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はっけんの水曜日
 
バター茶って、お茶っていうより…。


 

名前は知っているのに、実物のことはよく知らない、というものが多々ある。
たとえば「ボーキサイト」。学校の教科書の、輸出入の項目の字面でしか、見た事がない。
たとえば「モスリン」。『若草物語』等での「ねえお母様、モスリンのドレスが欲しいの」といった台詞でしか、見た事がない。
そういうのを、頭の中の「いつか把握してやるぞ」箱に、とりあえず入れている。
この冬、あまりにも寒いので、その箱の中からふと、「バター茶」という言葉を取り出してみた。

「バター茶」。厳寒の、チベットとネパールの国境付近で飲まれているという、身体のあたたまるお茶――紀行文でしか読んだことがない飲み物だ。バターが入れてあって個性的な味、ということしか知らない。
東京で飲めるところは、あるのか? と思って調べてみたら、「レッサムフィリリ」というレストランを発見した。
一人で夜に、エスニックレストランに行くのもなんなので、ランチ狙いで行ってみた。
しかし道に迷い、ランチタイム終了5分後に到着してしまった…。
丁度、お客さんがハケたところであった。

(text by 大塚 幸代



象の置物が2匹、狛犬のように並んだ入り口。重くて立派なドアーを、おそるおそる開ける。
「あのう、ランチ…って、終わっちゃいましたよね?」
スタッフは全員、異国の人であった。しかし日本語ペラペラな男性が、「イエ、イイデスヨー、ドウゾー」と、微笑んでくれた。
ランチはビュッフェで1000円だ。食べ放題メニューとは別に、通常メニューも別料金で頼める。
「あのう、チベタンティー(バター茶)も頼みたいんですが」
「ショクゴガ、イイデスカ? ショクゼン?」
「じゃあ、食後で……」
「ランチ、ココ、オ皿。スキナダケ、タベテクダサイネー」

パカ、と炊飯器のフタを開けられてしまった。たくさん食べないわけにいかない。


とりあえずビュッフェを食う。この日に出ていたのはチキンカレーと、小豆(?)のカレー。あとサラダやら、野菜料理やら、チベット風のパン(ナンより小さく丸く、ほんのり甘い)とか。美味し。

そしてついに、バター茶が運ばれてきた。

ものすごく意外な入れ物で出て来た。ゴージャスだ。


フタを開けると、こんな感じだ。大きさ的には、いわゆる日本茶の湯のみと同じくらい。

「コレ、オ茶ガ熱イカラ、フタヲトッタラ、下ノブブン、ゼンブ持ッテ、クチマデ運ンデ、飲ンデネ」
「は、はい……」

少しだけ、カップに直に触れてみた。確かに熱い、このままでは持てないだろう。

「あのう、現地のかたも、この入れ物で飲むんですか?」
「ソウデスヨ、チベットノ人、マグカップトカ、ツカワナイデス」

そうなの? と思いながら飲んでみる。
……濃い。濃いい。濃厚なお茶とバターと、ミルクの味。甘くなく、塩味。後味が苦い。
普段、甘いお茶ばかり飲んでいる身としては、この「塩味」が、ショッキングだった。駄目な人は、駄目かもしれない。例えば、「甘いお米のプディング」が、苦手な人が多いように。
「美味しい、というか、混乱する味だなあ…欧米人も、日本茶を飲むと、ホウレンソウの味がして困るって人が、いるらしいしなあ…」などと、悩みながら飲んでいるうちに、ひとつの考えが浮かんだ。

これ、お茶だと思わずに、「スープ」だと思って飲めばいいんじゃないのか。

すると抵抗感が無くなった。お茶風味、バタースープ、だ。
お茶としては受け入れにくいけれど、スープならOKだ。

「コレネ、チベットノオ茶ト塩デ、作ッテルンデスヨ」
暇な時間だったせいか、スタッフの人が相手をしてくれた。
「お茶受けって、普通は何を食べるんですか?」
「オチャウケ?」
「つまむもの、というか、お茶に合わせて食べるオヤツ、とか…」
「オ茶ダケ、デス。オ茶ダケ飲ミマス。チベットノヒト、コレヲ1ニチ、2、30ハイ飲ム。長イポットデ、持チ歩イテマスネ」

お茶だけなのか。確かにこれだけで暖まるし、カロリーもとれそうだ。

興味深そうに飲んでいたせいなのか、ビュッフェが余り物だったからなのか、お会計を300円、オマケしてくれた。親切でいい店だった。また行こう。

 

■自宅で作ろうとしたのだが

帰宅してから、「本場の味もなんとなく把握出来たことだし、自分でも作ってみよう」と思った。
レシピを調べると、「これでいいの?」という位、簡単であった。紅茶と、水、牛乳、バター同量、塩少々。煮つめて出来上がり。
本来は、現地の発酵茶、岩塩、ヤクの乳とバターを使用して、筒状の専用道具で、ブクブクかき混ぜて作るらしいのだが、日本なんだから仕方がない。

何か、面白いアレンジ料理が出来ないかな……と考えて、「お茶よりスープっぽかった」というのをヒントに、「茶がゆ」を試してみた。

材料は、有塩バター、牛乳、紅茶、チキンコソンソメ、ごはん、鶏肉、三つ葉。

まずは鶏肉を煮て、ダシをとりつつ、ティーバック、バター投入。

牛乳を入れて、コンソメを入れて味を整えつつ、ゴハン投入。

仕上げに三つ葉を散らして……出来ました、「バター茶風の鶏がゆ」。

失敗したらどうしたものか、と思っていたのが、これが、大成功。
鶏とバターとお茶が、クリーミーなハーモニーを奏で、大変美味しく出来てしまった。

■現地で飲めたらな

「レッサムフィリリ」も良い店だったし、自作のバター茶づけも良い出来だった。それなりに満足した。
でもやはり、「現地で飲んだら、まったく違う味に感じるんだろうな」と想像してしまう。
いつか、チベットに行く機会はあるんだろうか。

ボーキサイトを目にすることはあるんだろうか。
モスリンを触れる日は来るのだろうか。
人生知らないことだらけ、少し知ってても深く知れないままのものだらけ、と思うと気が遠くなる。合掌。


 
 
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