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ちしきの金曜日
 
下町のハイブリッドスーパー「倉井ストアー」
 


 「ハイブリッド」という言葉がある。何かと何かを組み合わせた、といったような意味だ。

 例えば「ハイブリッドカー」と言えば、ガソリンエンジンと電気モーターなどの組み合わせによる自動車となる。それゆえかハイブリッドという言葉には、先進的なイメージと言葉 の音の響きが重なったかっこよさを感じる。

 今回訪問したスーパーも、意外な角度からハイブリッド。下町風情でかっこよさとはちょっと違うけれども、時代のニーズに応えて変容してきたという歴史もあった。

 その店の名は倉井ストアー。いかにも地元のスーパーという名前ですが、その実体をご覧ください。

小野法師丸



●葛飾の街に立つハイブリッドストアー

  今回訪れたのは、東京都葛飾区の立石。立石はともかく、葛飾区は有名なマンガの舞台となっていることもあって全国区で知られていると思う。


立石駅前の商店街も魅力的

 写真は駅前の仲見世商店街。細い路地にいろいろな店が軒を連ねていて、生活感と情緒にあふれるいかにも下町といった雰囲気の通りだ。


うまそうな黄金色
これまた立ち寄ってみたくなるディスプレイ

 おいしそうなお惣菜を並べている店や、時が止まったようなサンプルが飾られている店など、目的地に着く前に入ってしまいたくなる店がたくさんある。ちょっとしたテーマパークのようにも感じる。

 そんな商店街からは少し離れているが、同じ町内に今回目的とした店、倉井ストアーはある。


白とオレンジのカラーリングが当サイトと共通

 昔ながらの住宅街にはよくあるようなたたずまいの倉井ストアー。看板こそ比較的新しいものに見えるが、時間を重ねてきた店だけが放つオーラを漂わせていると思う。

 さて、では店内に入ってみよう。


あくまで普通の店
突き当たりは精肉コーナー

 まず入ったところでは、ペットボトル飲料や食品雑貨などが置かれた様子が目に入る。奥の冷蔵ケースは肉類が並べられていて、対面式の精肉コーナーであることがわかる。

 この店、カタカナの「コ」の字を反時計回りに90度回転させたような造りになっている。というわけでさらに先に進んで…。


コの字カーブを進みます

 突き当りを右に曲がって店の反対側に入ると…。


軽い別世界

 こうなっている。思いっきり食堂だ。

 確かに「お食事処」ののれんは下がっているのだが、うっかり普通のスーパーだと思って入ると相当のトリッキーだと思う。喫茶コーナーなどではなく、100%食堂だ。

 意外性がある分、なんだか魅力的。お腹も空いているので何か食べよう。


お弁当のバリエーションがすごい

 そう思ってお弁当のラインナップを眺める。精肉コーナーの上にはかなりたくさんのお弁当メニューが貼られていて、どれにしたらいいのか決められない。

 上を向いて決めかねていると、お店の人が「はいよっ」と、ひとつ差し出してくれた。


啓示のように試食をくださったご主人
カリッとした衣がおいしいジャガイモのフライ

 このお店、なんとも言えないエネルギーにあふれている。どうしてこうしたお店が誕生したのだろうか。ご主人にうかがったところ、いろいろと話をしてくれた。

「もともとは肉屋だったんだけどね、ほら、大型スーパーができて、そのままじゃ商売も大変だってことでお惣菜を充実させていったんだよね。その頃はさ、パックのお惣菜を店内で食べられるようにしたって感じだったんだよ」


確かに今もパックメニューは充実

 なるほど、お惣菜に重きを置いた展開は、時代の変化に対応したものだったわけだ。それにしてもおかずの種類の多さははどうして生まれたのだろうか。

「お客さんがさ、あれを焼いてくれだのコレをああしてくれだの、いろいろ言ってくるわけよ。それに応えてたら、いつの間にかこんなになったんだよねえ」

 ニーズに細かに対応していったことで豊富になったバリエーション。実に真っ当な変化だと思う。

「ごはんはどんぶりに盛ってくれだの言うわけでさあ、それでこうなったわけ」

 おかずと一緒にごはんをどんぶりで食べたいと思う気持ち。倉井ストアーはそうした要望をも受けて変容していった。つまりは定食だ。


僕を責め立てる定食類のラインナップ

 どれにしようか決められないくらいの数の定食。全て609円という値段の思い切りのよさもすごい。こっちはちょっと高いとか、あっちは安くとお得感があるとか、そうした価格の軸を選択基準から消去。だからこそ余計に迷ってしまう。


メニューの上にのぞく品物がこの店のもう一つの顔

 そんなメニューの上に売り物であるトイレットペーパーが並ぶのがこの店らしさなのだろう。忘れかけていたハイブリッド感がよみがえる。

 メニューをじっと見つめてしばらく、かなり迷った末、コロッケ定食を注文。


写真でもボリューム感が伝わるだろうか

 メインディッシュも付け合わせも、さらにはご飯もかなりのボリューム。ビニール袋に入っているのはどの定食にもついてくることになっているゆでたまご。それぞれのパンチが重量級であるのに加え、ダメを押されたようでもある。

 もちろんコロッケはうかつにかじれないほどアツアツ。特にカニクリームコロッケがおいしかった。


自家製という響きと150円という価格が魅力的
想像以上に立派なのが出てきました

 壁に貼ってあった「自家製ハンバーグ 150円」も気になって追加オーダー。こちらもあったかくて大きなものがやってきた。先ほどの定食といい、このハンバーグといい、私の写真だと今ひとつボリューム感を伝え切れていない感じがするのが悔しい。満腹になった。

 かなりリーズナブルでもある倉井ストアー。こうした価格設定でやっていけるのか心配になったりもする。


意外とだいじょうぶだよ〜

「まあ、普通の給料くらいはちゃんともらってるから大丈夫だよ」

 さらっとそう言うご主人がかっこいい。細く長く続けていきたいともおっしゃるその言葉に重みを感じた。

セールの名前も味わい深い

  取材時にもらってきたチラシには「おかずだけもあるよセール!」との文字が。定食や弁当にとらわれず、おかずのみという選択肢にフォーカスを合わせたセールだろう。なんてかわいいセール名なんだと思う。(チラシ価格は持ち帰り用の価格です)

 ご主人の言葉通り、細く長く、でもコロッケやハンバーグはでかくあり続けてほしいお店でした。


●倉井ストアー
 東京都葛飾区立石2-18-4
 営業時間 午前9:00〜午後8:00
 日・祭日定休

 
 
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