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ひらめきの月曜日
 
ドキュメント・生まれて初めて句会で自作の俳句を詠んだ

SCENE5
11月30日〜12月1日
自宅のデスク
メモ帳を片手に思いついた句をメモする


書いては消し、また書きかえる

いつしか真剣に俳句を考えていた。仕事中もメモ帳を横において、言葉を思い浮かべたらなんとなくメモをしていった。

デイリーポータルZの3年半に渡る連載で学んだこと。それは、奇をてらわず、かっこつけたりせず、思いのまま書くことが人の心を動かすのだ、ということだ。無理に面白い、いいものを作ろうとしても思うようにはいかない。うまい表現は難しいが、分かりやすい表現なら誰でも可能である。そして、分かりやすい表現であれば人は感じとってくれるものだ。

僕は俳句はド素人だが、文章で生計を立てている。だから冗談まじりの句を提出してお茶を濁すわけにはいかない。と同時に、現代語で表現している人間である。無理に古語をひっぱりだして『候』とか『なりにけり』とか使わずに、現代の言葉で俳句を書こう。それが自分の土俵である。そう思った。

一方で不安もある。それは僕が季節と共に生活していない、ということだ。僕は季節感のない人間だ。年中都会で暮らし、コンビニでご飯を食べている。ピンと来ない季語ばかりなのだ。僕に季節はないのかもしれない。

日が過ぎていった。小川さんから電話があった。

小川「本番では4つ考えてきてくださいね。それから、サイトの取材だってことは藤谷さんに伝えておいたから」

梅田「4つ! ひとつも出来てないのに」

小川「まあ、梅田さんにそんなに期待している人なんて居ないとおもうから、楽に考えればいいんじゃないかな」

梅田「うるさいな。僕が一番知っている」

電話を切った。そして、ん? と思ってさっき自分が話した言葉を反芻した。

うるさいな(5)ぼくがいちばん(7)しっている(5)

はははとひとりの部屋で笑い、そして床についた。明日は本番だ。

 

SCENE6
12月2日 午後6時
下北の いつものカフェと 小川さん

梅田「僕なりに 考えました よっつぶん」
小川「梅田さん、話し方変ですよ」
梅田「そうですか そんなことなど ありません」
梅田「まあいいや とにもかくにも 見てくれる?」
小川「気持ちわるいなー」

僕はメモ帳を渡した。

小川「字が汚くて読めません。なんて書いてあるんですか?」


字、汚いなぁ

僕が考えた句は以下の6句だった。

かじりつく ストーブの前 寒い朝
マフラーを ほどく仕草に 見とれてる
湯豆腐を つつき夜更かし 幸せだ
お願いよ どうかこのまま 掛け布団
だるい朝 マスク片手に 通勤し
ダイコンと たまごのおでん コンビニで

決してうまくはないが、自分の生活に密着した句を考えたつもりだった。

梅田「どうですか?」

小川「うーん……なんですかね、そこまで悪くはないんですけどね。もう少し工夫すればよくなるものが多いです」

梅田「た……例えば…」

小川「まず、一番最初と最後の句は、季語が重複してます」

かじりつく ストーブの前 寒い朝
→ストーブと寒い朝が両方とも季語
小川評:それに、散文的すぎる。ぶつぎれの言葉を並べた感じ。

ダイコンと たまごのおでん コンビニで
ダイコンとおでんが両方とも季語
小川評:これもただの感想、というか事実を述べただけ。梅田さん、コンビニのことを取り上げないと気がすまないのか。

梅田「この2つはボツですか。もう4つしか残ってないですよ」

小川「湯豆腐のやつですが」

梅田「これはいいんじゃないですか。僕の生活ですよ」

小川「『幸せだ』というのが気になります。俳句というのは、幸せだ、と書かずに、どう幸せであるかを表現するかなんですよ」

梅田「あ、それ、デイリーポータルの編集者にも言われたことある! 林さんとおんなじことを言ってる! そうか、俳句も文章なんだ!」

小川「それに無理やり五七五にまとめたみたいです」

梅田「確かに。どうにかなりませんかねー。これがボツなら残り3つになっちゃいますよ」

小川「あと、『だるい朝 マスク片手に 通勤し』ですが」

梅田「これもダメですか。マスクが季語です」

小川「『朝』と『通勤』がかぶっているんです。つまり『通勤』と記せば、それが朝であることは説明しなくても想像できるんですよ」

梅田「なるほど」

“頭痛が痛い”、“冬の朝が寒い”のような凡ミスである。結果、小川さんとも相談しながら、2本が採用。残りの2本は小川さんにも手助けしてもらいながら表現を変えることになった。


マフラーを ほどく仕草に 見とれてる
お願いよ どうかこのまま 掛け布団
仕事終え 湯豆腐つつき 夜が更ける
通勤の マスク手にして 揺られてる

「うん、これでいいんじゃない」

これが俳句暦6日の僕に出来る精一杯だった。気がつけば、もう時間だ。

遅刻しかけて、慌てて撮った店の外観。これが目印です

句会本番前の様子。藤谷さんが主催する句会は、20代〜30代の若い参加者が多い。

僕の100パーセントの力を出した文字がこれです。バランス悪い。

SCENE7
12月2日 午後8時
句会本番

この日の句会は僕や小川さんを含め、総勢10名の参加者が集まった。藤谷さんに取材のご協力に感謝を述べると、みんなの前で自己紹介するようにと勧められた。ニフティのデイリーポータルZというサイトで記事を書いていて、その一環でこの句会に参加することになった、写真を撮るが申し訳ないと告げると、参加者のひとりが「あ、梅田さんだ」と声をかけてくれた。普段なら嬉しいが、僕は今からつたない俳句を発表するのだ。知っている人がいるのはショックだ。

よっぽど、デイリーポータルZの藤原といいます、大北といいます、と言おうと思ったが、それはやめておいた。


自作の句を短冊に書く

まずは参加者は自作の句をひとり4句、短冊に書き込む。そうして、今回の場合40句集まったものを、誰が作者かわからないようにシャッフルして、それぞれが4つの句をくじ引きの要領でひいていく。

次に、自分が引いた句を清書する。これを「清記」と呼ぶらしい。達筆な皆さまが句を清書すれば、それは清記に違いないが僕の清書はとても幼稚な文字だった。

次に自分が書いた句を声に出して2回詠む。人様の俳句を僕の詠みで台無しにしてはいけない、と深呼吸しながらゆっくり、なるべく感情的にならず平坦に詠みあげることにした。これは吉本の学校や、最近挑戦したラジオコントで学んだことである。ボケるときはできるだけ感情的にならずに、滑らかにすらっと言ったほうがいい…

そんなことを思いながらつつがなく詠み終えた。こんなとこでコントの知識が役に立つとは思わなかった。コントも文章も俳句も根っこは同じだ。


気分は合格発表(そんなに大げさなものじゃないけど)

次に皆の句を合格発表みたいにいっせいに貼りだす。参加者はそれぞれの句を詠み、どの句がよかったかを選ぶ。このとき参加者の人数+1句(今回の場合11句)選ぶ。

集計して、最も多くの人に選ばれた句が、今回の優秀作、ということになる。

皆が「清記」したものを貼りだす。
どの句がよかったか、皆で選ぶ。

 

それぞれが良いと思った句を発表し、集計する。最も支持された句から順番に品評し合い、最後に作者を発表する。誰が作ったか分からないのが面白い。

感想を述べるのが楽しい!

藤谷さんが多くの人に支持された句から1つずつ読みあげ、投票した人に、その句のどこが良かったのかを発表する。もちろん、僕も発言するのだ。

書くときは原稿の締め切り前みたいに憂鬱だったが、他人が書いた句を褒めるのはすごく楽しかった。みんないい句ばかりで、俳句のことなんか何も分からなくても、この句はここが素晴らしい、という言葉がすらすらと浮かんできた。藤谷さんも僕を気遣ってくれるのか、僕の感想に対し、「なるほど」、「そう詠んだか」、「うん、僕もそう思う」などと合いの手を入れられ、これまでの緊張がウソのように饒舌になっていた。句会、面白い。

さて、すっかり選者として楽しんでしまったが、僕が書いた4句の成績はどうだったのか。それは次のページで。


 

 
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