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はっけんの水曜日
 
大きな柿から割れて出る
何がどうしたらこうなるのか。


 終わりなき日常を映し出すアニメ「サザエさん」だが、ひとつだけ明らかに日常じゃないシーンがある。

 それはオープニングのあのカットだ。巨大なくだものがパカッと割れて中から楽しそうなサザエさんたちが出てくる、あれ。

 週末が終わって次の日は月曜日だというのに、一体どうしてあんなに楽しそうにできるのか。秘訣はきっとあの果物だと思って実際に作って再現してみることにした。

 しかし、現実は厳しく一筋縄ではいかなかったのである。

(text by 藤原 浩一

カルチャーカルチャーで作業させてもらいます。
A1四枚とB2二枚。

 球体をつくれ

 作り方はZくんのかぶり物を作ったときのと同じでいいだろう。細長いとんがりをくっつけてドームをつくる。基本的には厚紙がいっぱいあったら複雑な作業なしでできる。

 単にでかい果物を再現するするだけなら、平面の板を半円状にするだけでいいじゃないかと思われるかもしれない。しかし、そうではないのだ。立体で作ってこそ初めて実現したと言えるのだ。

 今思えば、その思いつきこそがすべての誤算の始まりだったのかもしれない。

 まず第一の誤算は材料が揃わなかったことだ。池袋の東急ハンズに行ったところ、必要な材料はA1版のでかい厚紙9枚だったのだが、4枚しか在庫がなかった。買った材料を持ってほかの店を回る時間もない。

 実際画面に映るのは前半分だから半分だけ作ればいいか、と思って、在庫を買い占めてきた。

 まず用意した材料に、直径120cmの球体をつくるためのパーツの切り取り線を書く。24枚だ。

直径120cmを目指して。

型紙となる一枚に気合を入れる。


 続いてこの線に沿って厚紙を切り抜いていく。頑丈な素材じゃないと完成したときに形を保てないだろうと思って、厚めの紙を買ってきたせいで、カッターの刃が全然通らない。これも誤算だ。


相当がんばらないと切れない。

たまに刃が刺さって動かなくなる。


 厚みがありすぎて1回刃を通すだけでは切ることができない。なので何度も同じ線をなぞる。何度も何度もなぞる。

 この繰り返しはなんだか地獄っぽい。地獄の3丁目はナントカ地獄とか言ったりするが、延々厚紙カットは地獄の3丁目12番地デビル荘203号室くらい狭い地獄だ。厚紙カット地獄。


ありがとうございます。ごめんなさい。

ゴールはまだ遠い


 途中からべつやくさんに手伝って頂いたが、すごく申し訳ない気持ちになった。こんな地獄みたいな作業につき合わせてしまうなんて。

 結局複雑ではないが単調な作業をひたすら続け、終わるころには日が暮れた。

 

ガムテでつくる工芸品
バナナとか言い訳できないものか

貼りあわせ地獄

 次にそれぞれのパーツ同士をくっつける作業にとりかかる。厚紙を切り取る作業がきつかっただけにここからは楽だろうと思いたかったが、実際にやってみるとこれまた難航した。

 立体である球体をつくるのに、平面の板を貼り合わせるのだからうまく湾曲させる必要がある。のだが、パーツがでかすぎて形を保ちつつ同時にくっつけるというのが難しい。

 作業工程の半分、6枚のパーツを張り合わせたものが2つ出来上がった時点で「まだ半分か・・・」という思いに駆られた。作業を始めてからすでに9時間が過ぎている。残り半分貼り合わせるのか・・・。

 もしかしたらもうここで終わりにしてもいいんじゃないかと、おもむろにかぶってみた。全然ダメだ。

 作業が延々と続きすぎて目標を見失う時期が来て、まだ半分しかできていないというのに作業を中断していろいろ試してみた。もしここで何か発見できたら、作業はここまでで終わりにできる。

 が、やっぱりダメだった。

ういーん

電波受信


 最後まで作り上げるしか道はないことは明らかだった。退路はない。

 夕方からずっとべつやくさんに手伝ってもらい続け、さらに今は林さんにも補強の作業してもらっている。どうしてこんなことになってしまったのか、本当にこんなことをやりたかったのか、というやりきれない気持ちでいっぱいになった。

 ハンズに在庫が想定の半分しか売っていなかったことが、今となっては幸運に思える。この2倍あったらどうなったことだろう。

 結局貼りあわせは終わったものの、終電の時間になってしまったので塗装は明日にすることにした。時間かかりすぎである。


10時間以上かけてここまで。フジツボか。

 

塗った

塗装天国

 次の日の昼に再びカルチャーカルチャーにやってきた。

 残すところは塗装だけだ。秋の果物といったら柿なのでオレンジ色で塗ることにする。

 スプレーを使うので、床に新聞紙を敷いて風で飛ばないようにガムテープで固定する。スプレーを吹く作業自体はすぐに終わったので、乾くまでしばらく待つ。昨日と比べて作業の進行が早い。天国だ。

 できたものがいまいち柿に見えないがそれはいまさら気にしないことにする。パパイヤかなにかだということにしよう。

待った

できた

 

 念願の撮影

  ようやくできた。なんだかわからなくなっている人も多いかと思うが、サザエさんのオープニングのでかい果物だ。さらし首ごっこをするために作った台ではない。

 今回の目的であったあのシーンの再現、その全貌を明らかにして記事を締めくくりたいと思う。


幾多の苦難を乗り越えて、今

ドドド

ドドドド

ドドドドド

どーん

・・・

多大なる迷惑をかけて

 果たしてこれがやりたかったのか。すべては謎に包まれている。いや、完成までの作業がこんなに大変だとは思っていなかった。

 しかしべつやくさん、林さん、そしてカルカル店長の横山さん他に多大なる迷惑をかけた末に、ようやくこのオブジェらしきものを完成させた今思えば、この企画をやろうとした動機の弱さが問題だったのかもと反省する。

 覚悟と想像力が足りなかったことを心より恥じる。


 
 
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