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ちしきの金曜日
 
あいまいな言葉の実態と向き合う
 


 子供の頃、図書室の辞書を使っていると、ところどころ蛍光ペンで線が引かれているのを見つけることがあった。これまで使ってきた誰かが、エッチな言葉に印をつけていたのだ。

 そんな様子を見つけてしまうと大変だ。もともと調べようとしていた言葉はそっちのけで、思いつく限りのエッチな言葉を調べてしまうのだ。

 人は誰でもエッチな言葉に翻弄されて大人になる。そう言ってしまっていいと思う。

 ただ、エッチな言葉というのはあいまいだったり婉曲的だったりすることも多い。大人になった今、そんな言葉たちにもう一度冷静に向き合ってみたい。

小野法師丸



●ネバーエンディング思春期

  僕らを翻弄してきたエッチな言葉たち。そもそも「エッチ」という言葉がすでにぼかし入りだ。エッチって、「H」だろう。単にアルファベットの一文字ではないか。


一部分気になった、先日のYahoo!トップページより

 エッチという言葉の語源には、いくつか説があるようだ。最もよく知られているのは「Hentai(変態)」の頭文字を取ってエッチとしたというものらしい。

 他にも説はあるが、いずれも言葉の成り立ちは隠語的だ。そう、この手の言葉はどうもあいまいなものが多いのだ。

 例えば「いちもつ(一物)」という言葉がある。多くの方はこの言葉を聞いて、なんというか、まあ、アレを想像すると思うのだが、辞書での第一義はあくまで「一つの物」である。(参照:辞書)


イチモツ

 イチモツというのは、まず第一に「一つの物」のことなのだ。そうであるならば、世の中は見渡す限りイチモツだらけと言えることになるだろう。


イチモツ
イチモツ

 エッチな言葉をあいまいにぼかすからおかしなことになる。冷静に考えれば、ダルマだってファービーだって、何の含みもなくイチモツなのだ。

 そう、悪化した思春期を一度リセットするためにも、含みのない方のものそのものに当たってみたいのだ。

 

●かつてあった「ビニール本」という書物

  「ビニール本」という言葉がある。子供の頃にそれを聞いて、その謎の響きが怪しくも魅力的に感じられたものだ。

 もはや死語となったようにも思える「ビニール本」。ビニ本とも略されるそれは、結局のところエッチな本であるわけだが、ビニール袋で包装されていたことでそう呼ばれていたらしい。

 そういうわけでの、ビニール本。この言葉も本質をあいまいにしているではないか。


ビニール本を探しにやってきた図書館
やっぱり自然科学に分類されるだろうか

 含みのない方のビニール本を探してやってきたのは、東京都立中央図書館。案内に「研究や調査のための図書館」とあるので、今回の目的にもかなっていないわけではない。

 あいまいなベールのないビニール本はあるだろうか。検索をかけて調べてみる。


あったぞ、真のビニール本
超マニアック

 結果見つかったのは、日本ビニール商業連合会が出版した『日本の塩化ビニール産業』という本だ。かなり大きくて分厚いが、紛うことなく「ビニール本」である。

 おお、これがビニ本か…。早速開いてみよう。


そう言われてもなあ
楽しくないなあ…

 内容は、塩化ビニールの製造や応用などについて、さまざまな面から述べたもの。ものすごく詳しく、壮大なボリュームでビニールについて語られている。

 うん、塩化ビニールって、なんだかすごいね。

 ただ、根本的に塩化ビニールについて興味がないので、読んでも頭に入ってこない。楽しくない。含みのない方のビニール本と向き合って湧いてきたのは、そんな乾いた感情ばかりだった。

 

●心ときめかせた「ピンク映画」という響き

  こちらも最近はあまり言わなくなったが、「ピンク映画」という言葉がある。含みのある方で言う場合、それが何を指すかはわざわざ言わなくてもいいだろう。

 今回はレンタルビデオ店で、含みのない方のピンク映画を借りてきた。


興奮できない
ピンクパンサーの映画だからね

 プレーヤーにかけてみても、特別な気持ちは湧いてこない。借りてきたのはピンクパンサーの映画だからだ。

 エッチな意味とそうでない意味の間を揺れ動く心。そんな気持ちをよそに、映画は淡々と進んでいった。

 

●ピンク色した「でんぶ」

  ちらし寿司などに、ピンク色をしたそぼろのようなものがかかっていることがある。いつだかそれは、「でんぶ」という名前であるということを知った。

 でんぶ…。それは自分の中で「臀部」に変換された。つまりは尻のことだろう。

 この例の場合、たまたま「でんぶ」と「臀部」が一致しただけで、含みを勝手に自分の方で与えてしまったというわけだ。冷静になって、「でんぶ」の方と向き合いたい。


思いっきり「でんぶ」
過剰なほどのピンク色

 実のところ、それがどういったものかよく正体をわかっていなかった、この「でんぶ」。パッケージには「鱈のそぼろを使用し加工しました」と書いてある。

 そうだったのか。今回は尻のことは忘れて、鱈のことを思い浮かべ、でんぶと向き合ってみる。


でんぶをなで回す

 なで回したり、そっと口に含んだりしてみる。特別な気持ちは湧いてこない。よし、それでいい。心頭滅却してでんぶと向き合うことができたと思う。

 

●純粋な方の「テレホンクラブ」

  以前、繁華街を歩いていると「テレホンクラブ」なるもののティッシュペーパーをもらうことがよくあった。そこに行くとなんだか電話がかかってきて、どうこうするらしい。

 そういうわけで「テレホンクラブ」という言葉には特定のイメージがすっかりついてしまったと思うが、この言葉にも含みのない方の意味があっていいと思う。


テレホンクラブ、活動の様子

テレホンを愛好する者たちが集うクラブとしての「テレホンクラブ」である。

 電話大好き人間たちの社交の場である。今回は自分一人でのクラブ活動となってしまったが、そういうクラブがあってもいいのではないかと思う。


うーん、どれもいいね

電話のよさや楽しみに方について交流を深めるクラブ。

 電話っていいよね、すばらしいよね。そういう喜びを共有する人たちの集まりである。そこに余計な含みはなく、あるのは電話への純粋な愛だけだ。

図書館で見つけたエロ本

エッチな響きをもつ言葉から、含みを取り除いた方と向き合う今回の試み。正直なところ、どれも今ひとつ楽しくなかった。これからはどちらに囚われるというのでなく、その微妙な間をたゆたっていきたいと思う。

 写真は図書館にあったエロ本。『エロの誕生』と思いきや、背表紙をよく見ると『ピエロの誕生』であることがわかる。

 少年の頃の気持ちを忘れない、と言えば聞こえはいいが、実際にはこういうことでもあるのだと思う


 
 
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