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ロマンの木曜日
 
明治のドックは良いドック

デカくて古くてカッコ良い、そんなドックを追いかけます

 私はデカくてカッコイイものが好きだ。 それには同意してくれる方も多いことだろう。 男なら、誰しもデカくてカッコイイものには憧れるはずだ。 私の場合、それに「古くて」が付けば、さらに興奮の度合いが倍増する。

だって、今ほど高度な技術がなかった、 そんな時代に作られたデカくてカッコイイものですよ? そりゃぁ、興奮せずにはいられんでしょうが。

そのデカくて古くてカッコイイものの最たる例が、明治期のドックだと私は思う。 石やレンガでできたそれらのドックは、とてもカッコ良いものなのだ。

木村 岳人



ドックというのは良いものだ

ドックとは、船を入れて修理などを行う施設のことだ。 船を入れた後に水を抜き、乾いた状態でメンテナンスを行う、 ドライドックという種類のものが一般的。 ちなみに、人間ドックのドックもここからきている言葉だったりする。

ドックを日本語でいうと船渠(せんきょ)。その名前からしてカッコイイ。 船を入れる設備なのだから当然デカい。デカくて、しかもカッコ良い。素晴らしい。

今でこそ日本の造船業は下火だけれど、明治時代には欧米諸国に 追いつけ追い越せと次々ドックが整備され、巨大な船が数多く作られた。 今でも神奈川県の東京湾沿いには、その当時に作られたドックがいくつか現存しているのだ。

今回は、これら神奈川県のドックを見ていきたいと思います。

 

意外と知られていない、横浜のドック

横浜はみなとみらい21。 おされスポットとしてカップルなんぞに人気のあるエリアであるが、 その中心、ランドマークタワーのすぐ側にドックがあるのをご存知だろうか。


ランドマークタワー側に係留されてる日本丸

この日本丸、横浜を観光したことがあるのなら一度は見たことがあるのではないだろうか。 実はこの船が繋留されているその場所こそ、ドライドックだったりする。 その名も、旧横浜船渠株式会社第一号船渠。

日本丸目当てでここを訪れる人は多いけれど、 みんな船ばかりを見てドックには目もくれない。実にもったいない話だ。 私は声を大にして言いたい。船もいいけど、ドックもね。


優しい丸みのドック先端部 水の中へ続いていく階段
ドック内部と外部を分かつ、扉船(とせん) それにしても、石造りってカッコ良いよなぁ

一見するとただの船の繋留地といった感じのこのドック、 なんと明治32年に作られた石積みのもので、とても貴重。 ドックとしての機能も維持されているらしく、 数年前までは定期的に水を抜いて日本丸の整備やドックの掃除をしていたとのこと。

ただ、残念ながらここ数年は水を抜いてはいないらしく、 水面付近にはフジツボがへばりついていた。ちょっとかわいそう。


周囲には人手が多いが、誰もドックを見てはいない……

さて、ドライドックというならば、やはり水を抜いた状態も見たいところ。 しかし、日本丸を管理している帆船日本丸記念財団の人に話を伺ってみても、 やはりこのドックの水を抜く予定は当面無いとのことだった。う〜ん、残念。

実は、このドックの近くには旧横浜船渠株式会社第二号船渠がある。 まぁ、一号があるのだから、二号があるのも当然といえば当然だろうか。

海水に満たされたままの一号船渠とは違い、 二号船渠では水を抜いた状態に近いドックの姿を見ることができる。 とりあえず、そちらを見てみることにしよう。

 

ランドマークタワー直下の石造ドック

水を抜いた状態に"近い"、などと微妙な言い方をしているのは、 実はこの二号船渠、既にいろいろ手が加えられており、 ドックとしての機能が失われているからだ。

一号船渠よりもランドマークタワー近く、 まさにタワーの真下にあるそのドックは、 ドックヤードガーデンと名付けられ、イベントスペースなどとして利用されている。


高くそびえるランドマークタワーの下に……

このような巨大石造構造物があるのは意外と知られていないと思う

この旧横浜船渠株式会社第二号船渠、 二号といいながら、なぜか一号船渠よりも2年早い、明治30年に完成したドック。 写真だとランドマークタワーがでかすぎて巨大感がつかみにくいが、 実際その場に立ってみると、そのデカさには驚くばかり。

この二号船渠は、みなとみらい21の埋め立て工事の際に周囲を埋められており、 完全に陸の中に埋没してしまっている。 また、イベントスペースとして利用しやすいように、改造も施されている。 なので、もう二度と船を入れることはできない。

日本丸を繋留する一号ドックは、そのものの機能を維持した状態で保存するという動態保存の例。 そしてこちらは、機能を失った状態で保存を行うという、静態保存の例だ。


石積みが双方から迫る様子はコロシアムっぽい雰囲気 随所にドック時代の名残が見られる
こう見ると、まるで遺跡のようでもある 扉船の外側は、今はもう陸地

どうだろう。出入り口やら滝やらが付け加えられてはいるものの、 それでも水を抜いた状態のドライドックに近い雰囲気を味わうことができる ……と思う。

何より、現代の象徴とも言えるランドマークタワーの下に このような明治期の巨大なドックが横たわっているということが凄い。 これぞまさに港町横浜の真骨頂。

さてさて、これまで見た二基のドックは、どちらも石造りのものであった。 しかし同じ神奈川県の三浦半島、浦賀には石ではなくレンガで造られたドックがある。 この浦賀のレンガドックもまた、いいものなんですよ。

次ページでは浦賀の素敵なレンガドックをご覧あれ。


 

 
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