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ロマンの木曜日
 
伝説のお弁当屋さん

これから僕たちのランチはどうなるのか

  去る11月中旬、東京は新宿のとなり町、初台に衝撃が走った。

人気の弁当店「キッチンクラナハ」が閉店するというのだ。

小さな商店街にあって、お昼時には長い行列の末に連日売り切れが続くという、人気絶頂での突然の閉店。

閉店の理由、開店のきっかけ、そして今後はーー。

いろいろ訊いてみたかったので、思いきってインタビューを申し込んでみた。

萩原 雅紀



誰も知らないと思うけど

4年ほど前、僕の職場がある初台の一角に、軽自動車を改造した移動販売のお弁当屋さんが突然現れた。

メニューはごはんの上に具が載る「丼もの」が日替わりで毎日一品のみ。これに温かいスープがついて500円。ごはん大盛り無料。

このスタイルに、近くで働く人々が飛びついた。

周辺にはコンビニ、ホカ弁、ファーストフードなどの大手チェーン店も立ち並ぶが、ここ1、2年は毎日のように長蛇の列ができ、早い日はお昼の12時過ぎに売り切れ。短期間でエリア随一の人気店に躍り出た。

店の名は「キッチンクラナハ」。どうやら女性が一人で切り盛りしているようで、後部を移動販売用に改造してある白い軽自動車と、かわいらしいランチョンマット風の暖簾が目印。


お店の全景 目印のかわいいランチョンマット

僕が最初に食べたメニューは、香りに引き寄せられた「ドライカレー」で、ごはんの上にキーマカレー風のルウと千切りキャベツ、ゆで卵が載っていた。

これが、とてもお弁当屋さんのメニューとは思えないほど香り豊かで濃厚な味わい。連日、コンビニかファーストフードで済ませていたお昼ごはんに、新たな、そしておいしい選択肢が増えたことが嬉しく、その後もちょくちょく買いに行くようになった。

日替わりで違うメニューが食べられるというのも嬉しいポイントで、お店の前に掲出される、メニューの書かれたホワイトボードを覗きに行くのが楽しみになった。

「ドライカレー」以外のメニューももちろんおいしくて、しかも女性らしく彩りが豊か。単純な色合いになりがちなメニューの場合でも、必ず最後に刻みネギやカイワレ等がトッピングされ、味だけでなく見た目も楽しめる。そのため、丼もの専門であるにも関わらず常連客は女性の割合が高い。


ある日の行列、ちなみにまだ12時前 果たしてここまで売り切れずに残るか

この日のメニューは「豚肉のネギ塩レモン焼きごはん」。薄く塩味のついた豚肉と玉ねぎや青ねぎの炒め物だが、仕上げに一人一人レモン汁を振りかけるというこだわり。最後にちょこんと赤いプチトマトがトッピングされるのが嬉しい。これにワカメの味噌汁がついてくる。

豚肉や玉ねぎの甘みを塩味が引き締め、レモンの酸味が後味をさわやかに。ごはんとの相性は文句なく、あっという間に食べてしまった。


僕の数人後ろで売り切れ、危なかった… 忘年会のお知らせは気にしないで下さい

おいしいお弁当が日替わり。しかもワンコインで楽しめるというのがこの店最大の魅力だろう。そして、お弁当の見た目などにもこだわる店主のセンスも人気の要因だと思う。暖簾やカウンターまわりの装飾もシンプルだが清潔感のあるお洒落なデザインで、僕ははじめこういうコンセプトの新しいチェーン店なのかと思ったほど。同じ暖簾の店が都内各所に出ていると思っていたのだ。

ところがそんなことはなく、これらはすべて店主ひとりのアイデアによるものとのこと。すごいトータルプロデュース。

人気がありすぎて毎日買うのはちょっと難しいけど、この店がある限り僕はお昼に迷うことはない、と思っていた。11月中旬まで。


突然の閉店発表

ある日、いつものようにお弁当を買いに行くと、「12月末で閉店します」とのお知らせが。

理由は「この場所で販売ができなくなる」とのことで、「代わりの場所を探したけど、見つからないため」閉店するとのこと。何てこった。

販売形態も面白いし、お店まわりの雰囲気作りもいい。何よりこの行列を造り出した人がどんな人なのか。その味の秘密は、今までどんな店で修行してきたのか、そして今後その腕をどこで生かすのか。

いろいろ知りたかったので、その後も何度か通い、いよいよ閉店まであとわずかという日に、意を決して取材を申し込んだ。

断られるのを覚悟でお願いしたところ、意外にもお返事は「いいですよ」。

あっさりOKの返事で若干拍子抜けしたものの、最終日前日の閉店後にお話を聞けることになった。

そういえば、自分がインタビューするのって初めてだ。


 

 
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