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ひらめきの月曜日
 
食べ物に躍動感を与えたい
イメージ図。


鮎などの川魚を、うねらせるように波打たせて串に刺すことを「踊り串」もしくは「うねり串」と言うらしい。

で、その行為の意味するところだが、ネットであれこれ調べてみてもどうも釈然としなかった。というのも「味にこのような影響があるので」と説明されることは少なく、まず第一に「鮎が泳ぐさまを生き生きと表しましょう」と書いてあるのだ。

それはつまり、鮎に躍動感を与えているということか?
あれは見てくれ重視の技だったのか?

だとすれば、だ。なにも鮎などの川魚にだけ生き生きとさせるのは勿体ないのではないか。

そんな思いから、いろんな物に踊り串を打ってみた。

(text by 高瀬 克子

 



海の魚も生き生きと

考えてみれば、踊り串どころか魚に串を打って焼いたことがない。普段はコンロでそのまま焼いている。

そこで、まずはセオリー通りに魚を焼いてみようと思う。もちろん川魚以外のもの限定だ。ここで鮎を焼いたんじゃ意味がない。そもそもこの時期、売ってない。

と、まずは鉄の串を購入してみたのだが。


パッケージには、アジ。

写真を見て驚いた。もしかして、普通の家庭でもこのように魚を串に刺して食べるのは一般的なのか? 単に私が無精なだけなのか?

…いやいや、これからやろうとしているのは踊り串だ。ただ串に刺すのとはわけが違う。

そう、うねらせるのだ。うねうねと、まるで生きているように食べ物を波打たせる…となると、やはりある程度の長さは必要だろう。


というわけで長い魚代表、サンマです。

もうすっかり冬だというのに、近所のスーパーでは「季節の商品!」としてサンマが大売り出し中だった。これも温暖化の影響だろうか。

まぁいい。これにさっそく踊り串を施してみた。


正面から見るとずんぐりしてますが、
上から見ると、おお! 泳いでる!

波打ったサンマは、正面から見ると「なんだかシャープさに欠けたな」とか「寸詰まったな」という印象だが、上から見るとなかなかどうして、今にも泳ぎ出しそうな風貌じゃないか。

果たしてサンマが海中でこのような体勢で泳いでいるのか? という疑問はさておき、かなり躍動感あふれる姿になったと言えるだろう。

せっかくだから炭火で焼きたいところだが、あいにくそんな設備はない。いつもの通り、コンロで(ただしタテ置きで)じわじわと焼いてみた。


ウツボでもウミヘビでもありません。サンマです。

な、なんだ、この凶悪なツラ構えは。きみは海のギャングか。はたまた謎の深海生物か。

…と言いたくなるくらい、なにやら妙に恐い焼き上がりになってしまった。躍動感がありすぎて、かえって猛々しい。私の知ってるスラリとした柳腰のサンマはどこへ行ってしまったんだ。

もしや、海の生き物に踊り串を打つのは好ましくない行為なのだろうか。川魚程度の可愛さだからこそ、許される技だったのか?


とは言うものの、片手で食べられる手軽さは魅力。
箸を使わずにここまで食べられます。

もちろん、味はいつものサンマだ。おいしいサンマだった。身が曲がったせいか、骨離れがいつもより良かったように感じられたくらいだ。

でも、いかんせん見た目が恐い。写真ではうまく伝わらないかもしれないが、これは迫力がある。いや、ありすぎる。

どうやら、躍動感を出し過ぎるのも考えものらしい。次は少しおとなしい食べ物に挑戦してみよう。

 

 

 
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