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ひらめきの月曜日
 
焦げがうまい


季節外れのサンマも焦げが秀逸(向きが逆ですみません)

ごはんを土鍋で炊いた時にできる「おこげ」が好きな人は多いことと思う。カリカリしてて香ばしくって、本当にたまらない。

パリッと焼けた魚の皮もおいしいし、揚げ物だって、あれはつまり「焦げの途中」だからこそ、おいしいのではなかろうか。そうだ、焦げって実は偉大なんだ!

…と、いきなりヒートアップしてしまうくらい、焦げている部分が大好きだ。でも、焦げはいつも全体のほんの一部分でしかない。焦げ好きとして、いつまでもこういう状況に甘んじていていいのだろうか、と思う。

思うからには、焦げ100%の物を作ってみよう。そして、焦げのおいしさを再確認をしてみようではないか。

高瀬 克子



焦げはいつも少ない

たとえば、このサンマだ。身やキモの苦みがおいしいのは勿論だが、ここで力説したいのは、やはり皮の焦げた部分だ。


カシャッっていう音もいいですよねぇ

…なんておいしいんだろうかと思う。永遠に皮だけを食べていたいと叶わぬ願いを抱いてしまうほどにおいしい。でもそんな願いも虚しく、皮はあっという間になくなってしまう。脂が爆ぜて、せっかくの皮が破れている箇所もあり、口に入る焦げは思いのほか少ない。無念。

私が養殖業者なら「皮三割増し」のサンマを開発してひと儲けするところだが、私にそんな技術があるはずもない。だいたいなんだ、皮三割増って。

というわけで、魚に関しては諦めよう。もっと身近で、普段着な焦げはないだろうか。


と、着目したのがコチラ

なんの変哲もない目玉焼きだ。普段は「卵といえば黄身だろう!」と言って憚らない私だが、こと目玉焼きになると、ちょっと話が違ってくる。

「目玉焼きってのはココがキモだろう!」と思うのだ。


いきなり大きな写真で失礼します。

どうですか、この焦げ! 茶色くなったフチ!

この部分を見ているだけで胸がドキドキして、たまらない気持ちになってしまうのだが、皆様におかれましてはいかがでしょうか。置いてきぼりにしているつもりは微塵もないのですが、付いてきてくれてますでしょうか。


白身と混じったところの焦げもいいですよね。
芸術的だとすら思えます。

フチの部分を切り離し、黄身を纏わせて口に入れると、カリカリッとしつつもフワッとしてて、歯にネチャッとくっつく。

これほど安価に焦げを楽しめる食材は、他にないと言っていいだろう。


んめー。んめー。(ヤギ化)

この白身の部分だけを、あえて作ってみることにした。焦げ100%計画その1、スタートです。


白身のドロッとした部分をよく切ったら、
フライパンに薄く伸ばします

もっと線のように細くするつもりが、白身同士がくっついてしまった。

しかも、なんだか目玉焼きの時と少し様子が違う。面積が広くなったせいか、使った油の量は同じだったにも関わらず、フチがカリッと揚がったようにならないのだ。


うーむ…
いまいち上品すぎる焦げ部分。

…違う。私が目指す焦げは、こんな繊細なものではない。もっとダイナミックで、もっと茶色くて、こちらの胃袋にダイレクトに訴えてくるような、そんな焦げを作りたかったのに、これはどうしたことだ。

焦げ100%計画、いきなり失敗だ。
ま、こうなったら計画その2にとっとと移ろう。

 

グラタンこそ焦げの集大成だ!

計画その1では思ったような焦げが作れなかったが、なにも卵だけが身近な焦げ製造食材ではない。牛乳、バター、小麦粉という、どこの家にも常備しているであろう材料で、立派な焦げの出来る料理がある。

そう、グラタンだ。


材料を鍋に入れて加熱。
塩コショウを入れて、ぐるぐる混ぜたらホワイトソースの一丁上がり

ホワイトソースが容器のフチのところで焦げている部分があるでしょう。あの部分をフォークでガシガシ削ることに喜びを見出している人は、私だけではないと思う。今度こそ思う。

そんなわけで、計画その2はグラタンだ。通常なら、ある程度深さのある耐熱皿に入れる料理なのだが、今回に限って言えば深さは必要ない。

なんたって焦げだけを楽しみたいのだ。とりあえず一番大きな平皿に、ただソースを置いていくだけである。


ソースだけでは寂しいので、ジャガイモを入れました
とろけるチーズとパン粉をかけたらオーブンへ

オーブンから、チーズの焼けるいい匂いがしてくる。パン粉も着々と焦げているだろう。ホワイトソースも皿にへばりついて、いい色になっているはずだ。

うん。グラタンってのは、焦げることでおいしくなる料理なんだな。焦げの集大成なんだな。

うっすら色づくなんて半端な状態じゃ納得出来ない。大胆に、広範囲な焦げを我らに!

と、心の中でシュプレヒコールを叫んでいる間に、グラタンが焼き上がりましたよ。


約30センチはあろう平べったいグラタン。焦げ、満載。

開けたはずの隙間が埋まってしまったのは残念だったが、皿の大きさがそのまま焦げの多さに繋がって、普段の倍以上、焦げの部分が出来てくれた。

なんというかもう、匂いからして邪悪だ。いいのか、こんな贅沢なことしていいのか。焦げのバチが当たりやしないか。焦げのバチってなんだ。ガンになるとかか。

目の前の光景に喜ぶあまり、いろいろな思いが頭の中を駆けめぐる。つまり、ちょっと常軌を逸していたということです。


だって、これだもの。
フチ、たくさんあるもの。
ジャガイモのおいしさが霞むもの。
焦げ、突っつき放題だもの。

写真を数枚撮ったあとは、ものも言わずに食べた。一人暮らしだから普段からものを言わずに食べてはいるが、心の中で無口だったということだ。つまり無心だった。

焦げを削る=うれしい。
焦げを食べる=おいしい。

他に感じることなど、なにひとつなかった。

幸せでした

焦げというと「ガンになるんじゃないか」と心配する方もいらっしゃいましょうが、国立がんセンターの計算によると「焦げでガンを作ろうと思ったら1日100トンの焦げを1年間食べ続けなければならない」のだそうですよ。

炭のように黒くなっている物じゃなければ、安心しておいしく食べていいんじゃないかと私のような快楽主義者は思ってしまうわけですが、どんなもんでしょうか。

考えてみたらコーヒーだって豆を焦がした汁を飲んでいることになるし、餃子のパリッとした皮だって焦げているからこそおいしい。もんじゃ焼きも、焦げのうまい料理だ。

うん。やっぱり焦げっておいしいです。

もっと大きい皿が欲しくなりました

 
 
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