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フェティッシュの火曜日
 
塩ビパイプでサックスをつくる


 お待たせいたしました。次に作る楽器は、サックスです。

 塩ビパイプでサックスを作る。あまりに無謀な試みかもしれない。しかしサックスは僕にとって思い入れのある楽器だ。そんな楽器が自分の手で作れたら最高じゃないか。

 だめでもともと。やってみることに意義がある。さっそく追加の材料を買いに走った。

 

追加部品はこれだけ

さっき切った切れ端でつないだり

サックスとわたし

 大学のころ、僕はジャズ研に入っていた。「ジャズ研に入っていた」というとジャズマンだったみたいでかっこいいが、実際に入っていたのは2ヶ月だけで、練習が面倒になってすぐにやめてしまった。「練習がつらくて」ではなく「練習が面倒になって」であるあたり、自分の根気のなさがよく表れたエピソードだ。

 そんなジャズ研に入部するときの話だ。入部の書類を書きながら、出会ったばかりの先輩と話をしていた。先輩に、好きなジャズマンは?と聞かれ、僕はアメリカのテナーサックス奏者の名前を答えた。そのときの先輩の反応は覚えていないけれども、とにかくそういった会話を入り口にして僕はジャズ研に入った。そして、これは後からわかったことだが、その先輩もテナーサックス奏者だったのだ。

 そんなちょっとした偶然があって、僕はジャズ研でテナーサックスを吹くことになった。というわけではなかった。僕が持った楽器はトロンボーンで、なぜかというと高校の吹奏楽部でやっていたホルンからの移行が楽そうだったからだ。そもそも高校でホルンを選んだ理由も、楽器を買わなくても借りられるから、という無気力なものだった。そうやって体温の低いなりゆきに流された結果、僕はサックスには1度も触れることなく、2ヶ月後にはジャズ研をやめたのだった。

 僕はあの日、入部のときに自分の楽器としてサックスを選んでいればよかっただろうか。そうしたら練習に飽きることもなく、ジャズマンとしてメキメキ腕をあげていただろうか。そんなことを考えてみるのだけれども、絶対にそうはいかないのはわかりきっている。

 サックスのほうが指使いが難しいから。余計にすぐやめていただけだろう。


アロンアルファで止めたり
このカーブがサックスですよ

 

いい形

色が変なら塗りゃいいんだ

新世代のサックスを

 僕のサックスに対する思い入れを語るつもりが、僕の無気力さを露呈するだけの結果になってしまった。おかしいぞ。

 とにかく、楽器脱落者として言いたいのは、「指を使わなくても華麗に吹けるサックスがあってもいいじゃないか」ということだ。さっきの話はそういう結論だったことにしてほしい。

 楽器作りに話を戻そう。本気のサックスを作るのは無理ですよ、そりゃ。素人だし、パイプだし。でも、ディジュリドゥを改造することで、新しいサックスができないだろうか。形をかえて、サックス型のディジュリドゥを、いや、ディジュリドゥ風に吹けるサックスを作るのだ。このプロジェクトが成功すれば、一切手を使わないで口だけで演奏できるサックスが出来上がる。もう指使いを練習する必要はないぞ!新世代のサックスで、全楽器脱落者の夢をかなえるのだ!

 ただし音はぜんぜん違いますが。

確かな手応え

 この楽器、形を組みなおした時点では「煙突?」という感じのビジュアルだったが、スプレーで色を塗り始めると様子が急変した。ピカピカ光っているのだ。そういう塗料を塗ったんだから当たり前といえば当たり前だ。しかし、この光沢の高級感が楽器に命を吹き込んだ。

 パイプから楽器へ。いま、突如として目の前に、真鍮製のサックスが出現した。


輝くゴールド。まばゆい!
ワクワクしながら乾燥待ち…

 

できました!!

できた!

 ついに完成!この金色に輝くボディ、ヘアピン型に曲がったフォルム。これをサックスと呼ばずして何と呼ぼうか(NGワード:パイプ、ディジュリドゥ)。通りすがりの人にものすごく怪訝そうな顔で見られているが、そんなことを気にしている場合ではない。とにかく、ここに僕のサックスは完成した。

 高鳴る胸を押さえて、ついに、息を入れる。全楽器脱落者の夢が、今ここに実現する…!


 

ジョン・コルトレー豚

  ブヒョ、ブヒーブヒー。偶然通りがかった豚の声ではない。その音は、とても悲しいことだが、僕の手の中から聴こえていた。華麗なアドリブソロを奏でるはずだった僕のサックスは、豚の鳴きまねだけが得意な、宴会の一発芸みたいな楽器だったのだ。

「…うなるベースに疾走するドラム、火を噴くようなトランペットのソロが終わり、次のソロは…豚、豚だ!…いや違う、手作りサックス!!」

 客席の動揺を目の当たりにしつつ、32小節のソロを延々と豚の物まねをしてやりすごす。そんな光景を想像して、やっぱりこの楽器を世に出すのはこの記事だけにとどめておこうと思った。新世代サックス、失敗セリ。楽器脱落者の皆さん、ご期待に添えずすみませんでした。

元に戻したものの、金ピカで気恥ずかしい楽器になってしまった


 

 
 
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