●もはや家

　 続いての店を求めてやってきたのは、東京の国分寺市。事前に調べた所在地あたりにやってきたのだが、一向にそんな店の気配は感じ取れない。

普通の住宅街、としか言えない雰囲気。電柱の町名表示に注意しながら、店があるであろう付近をうろうろするのだが、全くもって見つけられないのだ。

　おかしいなと思いながら、何回も同じ道を行ったり来たりする。そうしているうちに、中からまとまった人の声が聞こえる家があることに気がついた。

　のれんや店名の看板などは見当たらないのだが、中から人の話声が聞こえてくる。普通の家にいる人数とは違うレベルの量で聞こえてくる。

　そんな手がかりで見つけた、うどん屋とおぼしき物件。確定的な書き方をしていないのは、この時点でもまだ半信半疑だったからだ。えーと、どこから入ればいいのだろうか。

　建物に入っても、さらに家っぽさのボルテージは上がっていく。玄関にはよくある作り付けの下駄箱、さらにその上にはどこか外国の島で売ってそうな木彫りの品が置いてある。

　中に入っても失速することのない人んちっぽさ。うどん屋に来たのか人んちに来たのか、軽く混乱する。

　「七」という名のこの店。玄関を上がってすぐ右にある冷蔵庫には、「発泡酒は無料です」との紙が張ってある。うどんの食券の半券１枚で、発泡酒を一缶もらえるキャンペーンを実施していたのだ。

　これはすごい。家っぽいのかどうかはわからないけれど、家っぽさを通り越して素直にすごい。

前頁の店と異なり、この店は中に入っても家っぽさは変わらない。テーブルやイスがたくさん並べてあって、店としての機能を果たそうとしているが、ベースはあくまで家。

　不思議と落ち着く。この感じがうれしい。

　今回注文したのはごまだれうどん。心地よい重量感のあるしっかりしたうどんがおいしい。今回は「(小)」を注文したのだが、それでもかなりの食べ応え。普通サイズを注文した場合は、なんとうどんのおかわりは無料という気前のよさもすごい。

　かき揚げも大きい。何度かこの店に来ているらしきお客さんが「来るたびにかき揚げがでかくなってる…」と言っていたのが印象的だった。

●家っぽさタイムスリップ

　続いてやってきたはの、小平市にある「小平ふるさと村」。古い建物などを保存している施設なのだが、ここでもうどんが食べられるらしい。

　落ち着いた雰囲気で、ちょっと渋めのデートにもよさそうな雰囲気のふるさと村。赤い屋根の建物は、古い郵便局だ。

　うどんについてもわかりやすい看板も掲示されていて、ここでは土・日曜日に武蔵野うどんと呼ばれるタイプのうどんを食べされてくれるらしい。そしてうどんが提供される建物がこれ。

時間という変化をつけた家だ。昔の人の家である。

　これまで紹介してきた人んちっぽさとはまた毛色の違う、別角度からの家っぽさ。ここで食事ができるなんて。時を隔ててお呼ばれしたような気分になる。

　小学校の社会科の教科書で見たような家っぽさだ。映画に出てくるような大きな農家風でもある。

　これまで言ってきた「人んち感」は、友達や知人という意味での人んちだっただろう。そういったやんわりムードの人んち感とはまた別の人んち感を味わえる。

　座卓と座布団も置いてあり、そこでうどんを出してもらえる。こうした古民家を資料的に展示してある施設はこれまでも何度か見たことがあるが、そうした建物で食事もできるというのがうれしい。

　うどんには「糧」と呼ばれる、野菜をゆでたものが添えられているのが特徴だ。

　うどんを運んできたおじさんがにっこり笑いながら「耳も乗せといたからね」と言ってくれた。耳？…ああ、この太いうどんのことか。

　生地を切るときにできる、はじっこの部分らしい。こんなところでも人んち感アップ、おいしくいただきました。

　さて、ここまでかなりの人んち感を満喫できたが、さらなる家っぽいうどん屋があふれる街があるという話を聞いた。もう少し足を伸ばし、うどん屋めぐりを続けます。