地下鉄に乗っていて残念なのは、車窓から風景がまったく見えないことだ。
風景が見えないから、乗っているあいだ手持ちぶさたになる。週刊誌の中吊り広告を熟読しちゃったりして。それに、いま自分がどのあたりにいるのかという感覚もなくなってくる。
そんなことを考えていて、ふと思った。いま乗っているこの地下鉄がもしも地上を走っていたら、その車窓からはどんな風景が見えているんだろうと。
(text by 三土たつお)
南北線が地上を走っていたら?
本題に入る前に、まずは東京メトロ南北線でいつもの光景を再現してみたい。
ご覧のとおり、窓からは何も見えない。毎日の通勤の車内、風景から隔絶された世界でただボーっと時間をつぶすのは退屈だ。
そもそも自分はいまどこにいるんだろう? 地下鉄に乗っている間は自分のいる場所がよく分からなくなる。そして駅を降りてはじめて地上の場所が分かるのだ。まるでドラえもんのタイムマシーンみたいに。
現在地を地図で確認してみよう。
なんと、ぼくがボーっとしているあいだに、南北線は東京ドームの人工芝の下をつっきっていたのだ。もしも地面が透明なら、まいにち野球を見放題なのになあ、などと思ってしまう。
ふだん地下鉄に乗っていて、地上の風景がこんなふうに窓から見えたらどんなに素敵だろう。
せめてもの慰めに、さきほどの車窓の風景に、上のドームの写真をあてはめて合成してみよう。こんなふうに見えるはずだ、というシミュレーションをしてみたいのだ。
この味気ない車窓の風景が・・
こんなに鮮やかに!
・・。
「こんなに鮮やかに!」とがんばって書いてみたが、なんだろうこのパッとしない写真は。事前の想定では、「こんなところを通っていたんだ!」という素敵な予想図ができるはずだったのだが・・。
不安を抱えたまま、もうちょっとだけ続きます。