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ちしきの金曜日
 
「痕跡本」ってなに?


クールに見えますが、実はたいへん気さくな古沢氏

「最初は……道ばたで、高校生の女の子が書いたと思われる、手紙を拾ったのがキッカケなんです。
封筒にも入ってなくて、ただ中身だけ、ぽろっと落ちていたんです。誰が誰に向けて書いたのかも分からないけれど、内容的にはラブレターでした。6、7年前のことです。
僕はその頃、映像作品を作っていたんですが、人間が考えて作りこむものって限界があるのではないか、と悩んでいて…。本物の手紙を拾って、ハッとしたんです。これすごいな、ヒトの本質だなって。
その後、古本店で働く機会があって。持ち主の『痕跡』の残った本が興味深くて、収集していった…、といういきさつです」

元の持ち主の痕跡が残る本を集めた展示……『痕跡本フェア』主宰・古沢和宏さんは、そう言って、本たちを見せてくれた。

(text by 大塚 幸代






「これ、Q&A方式の本に、いろいろと書き込んであるんですよ」
――うわ、痕跡どころか、書き込みまくりですね。空白も多いですが。
「関心のあることだけに、答えてるんでしょうね」
――『もし火事で家が燃えて3つのものしか持ち出せないとしたら、それは何?/1.おとうさん、ミシン 2.おかあさん 3.わたし』、って……。なぜにミシン、そしてなぜに自分が3番目。なんだかせつないですね。
「誰にも見せる予定がない本だから、自然体で書いたんでしょうけど。
『今度生まれ変わったら?/もうちょっと男の子ときちんと切なくつきあう人生』というのも、せつないですよ。この時点では、いい恋愛が出来てなかったんでしょうね。しかも今の人生を諦めてる」

――諦めてますねえ。
「最後のページで自分自身に対して質問を出して答えろ、という項目があるんですが、『今たのしいですか』という問いを設定しながら、『全員とお茶したい、ゆっくり昼ま本山で。夕食をはな×2ちゃんとたべたい。シャーベットをたべるのもよい
ね』と、答えになってない答えを書いているのも…」

――せつないですね。若い女子の心の混沌をかいま見る感じですね…。これ、本の出版年が、7年ほど前だから…書き手が当時、20代前半だったとすると、いま30歳くらいでしょうか。幸せになってて欲しいですね。
「親身になって考えてしまいます、おそらく、会うことはない人なのに…」
――というか、こんな本を、うっかり売ってしまうのは、どうかと。売ったのは家族かな、本人かな。やっぱり、あの黄色い看板の新古書店の存在は、でかいですよね。
「古本って、持ち主の情報込みで流通してしまうものですからね」




「これ、おそらくは、写真をパスケースか何かに入れるために、切り抜いたんだと思うんですが」
――黒木瞳ですね。しかし切り方が雑ですね
「他のページに切り目がついても、おかまい無しに切ってあるんですよね」




――確かにこの扱い方のヒドさは、本当に黒木ファンなんだか、分からないですね。
これ、「21000円」ってお値段は、もちろん古沢さんがつけてるんですよね? 
「そうですね」
――古本って、通常は、書き込みがあったら、買い取ってもらえないですよね。
「そうですね、あの黄色い看板の新古書店さんも、書き込んだ本は、基本は買い取らないし、売らないことになってるようですよ」
――でも、全部完璧にチェックすることって不可能だろうし…混ざってるんだろうなあ。とりあえず古沢さんは、見つけちゃうんですよね?
「最近は、バーッと棚を見て、『ああ、これには何か書いてありそうだ』って、分かるようになりました」
――えっ、本当ですか。
「僕にとって『痕跡本』は価値のあるものなので、……呼ばれるっていうか(笑)」
――物語性に値段をつけるといえば、ぬいぐるみの『ティディベア』の骨董品も、状態が悪くても、物語性があれば高価、っていう話をきいたことがありますよ。『タイタニック号が沈没した後、発見されたティディベア』とか、すごく人気があるんだとか。
「そうなんですか。いや、価値なんて自分で決めればいいんですよ」




――この本、なんなんですか!? 表紙に無数に、針で刺した穴がありますけど。
「日野日出志という作家の、恐怖マンガなんですけど。20ページ目まで針の後がありますよ」
――深刺しですねえ。
「理由は分かりませんが、僕はコレ、作品に対する反応、っていうふうに感じたんですよね」
――ああ、『この本、コワイよ気持ち悪いよー』と思って刺したんじゃないか、と……。
「生々しいじゃないですか。この針の跡は、この本の本質を強調して、補完してますよ。手にするだけでリアルな嫌悪感
が伝わってきますよ」

――ある意味、正しい行為なのかもしれないですね。
「この針穴は、この本の価値を上げていると思います」
――だから80000円の値段を付けてるんですね。正直、私は欲しくないですけど。というか、家に置いておきたくない(笑)。




――ショーコスギの本は、なんで何冊もあるんですか?
「ショーコスギの本って、何故かだいたいサインとハンコが押してあるんです。とりあえずここにある本には、全部書いてありますね」
――うわ、本当だ!
「ハリウッドでアメリカンドリームを掴んだ男、という事になっているので、『夢』っていうハンコなんだと思うんです。こんなでっかい『夢』のハンコってないでしょうから、オリジナルで作ったのかもしれないですね」
――インパクトありますね。
「何千部単位で出版されているハズなのに、この熱の入れようは、すごいですよね」
――サインするのが好きなのかなあ。サインするのが気持ちいいと思わないと、こういうの、やってられないと思いますよ。




「これ、ディズニーランドのガイドブックなんですけど。5枚貼られた付箋のうち、3枚がレストランで、しかも和、洋、中、カレー、なんですよ」
――押さえてますね。食いしんぼ、なんですかね。
「いや、最後の付箋がエレクトリカルパレードの項目なんですよ。だから、付き合いたてのカップルの男側が、頑張ってデート計画をたてたものなんじゃないか? って思うんです」
――ああ、女子に『何食べたい?』って訊いた時に、『中華がいいかな、やっぱカレーもいいな』って何言われても対応出来るように…ですかね。
「そうそう、乗り物とかは、彼女が当日、乗りたいって言ったものに、ついていく感じで」
――デート、成功したのかなあ。




「これは実際にデートに使われたと思われる本です。ガイドブックなんですけど、ブティックホテルのクーポンが、切り取られてますから」
――リアルに使用してますね、生々しいですね。
「これ、泊まったホテルの位置からして、ナガシマスパーランド(東海地区で人気のリゾート)に、行ったと思うんですよねえ」
――なんでこの本、売っちゃったんですかね。単に情報が古くなったからか、結婚とかして、落ち着いちゃったのか…。





「これはオーレンジャーの写真絵本ですね。ヒーローの手からロボに向けて、クレヨンでバーッと…」
――エネルギーが放射してますね。子供って、こんな視点で見てるんですねえ。じっと眺めてるとなんだか気持ち悪くなるんですけど…情熱がピュアすぎて。
「これ、ピンクだけ、線が極端に少ないんですよ」




――ほんとだ、ほとんどナイ。やはり男子には、この色や、まるいラインは、そそらないんですねえ…って、勝手に男子って決めつけてますけど。
「男の子じゃないですかねえ。ちなみにこの時のピンクは、さとう珠緒です」


さあ、もっと『痕跡本』を、見せてもらいますよ! >
 

 
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