに近所のじいさんに口説かれているんだろうな、というような雰囲気の人でした。新東京タワーが建つことをどう思っているのか聞いてみることにした。

 

「さぁ、このあたりは何も変わらないんじゃないの?」

僕「このお店は何年ぐらいになるんですか?」
ママ「そうねぇ、かれこれ35年ぐらいになるかしら。その前は戦前からある昆布屋だったのよ」
僕「へぇー、すごいですね」
ママ「このあたりは昔は商店がたくさん並んでいたのよ。でも、みんな跡継ぎが居なくてやめちゃったの。続けているのは私ぐらい。寂れてしまったのよ」
僕「でも新東京タワーがこのあたり建ちますよね?あれでちょっとにぎわうんじゃないですか?」
ママ「どうだろうね。変わらないんじゃないの」
僕「きっと観光客が増えますよ」
ママ「まあ今よりはね。でも増えても、この商店街までは人は流れてこないんじゃないかしら」
僕「この街で暮らしたい、っていう人も増えるんじゃないですか?」
ママ「今もマンションが建って、若い人は増えてきるけど、若い人が増えても、この街に寝に帰りに来るだけで商店街にはなかなか活気は出ないのかもね」


ママによると、このあたりは昔と比べてずいぶん賑わいがなくなってしまったらしい。30数年かけて少しずつ街の賑わいが小さくなっていくところを見ていれば、タワーひとつに浮かれられない、ということなんだろう。

ママの喫茶店はわりとひまをしないようで、僕が会話している最中も馴染みのお客さんが入ってきていた。何があってもママが元気な限りはこのお店は潰れないんだろうな、となんとなく思った。


ママのお店で飼っていた熱帯魚。きれいでした。

ママの言葉を反芻しながら、いよいよ建設予定地の空地を見にいくことにした。


 

 
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