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はっけんの水曜日
 
庭がガス田

この集落のどこかに石油王がいます。

 新潟県のとある山間の地域。ここではなんと石油が湧き出ている場所があるらしい。そしてその近所の家では地下から天然ガスも湧き出していて使い放題なのだとか。庭が油田なんて、それ石油王ではないか。いったいどんな暮らしなのか、見てきた。

安藤 昌教



左右に積まれた雪の壁が春を遠ざける。

イメージとずいぶんちがう

新潟県上越市の中心部から車で約30分。そこは冬季は人を寄せ付けない勢いの豪雪地帯だ。里の方はすでに雪解けもすすんでいるのだが、こちらはまだまだ水墨画の世界。こんなところに本当に油田はあるのだろうか。どうしても産油国と聞くと中東とか暑いイメージがある。加えて石油王いえばサッカーチームとか自家用ジェットとか持っていそうなイメージがあるのだが。どうもこの素朴な風景とはうまく結びつかない。

こぶしのきいたポスター。

しかし道々に貼られた選挙ポスターのバックが黒と赤だった。これ、もしかしたら黒が原油で赤が炎を表しているのではないか!だとしたらすなわち産油国ならではのカラーリングといえる。関連物を無理やりひねり出しているあたり、今回の取材の先行きが推し量られる。

今回おじゃまするお宅は実は僕の妻の親類の方の家だ。なんと彼女、血縁に石油王がいたのだ。叶姉妹じゃん。3日くらい前に知った。今回は結構無理を言って案内してもらうところまでこぎつけたのだが、これもしかして僕は明日から働かなくてもよくなるんじゃないか。島とか一つくれたりしないだろうか。


そんな僕の汚れた企みをのせて車は純白の雪道をひた走る。車一台通るのがやっとの山道をさんざんくねくね登り、とあるお宅の前へとたどり着いたとき、道案内をしてくれていた彼女は言った。「ここよ」。

中からおばあちゃんと猫が出てくる。「やーようきたね、まあ上がって上がって」

??

にゃんと、この人が現代の石油王こと、ふつうのおばあちゃん、なのであった。飼っているのは虎ではなく猫だ。カジノでもハーレムでも、叶姉妹でもなく、民家だった。

 

これ、ガス。

ガスのある暮らし

室内は懐かしさの漂う田舎のおばあちゃんの家そのものだった。暖炉の前におじさんが座って暖をとっている。すすめられたお茶とお漬物を頂くと緊張で固くなった体がほぐれていく。懐かしいおばあちゃんちの匂いがする。

「これだよ、ガス」

一瞬なにを言われているのかわからなかったのだが、おじさんの一言で目が覚めた。そうだ、今日は石油王の家を見に来たのだ。ど、どれですか。

「こたつもガスだよ」

見ると暖炉もこたつも中で青白い火が燃えているのが見えた。確かにガスが燃えているのだ。


暖炉の中で青い炎が燃えている。
こたつも中に火がある。

風呂は常に沸いている。

「風呂もガスだ」

風呂は少しずつ水が足され常に湧かされているのだという。24時間風呂だ。ブランデーグラスをこねくりまわしている石油王のイメージが崩れたばかりだったのであの場では特に感動しなかったのだが、今思えばいつでも風呂に入れるなんて贅沢な話ではないか。なんでもないようなことが、幸せだったとおもう、っていう歌詞の意味が今なら理解できる。


火を近づけると即座に火柱が上がる。

「台所もガスだ」

おばさんが慣れた手つきでチャッカマンを鳴らすとコンロに青い火が燃えた。特に元栓をひねったりはしていない。ということは常にガスが出ているってことか。大丈夫なのか。ちなみにこのコンロは煮物とかに使うと便利なんだとか。ガスは庭から沸いているのでいくら使ってもただなのだ。やはり今思えばとても贅沢な話だ。


火を近づけるといくらでも火が付く。
ここからもあそこからもガスは出ている。
天井にあいた穴から空が見える。

「そう、ガスは出っ放しだね」

不安は的中した。ガスは火をつけていないときでもそこらじゅうのガス口から常に出ているのだ。無臭なのでどれだけ出ていてもわからないのだそうな。しかし火を近づけると一気に燃え上がる様子を見ると結構な量が常に放出されていることがわかる。危険性はないのだろうか。

「心配せんでもガスは安全だよ。」

ガスは空気よりも比重が軽いので上に上がってそのまま喚起口から出て行くのだという。見上げると天井近くに穴が開いていた。可燃性ガスで満ちていることを忘れさせるおおらかな方策だ。ガスは120年くらい前からずっと利用しているのだという。しかしこの地域でもガスが沸き、それを今でも常に利用できているお宅というのはごく限られるのだとか。


ガス、温かかったです

「うん、確かに石油も裏で湧いてるよ、でも今は雪でなーんも見えんけどね」

残念ながら石油が湧いているところは見えなかったのだが、いわくまじで湧いているらしい。石油と天然ガスは連動しているらしく、たまに石油を汲んでやらないとガスの出がわるくなったりするのだとか。

僕のイメージしていた石油王とはずいぶん違う形であったわけだが、とにかく石油と天然ガスは実際に湧き出していた。ここに住む人たちはそれをいとも当たり前のように生活に取り入れ、古くから「ガスと共存」してきたのだ。振舞っていただいたガスの火で煮た山菜がとにかくおいしかった。

無礼な押しかけ取材にもかかわらず終始笑顔で、帰り際には僕たちの車が見えなくなるまで雪の中手を振ってくれた。そんな姿を見ると僕も田舎のおばあちゃんに会いたくなってしまった。おばあちゃんの家がとても暖かかったのはガスのおかげだけではないような気がしました。

こちらは猫専用暖房設備。もちろんガス。

 
 
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