いた!
半信半疑、というよりも三信七疑くらいの気持ちで足下をライトで照らしながら真っ暗な干潟をウロウロしていると、光りの中になにか場違いな物体が照らし出された。
あ!
イシガニだ!
本当にいた!
目の前に大きなハサミを持ったでっかいカニ。
もの凄い心臓がドキドキする。
今まで私が捕まえてきたイソガニやザリガニなんかの甲殻類とは比べものにならない迫力である。カナブンやコガネムシを捕まえて喜んでいた小学生が、ある日森の中でオスのカブトムシに出逢ったくらいのドキドキだ。
トング VS ハサミ
ここからはイシガニと私の一対一の勝負。向こうはハサミ、こっちはトング。向こうの方がパワー、手数共に勝っているが、リーチだけはこっちの方が有利である。
カニの目を睨みながら慎重にトングを伸ばし、逃げる前に一気に挟んで引き上げる。カニをカニ挟みだ。
まさかのカニ拾い、成功である。
トングを近づけると、イシガニは逃げるどころか猛然とトングに喧嘩をしかけてきた。トングで挟んでもハサミを伸ばしてくる。持ってきたのが長めのトングだったからよかったものの、もう少し短かったらこっちの指が挟まれていたことだろう。
イシガニ、そのマッチョな見た目通りのあっぱれなファイターである。もし仮にイシガニと私が同じウェートだったらきっと私が捕食されていたことだろう。カニ拾いどころか命拾いした気分だ。
捕まえるのが楽しい
「カニをトングで拾う」という非現実的な行動がもの凄く興奮する。きっと宮本武蔵がハエを箸で掴むのと相通じるものがあるはずだ。
この磯遊び、アナジャコ、マテガイ以来の大きな衝撃である。気に入ったぜ。
イシガニを一匹見つけたことで俄然やる気が出てきた我々は、波の音しかしない真夜中の磯を潮が満ち初めてくるまでの二時間あまり散策し、二人で10パイものイシガニを拾うことに成功した。いえーい。
海から上がって一休み。
海風で冷え切った体を缶コーヒーで温めながら、我が人生において、こういう新しい遊びに出逢うっていうのがなによりの喜びであるなあとしみじみ思った。
いやあ、カニ拾い、たのしいや。