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土曜ワイド工場
 
聞き役の話しを聞く

喫茶店のマスターがいるじゃないか!

マスターといったらお酒を扱うマスターしか頭に無かったのですが、よく考えてみたら喫茶店のマスターもマスターだということにふと気づきました。

でも今時ちゃんとしたマスターがいるような喫茶店はあるのでしょうか。

ふらふらと浅草の裏路地を散歩していたところ、ある一軒の喫茶店が目に止まりました。


ふれあい通りにたたずむ小さなお店

いかにも歴史がありそうな古い喫茶店です。やはり浅草という街を散策して正解でした。

ちょっと覗いてみるとカウンターしかないお店で、中にはいかにもマスターの格好をしたマスターがコーヒーを注いでいました。 これはもう行くしかありません。


珈琲アロマのマスター、藤森さん

突然お邪魔して事情を説明したところ「話せることでしたらなんでもお話ししますよ」とスマートに受け答えしてくださった珈琲アロマのマスター藤森さん。


お客さんの会話に耳を傾けつつ機敏にコーヒーを注ぐ
1杯330円の抜群においしいブレンドコーヒー
カウンターに置かれた味のある手書きのメニュー
入り口付近に座った1人の男性。実は凄い人だった

東京オリンピック開催の年と同時に始めた喫茶店

マスターはきびきびとした動きでコーヒーを入れてくれました。
失礼ですがおいくつですか?と聞くと今年で65歳になられたそうです。年齢を感じさせない無駄の無い動きです。

マスターがいれてくれた抜群においしい(本当です)コーヒーを頂きつつ、早速お話しを伺うことに。

Q.すごくレトロな雰囲気ですけど、お店を始めてどれくらいになるんですか?
A.昭和39年からですから、もう43年目ですかね。

43年。ほぼ半世紀だ。すごいことだ。

昭和39年といったら東海道新幹線開通の年、さらには東京オリンピックが開催された年でもあります。
今私が座っているこの椅子や肘をかけてるカウンターも、その時代から存在しているのかと思うと、 とても感慨深い気持ちになりました。まるで文化遺産に触っているような気分です。

 

Q.物凄く歴史ある喫茶店なんですね。でもなぜ喫茶店を選んだんですか?
A.浅草というこの土地柄を生かしたことをしたかったんです。

マスターがこのお店を開いたのが21歳の時。自分が店をやりたいと言い、マスターのお父さんがそれを手伝う形で始めたんだとか。
当時から何かお店をやりたいとは思っていたのですが、どうせなら地元の人たちの憩いの場となるような場所にしたいということで喫茶店にしたそうです。
お客さんの多くは仕事の前に立ち寄ったり仕事帰りに立ち寄ったりする人だそうで、マスターが思い描いていた、まさに地元に根付いた喫茶店になっていました。
「ありがたいことです」とマスターははにかんでいました。

 

Q.でもこれだけ長く続けていると大変なこともあったんじゃないですか?大事件とか。
A.いやそんなのはありませんよ。でもお客さんが来なくなったときが一番大変です。

今日満席になったからといって明日も満席とは限りませんからね、と付け加えたマスター。
当たり前のことですが義理や人情だけでは商売はやっていけないんだなと、ちょっと現実に引き戻されました。

でも私がここに来てから小一時間の間にも、お客さんは入れ替わり立ち代りひっきりなしにやってきます。
そのほとんどがマスターと顔なじみの方らしく「風邪ひいちゃったんだけどここのコーヒー飲まなきゃ治るもんも治らないと思って」と、まさに江戸っ子な会話のやり取りが聞こえてきました。
それと同時にこのお店が長く続く理由がわかる気がしました。

 

実はとんでもない大物と相席していた

私がこの店に入ったとき、初老の男性が1人入店してきました。 この方もどうやら常連さんのようで、会話の様子からほぼ毎日この店に来ているようでした。

この方が来る前からこの店にいたもう1人の男性と顔馴染らしく、その会話の内容は落語に関するものでした。
私はあまり落語には詳しくないのですが、このお2人のやり取りがまさに漫談で、面白くてしかたがなかったのです。

初老の男性の方が仕事で中国へ行ったらしく「今何かと話題になってるからね〜。知らない間に変なもんでも食ったんじゃないかってドキドキしながら帰ってきたけどこの通りピンピンしてるよ」と笑うともう1人の方が「師匠は変なもん食った方が丈夫になるんじゃないのかい?」と返す。
そんなやり取りが続いていました。

しばらくその会話を楽しんだ後、もしかして落語家さんなんじゃないかとマスターにこっそり聞いてみたら
「どちらも若手が聞いたら腰が引けてしまうくらいの大物の噺家さんですよ」と、衝撃の事実を伝えられました。

無知とは恐ろしいものです。「おじさんたちも常連さんなんですか〜」なんて気安く話しかけなくて良かった。
(名前を伺って帰宅後調べてみたら本当に大物の方でした。)

 

マスターの趣味と実益を兼ねた喫茶店

会話を何気なく聞いているとこの店に来るお客さんのほとんどが落語や歌舞伎に関わりのある方たちのようで、マスターもだいぶ詳しい様子でした。

ここで一緒にお店を切り盛りしている奥様が登場。マスターが接客で忙しそうだったので、奥様に話しを聞いてみました。

Q.マスターは落語がお好きなんですか?
A.好きなんてもんじゃないですよ。もう亡くなった有名な落語家さんの噺を未だにテープで聞いているくらい。

マスターは落語が大好きらしく、定休日が好きな噺家さんの高座の日と重なると、欠かさず聴きに行っているそうです。
ここに来るお客さんは常連の落語家さんたち。大好きな寄席の雰囲気に包まれた、マスターにとってまさに趣味と実益を兼ねたお店だったのです。

ところでマスターの奥様はここのお客さんだったんですか?とマスターに聞いたら「いやそんなんじゃないですよそんなんじゃ」と、照れくさそうにして、馴れ初めは聞かせてもらえませんでした。
うーん気になる。

■聞く事が好きだからこそやっていける

いつもは話しを聞く側のマスターですが、この日は話す側に回ってもらいました。
当初、普段聞き役に徹している人はもっと喋りたいんじゃないか、話したいことがあるんじゃないかと思っていましたが、 話しを聞くのが苦ではなく、寧ろそれが好きだからこそ聞き役が職業でもやっていけるんだなと感じました。

中にはサムライのマスターのようにガンガン喋ってくださる方もいますが、今回はみなさん初対面だったこともあったのでそこまで深く突っ込んだ話しはできませんでしたが、またちょくちょく通って色んなお話しを聞かせてもらいたいと思います。

なつかしの味ミルクセーキも抜群においしかった

サムライカフェ浅草
東京都台東区浅草2-12-6
営業時間 19:00〜2:00(夜遅い!) Tel 03-3847-0161

珈琲アロマ
東京都台東区浅草1-24-5
営業時間 7:30〜19:00(朝早い!)


 
 
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