私はなるべく兵士に気付かれないようにこっそり歩いていったものの、
ここはただでさえ歩いて通る人の少ない場所、
しかも肌の色が違う日本人ときたら、気付かれないというのが不可能な話であった。
あれよと言う間に兵士たちがわさわさと私の周りに集まってきた。
そのうちの一人は、いかつい銃を携えている。兵士たちの顔に笑みは無い。
私はさらに一歩前に出ると、兵士たちもまた私の方に一歩近づいてきた。
まるで漫画のようなその光景。場違いながら、私はそれがなんともおもしろいなと思った。
そんな私のおちゃらけた雰囲気を吹き飛ばすかのように、
兵士の手にある銃がチャッと鳴る。
銃口は反れているとはいえ、それは紛れも無いライフル銃。
怖えぇぇ。ホント、マジ怖ぇ。
私は人畜無害な観光客。ただ、国会議事堂を見たいだけなんだ。
とりあえずその旨を説明しようと、私は恐る恐る口を開いた。
「あの、国会議事堂へ行きたいのですが」
英語でそう簡潔に言う。緊張もあってか妙に声が裏返った気がした。
兵士の顔は怪訝なままだ。
外国人が来たという珍しさもあってか、さらに数人の兵士が寄ってきた。
いつの間にか、私は兵士たちに取り囲まれたような形になっている。
一人の兵士が言った。
「許可証はあるのか?」
許可証?なんだそりゃ。
私は国会議事堂に入ろうというわけじゃぁない、ただ見るだけなのに。
それなのに、許可証なんてものが必要なのか?
「許可証が無いならダメだ」
「一目、国会議事堂を見るだけでいいんですが」
「ダメ。許可がないならここを通すことはできないよ」
……なんてこった。現在、国会議事堂への道は軍によって封鎖されていた。
私はなんとか食い下がろうとするが、兵士たちはただ首を横に振るのみ。 |