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ひらめきの月曜日
 
ユニークな笛と音色たち
空いていたホールの片隅で、次々と色々な笛を紹介していただきました。


楽器のひとつも演奏できればなあ…と毎年この時期になると思う芸術の秋です。

先日、友人づてで、「色々な笛を持っている人がいる!」と聞き、面白い笛を見せてもらえないか&聞かせてもらえないかと、その方が出演するライブ会場にお邪魔してきました!

秋というより、すでに冬の気配をひしひしと感じる札幌から、さまざまな笛の音色を紹介します。

(text by 加藤 和美



■笛、ぞくぞく登場

今回、色々な笛を見せてくださったのは、マルチインストゥルメンタリストの扇柳(おおぎやなぎ)トールさん。

扇柳さんは、笛の演奏に関して22年ものキャリアを持ち、ライブ活動やCDのリリースなどを行っているが、笛以外の楽器も何でも弾けてしまうという、なんとも多才なミュージシャンなのです。
そんなたくさんの楽器を扱う扇柳さんですが、今は笛のウエイトが重いのだとか。

そんな扇柳さんに、ユニークな笛を見せてきていただきました。


笛と言わず、楽器は何でも弾けるという扇柳さん。
実は歌声もシブイ。
これ以外にも、バッグからどんどん出てくる笛たち。

 

■それではさっそく見せていただこう

扇柳さんのバッグからは、どんどん笛が出てきます。
普通サイズの笛はもちろん、バッグのポケットからは小さなオカリナがころころっと出てきたり。

扇柳さんの荷物の中に、四角いケースがありました。
中を開けると、木でできたパーツが詰まっています。
一見、何かわからないのですが…。

ケースに収まった木製のパーツたち。 十字になったスタンドを置き、パーツを組み立てていく。
これで完成!?あれ?笛? 扇柳さんが吹き始めた!やっぱり笛だった!

 

■グレートバスリコーダー

扇柳さんが組み立てたのは、グレートバスリコーダーという大きな笛。
サイズこそ大きいが、その名の通り、音楽の授業でおなじみのリコーダーの仲間!とのこと。

同じクレートバスリコーダーでもさまざまなデザインがあるようですが、これは板でできた四角いタイプ。
穴は板ごと押さえるようにできていて、下の2つの穴は指が届かないので、写真左下を押さえると、矢印の部分の板がパカパカと動いて穴をふさぐのがかわいらしい。

板が寄せ集まってできているので、楽器というより木工細工のようですが、あちこちの仕組みといい、音が鳴るために密着されている様子といい、精巧につくられているのがわかります。

ちなみにこちらのグレートバスリコーダーは、ドイツのHerbert Paetzoldさんがつくったもので、スタンドはアメリカのBill Lazarさんの作なんだそうです。

さて、それでは早速、このグレートバスリコーダーの音を聞かせていただきましょう。

穴は板ごと押さえます。
上の板を押さえると、矢印部分の板が動いて穴をふさいでくれる。板がパカパカ動いて面白い。

パタパタ動くパーツにも注目。

大きさからものすごく低い音が出るのではないかと予想していたのですが、予想に反してかわいらしく、ホンワカした音でした。
木独特の暖かさもありますね。
また、笛ながら、パーカッションのようなニュアンスもあるように感じました。

さて、引き続き、ユニークな笛を紹介していただきましょう。

 

■ボーンフルート

次に出てきたのは、ノルウェーの「ボーンフルート」。
ボーン?
…あ、骨だ!

このボーンフルート、羊の骨でできているんだとか。
さっそく吹いていただくと、コンパクトなサイズのわりに、大きな音が響きます。
確かに、木製の笛とはまた違った音色ですね。


こちらがボーンフルート。よく見ると、確かに骨です。 意外と高い音!これが骨の音色か〜。

 

■ヤギのツノ

羊の骨に続いて出てきたのは、おお、ツノだ!
次に出てきたのは、ヤギのツノでできたホルンでした。
これにはビックリ。

こちらも吹いていただくと、くりぬいたツノの中で音が響いて、なんとも不思議な音色がします。
扇柳さんいわく、ヤギのツノは「吹いていてケモノくさい」のだそうです。


ツノの中がくりぬかれて、笛になっています。 穴を押さえる以外にも、左手で微妙なニュアンスを表現しています。

 

■木製尺八

続いては、木でできたまっすぐな笛が出てきました。
こちらはwooden shakuhachi、つまり木製の尺八です。

確かに音色を聞いてみると、音は尺八に似ています。
尺八といえば竹でできているもの、というイメージがあり、木の尺八があるとは知りませんでした。

ちなみにこのwooden shakuhachi、能面作家・松本冬水さんの作だそうで、これまたすごいですね。


こちらが木製の尺八。 音色を聞いてみると、確かに尺八だ!

 

■扇柳さんにお話をうかがってみた

――普段は色々な楽器を演奏されているそうですが、どんな楽器ですか?

扇柳さん:弦楽器、打楽器、管楽器ですね。

――(笑)くくりが大きいですね!楽器なら何でも弾くぞという感じですね。

扇柳さん:本当は一番好きなのは歌なんですけどね。

――一番最初に弾いた楽器は何ですか?

扇柳さん:小学校3年生の頃に、おじにエレキギターをもらいました。その時は音楽に全く興味がなかったんですが、中学の時にバンドを組みまして、それから20歳過ぎまでずっとロックバンドでベースを弾いていました。でも1回音楽をやめて、やっぱり音楽がやめられないなと思ってもう一度はじめた時に、アイルランドのフルート奏者を偶然聞いて、笛が好きになって始めたんです。

――じゃあ、笛を始めたのは大人になってからなんですね。

扇柳さん:25歳くらいじゃないかな。当時はインターネットも発達していなかったので、民俗笛もなかなか手に入らなくて、小学校で使ってたリコーダーを吹いてました。

――ええー!

扇柳さん:アイルランドのトラッド音楽を、プラスチックのリコーダーでやってたんです。

――リコーダーの次はどこへ?

扇柳さん:アイルランドのホイッスルが手に入って、長年それを吹いてたんですけど、やっぱりちょっと違うというのが自分の中に出てきて…アイルランドの笛もとてもいいし今でも使ってはいますが、さらに魅力的な北欧の笛の製作者達と出会ってしまった。それで今はノルウェーやスウェーデンの笛を中心に使っています。

――笛をたくさん持っていると聞いたんですが。

扇柳さん:たくさんは持っていますけど、コレクターではないので、持っているのは使う笛だけですね。

――そ用途に応じて笛を吹き分けているというか、使い分けてるんですか?

扇柳さん:そうですね。

――北欧の笛の魅力は何ですか?

扇柳さん:北欧の笛は音もより素朴で、普通の西洋音楽にはない音律を持っているんですよ。ポップスを聴きなれている人には、気持ち悪いかもしれないんですけど、体にしみこむとそれが心地よくなってくるんですよね。僕が笛という楽器が好きな理由はそこにあるんです。鍵盤楽器などでは絶対に出せない音で自由に表現できる。西洋音階から簡単に脱却できるんです。

――今一番気に入っている笛はどれですか?

扇柳さん:今一番気に入っているのは、ノルウェーのBodil Diesenさんという女性ビルダーが作った笛なんですけど、「シーフルート」といいます。リコーダーから発生し、ノルウェーで独自の発達をしたものです。「海の笛」という呼び方は、1700年代にヨーロッパからノルウェーにボートで運ばれたということに由来しています。他に「シティフルート」ともよばれています。孤独な羊飼いたちが気分転換やダンスのために演奏していたようです。スケールは通常のリコーダーとは違い、5度の音や7度の音は低く、メジャーとマイナーの中間くらいになっているなどいくつかの違う間隔を含んでいます。



お話に出たシーフルートの音色をふたつ、お聞きください。
物悲しい音色が特徴的です。

――笛はどうやって入手しているんですか?

扇柳さん:外国の製作者に直接メールでお願いして作ってもらっています。
伝統的な笛を作っている人って本当に少なくて、シーフルートを作っているのはこの笛を作ったBodil Diesenさんともう1人くらいしかいないんじゃないかな。

――笛を作っている人に直接連絡しているんですね!

扇柳さん:イギリスのJonathan Swayneにwooden whistleのLow Gの製作を頼んだ時は、できるまでに6年もかかりました。笛を作っている人はたいてい自分もミュージシャンで、ツアーとかフェスがあって忙しかったりするんですよ。他の人のオーダーがたまっていることもありますし。

――その笛、6年たってから届いたんですか?

扇柳さん:ジョン・フェイフィっていうギタリストのトリビュートアルバムに参加しているんですが、そのCDは海外でも販売していまして、たまたまJonがそこのクレジットで僕の名前をみつけて、CDの発売元に連絡してくれて、僕のところに「まだ笛が要るんだったら…」と連絡をくれました。その笛はすごく良かったですよ(笑)

このように、海外の製作者から直接笛を購入しているという扇柳さん。

この日のライブでは、主にスウェーデンの「オッフェーダルスピーパ」「ヘリエーダルスピーパ」という笛を演奏されていました。
最後に、そのもようをどうぞ。


扇柳さんが参加しているユニットで、古楽をモチーフに活動している「CICLO」のライブ風景です。

■まずはリコーダーから第一歩

現在はどんな笛でも吹きこなす扇柳さんですが、22年前、子供が使うようなプラスチックのリコーダーを吹き始めていたのがスタートだったとは。

伝統的な笛を作っている職人さんが少ないというのと、そんな職人さんと直接連絡をとって購入する、というのも驚きでした。

北欧の伝統的な笛は、扇柳さんのおっしゃるとおり、よく耳にする西洋楽器にはない、物悲しさというか、独特の味わいがあります。

扇柳さんは、以前取材させていただいたカンテレ奏者のあらひろこさんともユニットを組んでいて、こちらのライブも拝見しましたが、独特の物悲しさと暖かみの混在した不思議な空間でした。

普段あまり聞かない、伝統的な北欧音楽にグッと近づけたような気がします。秋の夜長、北欧の音楽もいかがでしょうか。 

私も吹かせてもらいましたが、音を出すのでせいいっぱいでした。

■取材協力

扇柳トールさん
URL:
https://air.ap.teacup.com/toru/
https://www.myspace.com/ogiyanagi


 
 
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