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はっけんの水曜日
 
乙女酒紀行 in 宮古島「ミルク泡盛のルーツを訪ねて」後編

「甘くて美味しい、簡単なカクテルを自分で作って、おうちでゆるく飲もう」ということで発足した「乙女酒部」。人気の「泡盛の練乳割り」のルーツを求めて、一行は宮古島・池間へ。そこでミルク泡盛発明者の身内、海人・ケンジさんと偶然に邂逅! お祭り等に使う『ミルク酒』の、正しい作り方を、直伝されることに!!
前編はこちら中編はこちら

(text by 大塚 幸代



新聞紙をひいた机の前に、仁王立ちになる私。気合いだけは充分。

「泡盛、買ってきてあるんだよね?」とケンジさん。
「ハイッ」
と、720ml瓶の『千代泉』(宮古島北端のお酒なので、コレでいいのかな…と買ったもの)を出すと、
「あー、小さいの買ってきちゃったね、本当は一升瓶を使うんだけどなあ。あとミルク酒に使う酒は、『千代泉』じゃなくて、『菊之露』が基本なんだよね」
と、いきなりダメ出しされてしまった。あちゃー!

「あっ、『菊之露』、(ホテルの部屋で飲む用に、たまたま)買ってあります!!」
と、車の荷台に走るニシさん。
しかし、それも720ml瓶であった。
泡盛一升瓶を何本も買う…という発想は、東京の女どもには無かった。池間基準を甘くみていた。大失敗。

「本当はね、『菊之露』一升瓶を、まず中身を半分出して、その中に『わしミルク』をひと缶、全部入れるんだね。
その後、少し瓶に空白が残るので、そこに水を入れる、という配分。」

つまり、
泡盛900ml:コンデンスミルク397ml:水503ml
というのが、「正しい池間流ミルク酒」らしい。

今回は仕方なく、720ml瓶で、だいたいの配分をみてやってみた。

コンデンスミルクの缶を、缶切りで開ける。器用なほうではないので、必死だ。



「缶切り、慣れてないねえ、使い方、間違ってるねえ(笑)」
と言われてしまった。
アタシ小さい頃から、この切り方で切ってたよう…、母さん、教えてくれた切り方は、間違ってるみたいです…、と思いながら、一周押し切り終える。
すると、ぶわっとミルクがあふれ出してきた。ぎゃー!

「フタとって、フタ!」
「ハイッッ」

なんとか、フタをとりのぞく。既に指はべちゃべちゃだ。

「で、このコンデンスミルク、どうやって入れると思う?」
「どうするんでしょう」
サッパリ分からない。
「まず、その缶を、こう、二つに折って、曲げてごらん」
「……え?」

力を入れる。うぐぐぐ。ま、曲がらない。

「あのう…これって、池間の人は、男の人だけでなくて女性でも、やることなんですか…?」
「もちろん、女性でもやるよ」

そうなのか!? と思いながら、もっと力を入れる。ぎゅーっ。うひー!
なんとか、折れた。


↑完成形。

「これを…どうすると思う?」
「ジョウゴとか、ナシですか?」
「ナシ!」
「……箸を使って、入れるとか…?」とニシさん。
「惜しい! でも違う。
じかに、入れるんだよ」
「……へっ!?」
「ミルク缶のとがった部分から、瓶の口のところに向かって、思いきってたらす!」
「ええええーーー!」

だらだら〜、と、こぼれ落ちる練乳。瓶の中に、なかなか入らない。瓶のまわりはべとべと。
なるほど、このための新聞紙だったのか。
しかしコレがまた、なかなか命中しない。

「もっと思い切って、角度をつけて、遠くから!」と指導が入る。

ミルクの量が減ってきたころ、やっとコツがつかめて、なんとか中に入るようになった。

「ハイ、そこでいったんフタを閉めて。外に水道があるから、瓶と手を、洗ってきて」
「ハイイッッッ!!」

水道に走る。真っ暗で蛇口が分からない。心配して付いてきてくれたD介さんが、たまたま持っていた携帯ライトで、手元を照らしてくれた。
ミルクは肘のほうまで付いていた。

「キレイに洗った? そこに水を入れて」

瓶の空白に、ミネラルウォーターを注ぐ。

「またフタをして、真横にして、よく振ってごらん」


シェイク、シェイク!

ケンジ先生も念入りにシェイク、シェイク!

腰を入れてふる。なかなかこれが、大変な動きだ。一升瓶だったら重労働だろう。

「それで、出来上がり!」

ついに試飲タイムだ。

ごくり。
ケンジ先生の表情を見る。
「……小さい瓶で作っちゃったから、ミルクの配分が違って、甘くなりすぎたかもしれないけど……まあ、いいでしょう」
「ありがとうございますうううううう!!!!!」

そんな訳で、私は、池間・ミルク酒ワークショップ第一期卒業生となったのだった。光栄だ。

「昔はね、シロートがミルク酒を作ると、豆腐になっちゃったもんだけどねえ」…と、コップをながめながら、ケンジさんがつぶやいた。
「トウフって……うまく混ざらなかったってことですか?」
「そう、今の順番で作らないと、昔は酒とミルクがうまく混ざらなくて、駄目だったんだよね」

「ケンジさん、それは昔の水のせいじゃないかなあ」とアシカワさん。

宮古島の水は、ミネラル分でいっぱいだ。「豆乳に海水を入れると、豆腐が出来てしまう」くらいなので、濾過が充分でなかった時代は、お酒も水もミネラルが多すぎて、コンデンスミルクが、ダマになってしまったのかもしれない。

「じゃあ、実験してみよう」
ミルクを入れた後、お酒を入れてみた。


「『トウフ』にならないねえ! そうか、理由は水だったのかな。
……よし、そこに天然黒糖があるから、これで泡盛とミルクと水を割ってみよう。黒糖はミネラルいっぱいだから、理屈で言えば、『トウフ』になるはずだ」
……黒糖と泡盛を混ぜる。

本当だ! ダマダマに!
「おおおおー、これが『トウフ』だよ!」
たまたま長年のナゾが解けた、瞬間であった。

そのあと、作った『ミルク酒』を飲みながら、

「天然黒糖は、作りたてが、ものすごく美味しいよ」「泡盛はコーラ割りも、結構イケるよ」「今度来た時には釣りにおいで、自分で釣った魚を海の上で食べるのは最高だよ」「ここでは、美味しいけど、あんまり釣れないキツネウオは、女子高生って呼んでるんだよ、理由は宮古島高校ー宮古高校の女子高生の夏服に模様が似てるから!」「ちなみにブダイの仲間、ビタロウは、なぜか『ヒロシ』(笑)」「ところで君ら、本当は何歳なんだ?(笑)」「それにしても、女の子にしては、酒強いねえ〜」
など、話は脱線。

ケンジさんは、池間の唄を歌ってくれた。沖縄の唄というのは、島ごとに違ったりするのだけれど、池間は「基本アカペラで、1000曲くらいある」のだそう。
ケンジさんの唄は、「うわー、ノド使ってる、イイ声! 基礎歌唱力が高っ!」という、素晴らしい声だった。

「今度はヒロシを釣りに来ますー!!」
「釣りにおいでー!!」

車の中から手をふる。暗闇のなかに、ケンジさんとアシカワさん、お二人のシルエットが消えていく。

「運転手させちゃって…すみません」
まず、ノンアルコールのD介さんにあやまった。
「いやいや、興味深い話で、楽しかったですよ。……しかし本当に、みなさん、お酒強いですね〜」
「いえいえ〜…恥ずかしながら」

取材モードのスイッチを切ったら、酔いがまわってきた。
嬉しかった。すごく嬉しかった。普段逢えない人に逢えたことも、意外なお酒の誕生秘話が聴けたことも。
奇跡的だ。私たちはたぶん、『ミルク酒のかみさま』に呼ばれたのだ。

2次会は、D介さんも飲めるように、市街のお洒落なバー「ボックリーのチョッキ」に移動した。
「『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、宮古島でやらないんですよねえ」「うわ、それはファンにはキツイですね」「DVD化待ちですねえ」「きっとDVDになったら、また内容変えちゃいますよ、そういう作品だもん」「そうかなあ、ああ…。そういえばテレビ版で、第三新東京市第壱中学校のアスカの修学旅行先が宮古島になってて、1日目が第三新東京国際空港→オキナワ(本島)、2日目が本島→ケラマ諸島→ミヤコ島、3日目がミヤコ島→第三新東京国際空港、なんですよね。2日目はダイビング、だったような」「へー! 宮古島に来る予定だったんですね。でもそれ、島間の距離的には、無茶なスケジュールですね」「でもあのエヴァの設定だと、宮古島は水没してる筈なんですよね…」「なるほど! でも、もしかして水没してるトコが地下観光都市とかになってて、島と島を、高速移動出来る海中道路が出来てたりするのかもしれないですよ!」「あはは」
なんて、東京にいる時と変わらないモードで、アニメの話などをした。さっきまで海人といたのに! 少しだけ変な感じがした。

……これだけいい出会いがあったんだから、後は雨でもいいや、と思ったが、「晴れ女」の底力なのか、ビーチに出るたびに晴れてしまった。移動中、『サマーヌード』を何度も聴いた。
「はしゃぎすぎーてるー、なつのーこどーもさ…」


池間、また行きたい。
そしてヒロシをつまみに、ミルク酒を飲みたい、ほんとに。

■池間島で釣りが出来ます

ケンジさんが漁船で釣り案内をしてくれます。池間に行った際には是非!
勝連つり具店 宮古島市平良字池間90-6
(連絡先)090-3797-5440
(店)0980-75-2511
https://sea.ap.teacup.com/7777/
またアシカワさんも、釣り&ダイビング・シュノーケリング案内をされています、メール予約可!
和剛丸
https://www13.ocn.ne.jp/~wagou/

■今月、池間島でお祭りがあります

10月27〜29日は、池間島のお祭り「宮古節(みゃーくづつ)」が行われます。中日の10月28日は、年に1度しか入れないウタキ(聖地)に、一般観光客もおまいり可能。本場『ミルク酒』がふるまわれ、池間の唄と踊りの、スゴイ盛り上がりが体験出来るとか。行ける人は行って飲んで踊るべし!!

■取材協力してくださったみなさん
STAPANBIN CAFE Condiment Bar(D介さん宮古島発信ブログ)
https://miyakojimacity.ti-da.net/
D介さん主催 ポストカードアート展『ぴん座 -PINZA-』公式ブログ
(11月1〜5日まで宮古島ギャラリーうえすやーにて開催、アシカワ氏も写真参加)
https://pinza.ti-da.net/
芦川写真事務所 - 宮古島の水中写真
https://www2.miyako-ma.jp/tsuyoshi/
ポッドキャストで那覇から沖縄情報を発信、78タイフーンfm
https://www.fmnaha.jp/
沖縄の今をケータイカメラで毎日アップ、ウルマックスのしまPashaCLUB!
(D介さん、デイリーポータルZライターの安藤昌教さんも参加中!)
https://pasha.uruma.jp/


 
 
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