デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


ちしきの金曜日
 
初めて彦摩呂を本気で尊敬した日〜ドキュメント・ザ・筆者急病〜

(text by 大塚 幸代



当サイトの記事がキッカケで、CSの情報番組に出ることになった。
普通だったら、ダイエットしてお洋服買って…なんて準備しまくっただろうに、今回は前日に、毛抜きで眉毛を抜いたくらいだった。たまたま珍しく忙しかったのだ。いつもこんなじゃないのに…。

撮影ロケ日の日曜日の朝。
8時に設定した携帯のアラームより、早く目が覚めた。
……アレ? 
なんだか右目の奥底が痛かった。
ボヤーとしながらシャワーを浴びていたら、バスルームから出る頃には、激痛になっていた。
エッ。ナニコレ?
止まらない涙。眼球を少し動かすだけで、ズキューン、ズキューン、と痛みが走る。
平気な左目だけ開けたらいいのかな? と思ってやってみたけれど、やはりズキューン。目というのは両目の筋肉がシンクロして動いているらしく、片目だけ動かすことは出来ないみたいだ。
着ていく洋服も吟味すべきだったのに、そんな余裕もなかった。タンスのカットソーをテキトーに引っ掴んで着る。
あー。あああああー。
取材先のアポイントもとってある、放送日も決まってる、私がここでキャンセルすると、多大な迷惑がかかる。
そもそも、ライターなんだから、人前に顔を出さなきゃいけない仕事なんて、ほとんどないっていうのに。よりによって今日? なんで今日!?

落ち着こう。とにかく落ち着こう。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせて、部屋の中で正座した。
大病をしたことがなく、入院の経験がない、救急車に乗ったこともない。最大のダメージは「幼稚園のとき、洗濯機のフタの上に乗って、そこから飛び降りたら、着地失敗して手首を骨折した」時くらいだ。

…この痛みは、救急車レベルの痛みなんだろうか。呼んじゃっていいんだろうか。悩んだ。
でもそこまでじゃない…ような気がした。それに、これから痛みが増すか、減るか、分からなかったし。
原因は何だ。コンタクトの不備? 使い捨てなのに? しかしスゲー大病だったらどうしよう…。

集合時間まで、あとわずか。とにかく集合場所まで行こう、と決めて、電車に乗った。

ズキューンズキューンズキューンズキューン。
痛い痛い痛い痛い。いってえ……。
涙が止まらない。ハンカチで押さえる。
目をあまり動かせないので、視界は足下だけ。よく使う駅までは勘で歩けたが、信号が見上げられないので、横断歩道を渡る時は恐かった。周囲を観察して渡った。見えるのは白いシマシマだけ。
薬局があったので、
「とにかくいちばん即効性のある鎮痛剤ください!」
と言って、一箱買った。その場で開ける。グミみたいな透明のカプセルで、いかにも「即効!」という見てくれをしていた。
ごくん。

電車を乗り換える。
電車の中で大泣きしていたら、周囲がドン引きしているような気がした。目が痛いだけです! 失恋とか心の涙じゃないですから! 誤解しないで! つーか席譲ってくれ! と思いながら、大手町で下車。
集合場所はC3出口だ。でも、あの出口の黄色い案内表示板を確認出来ない。どうしよう、と少し考えて、首をかしげてから、首をのばしてみた。看板見えた、なんとか発見。


「ど、どうしたんですか!?」
取材に同行する、読売新聞CS放送「日テレG+『おとな館』」の担当、大和さんがビックリして立っていた。
「かくかくしかじかで…ええと、さっき鎮痛剤飲んだんですが、そろそろ効いてくるかと…はははは」
「………」
「………」
「……見かけは、そんなに腫れてませんね」
「……そうですか?」
「……画面ではバレないと思います」
「……そ、そうですか!?」
「まず急患、行きましょう!」
「ハ、ハイ」
さすが新聞社社員。ピポパパパと電話をかけまくり、ゴイスな早さで急患病院をサーチ。取材移動用に使うハイヤーで、そのまま病院まで移動。
ああ、もうこの時点で迷惑かけまくっている…しかし家でひとりだったら、急患にも行かないで、翌日まで耐えて耐えて寝てたかも…と、申し訳ない気持ちでイッパイになりながら、同行してもらい、某大学病院まで到着。

検査のための麻酔をしたら、目はスカーッと開くようになった。麻酔おそるべし。
白衣に眼鏡の美青年医師2人に、丹念に目をチェックしてもらう。
(これは、お好きな人ならたまらないシチュエーションなんだろなあ)
と、しょうもないことを思いながら、診察結果を説明された。
「……目の急性胃炎ですね………って言っても、分からないですよね?」
「はあ」と答える。わかんねーよ。
「本日は目薬を3種類出します。2時間おきに、1種類につき2分おきにさしてください。そして明日、再診察にいらしてください。待ち時間がありますので、文庫本など持ってこられるといいかと思います」
目が痛くて、本、読めないと思うよ…と思ったが、「ハイ」と返答。
結局、具体的に仕事していいとか悪いとか、サッパリ指示がもらえなかった。自分がパニクッてて、いろいろ質問出来ないのも悪いけれど、安心もさせてくれない医者ってダメなんじゃないのか?……美青年メガネ男子医師2人組なのになあ……つかえねえ、と思いながら、退出した。

「どうでした…?」と心配顔の大和さんに、
「私、どこまでお手伝い出来るか分かりませんが、ロケ同行させてもらいます!!」と、思わず言ってしまった。胃炎程度の病気だというのだし、薬ももらったし。

そう、実はこの記事、
「当サイトの、『東京から1000円で行けるブラジル』等の記事をベースに番組を作っていただけることになったので、テレビロケに行ったよ!」
という体験記を書く予定だったのだ。
アポなしが多く、無計画行き当たりばったりの私の記事と違って、「日テレG+『おとな館』」さんの取材は、当たり前だがちゃんとしていた。
日本・ブラジル交流の世話役のかたの案内で、当サイト取材時には知らなかったスポットを、たくさん紹介して頂いた。安いお肉が買える場所、新しいブラジルのお菓子とコーヒーが飲めるお店、美味しいシェラスコ料理店、などなど。


フリーペーパー『ぶらじるの達人』(アイピーシー・ワールド刊)。全国各地のブラジル人コミュニティのガイドブック。群馬大泉では、大泉日伯センターでもらうことが出来るのでゲットすべし。

ブラジルで流行ってるというお菓子、タピオカの粉をクレープのように焼いたもの、不思議な食感(これは練乳とココナツの入ったヴァージョン、他にもハムチーズなど種類アリ)。大泉のブラジル雑貨&喫茶店「バナナ・ブラジル」が日本初導入、濃いいブラジルコーヒーと一緒に食べるとウマウマです。

お肉大好きなブラジルの方々のために、でかい肉が安く売ってる「スーパータカラ」にて。加工肉も、「ウインナー部」に寄贈したいような、スゴイのが大量にありました。でも体調&取材多忙で、全然買い物出来なかった…。

チーズのパン、ポンデケージョってブラジルのものだったんですね、知らなかった。ブラジルのかたは、これに甘いものをはさんだり、さらにチーズをはさんだりして、バリエーションつけて食べるそうです。
*ほかに面白いものをいっぱい見たのですが、写真が少ないのは、まったく余裕がなかったせいです、ごめん…。

私の痛みは鎮痛剤でも止まらず、顔はむくれたまま。
そのおかげで緊張するヒマもなかったのだが、脳もまわらなかった。
「私、マイク持ってカメラ向けられたら、2行以上のコメントが言えないなー」と自覚した。いや、もともと、喋るのは苦手なのだけれども……。
食べ物を食べてのコメントも、たいしたことが言えない。初めて彦摩呂を本気で尊敬した。どんな体調の日も、最高の笑顔で、最高に美味しそうに食べて、最高のコメントを言えるのだと想像した。
この日、ロケは5時間に及んだ。4分程に縮めるそうなので……きっと編集でなんとかしてくれるハズ……だと思う。

帰りの移動車の中、「ごめんなさいね、そんな体調のときに、鬼みたいに…無理させちゃって…」と、大和さんにあやまられた。
「いえ、よりによって今日…、ご迷惑かけちゃった、私の日頃の行いが悪いんです」
神経がくたびれきって、ワケがわからなくなっていた。しかし涙は止まらない。
「ところであのう、ボーッとしてると痛みに気がいってしまうので……何か、気がそれるような、お話してていいですか? あのー、読売新聞ひみつ情報とか教えてください、社員食堂がどうだとか、実は巨人ファンじゃない人っていうのは、どんなふうに過ごしているのか、とか」
「あははは、それはですね……(以下略)」

翌日午前中、「痛みが引いてたら、病院フケちゃおうかなあ」と思っていたのだけれど、残念ながら痛いままだったので、再診に行った。
診てくださったのは、クレバーな女医さんだった。
「(カルテを見ながら)昨日よりかなり回復してますね……。目は、皮膚の怪我と同じで、治りが早いんですよ」
ホッとした。
「で、あの、パソコン画面を見る仕事をしているんですが、痛くて作業が出来ないので、効く鎮痛剤が欲しいんですが…」
「鎮痛剤使うと目を使ってしまって、治りが遅くなってしまうでしょう? だから出しません。あ、仕事は今週中はお休みになってください、安静にして」
がーん。
人生、初ドクターストップ。
追加の薬で、黒目に塗る軟膏をもらって帰った。あっかんべーして、目のふちに乗せてから、塗るというシロモノ。目に塗り薬なんて、あったんだ。知らなかった。
帰ってから仕事の調整をした。ほんとに…迷惑…かけまくりだ。

そんなわけで目に薬を投与しまくったら、現在(木曜日)、ほとんど痛みはなくなったので、だましだまし、画面を見ながら、このテキストを書いている。
人間の身体はすごい。あんな痛みが治るんだ。治るんだ!!

「目の不自由なかたって、ネットとどうやって関わっているんだろうか?」とか「東京の街のつくりも人も、具合の悪そうな人に冷たいな」とか「沢尻エリカも、本当に体調悪かっただけかも」とか、イロイロ考えてしまった出来事だった。

自分のブログに急病のことを書いたら、見舞いメッセージをたくさん頂いた。染みた…。

というワケで、来週からは通常営業に戻ります。読者様及び当サイト関係者の皆様、大変申し訳ございませんでした。
そして各病気で闘病中の皆様! 回復を全力で祈ります。治そうぜ。
私も全快するぞー!!

「日テレG+『おとな館』#129 エスニックタウンの歩き方」
初回放映 11/24(土)22:00
再放送 11/25(日)11:40、11/26(月)11:40、11/26(月)22:35、
11/28(水)11:40、11/30(金)11:40、
11月30日ごろからインターネットでもストリーミング配信
https://www.yomiuri.co.jp/stream/tvotona/
「デイリーポータルZ」も紹介されるらしいぜ。しかし顔がむくれているので、見て欲しいような、欲しくないような。いま、家族に連絡するかどうか悩み中です。どうしよう。


 
 
関連記事
口内炎が治らない
風邪を治す、おまじない
エリザベスカラーで暮らす

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.