おっちゃん
「おっちゃんな、夏は造るのに忙しくてな、でもあんたらラッキーやわ。何?大学生か?どっからきてん。東京かーほんまかーこれが精米する桶やねん」
おっちゃんの会話のリズムが全然つかめない。こちらは要所要所で反応しようとするも「うぁっはい、あ。」とか変な発声になる。 でもおっちゃんはこちらの話を聞いてないわけではないのだ。おそるべし。
おっちゃんは面白トークをしていると思うと、いつのまにか真面目に酒造の話をしていたりする。授業の合間に面白い話をする人気者の先生のようだが、境目がなめらかすぎてわかりづらいのだ。
変化球だらけの話術にどう対応してよいか迷いながらも、おっちゃんギャグの作用で笑いが絶えない講義だ。見学者4名を前にしたおっちゃんは楽しそうだった。
酒粕は、濃厚なアミノ酸の味がした。
「二階もみてくか?今だーれもおらんけど。おっちゃんはおるけどな。ハハハハ!」
二階には麹室と酒母の仕込みをする広いスペースがある。
「菌が繁殖するからな、入る前に全身消毒や。夏にこん中入りおって麹つくっとるとサウナやからなあ。その後のビールがうまいんや!日本酒なんかのまへんでー。ハハハハ!」
密閉された狭い室に何人も缶詰になり麹を造る。考えただけでヘビーな仕事なのに、おっちゃん作用ですがすがしいほど台無しだ。
さよならおっちゃん
ためになる話をたっぷり聞かせてもらった。そろそろおっちゃんともお別れだ。
「夏に来るときは電話してから来るんやで!来てもおっちゃん仕事あるから相手せーへんけどな!ハハハハ!」
この酒蔵、おっちゃんに会いにいくためだけでも訪れる価値はある。
● 四軒目「神戸酒心館」
最後に訪れたのは大きな施設。蔵元のほか、料亭やイベントホール、ギャラリーなどが併設されており、イベントや寄席が頻繁に行われているらしい。
蔵見学は3月上旬で終了していた。それならと、カウンターできき酒セットと肴五品盛(共に500円)を注文。
これが大正解のチョイスで、本当にお酒と肴が合う。あたりまえだ。もともと珍味は日本酒に合うものが多いのに何を今さらと思われてもしかたがない。私はどんなに日本酒に合うとされている肴も、今まできちんと日本酒に合わせて食べたことがないのである・・・。さすがに己をあわれんだ瞬間だった。
こういう発見ができるのは嬉しい。 たまには自分に合う日本酒をみつけて珍味をたしなんでみようと心に決めた。
日本酒に歩み寄れた
おちょこ一杯ずつの試飲をしながら三駅ほどの距離を歩く。酒造りの現場と杜氏にふれた一日が終わった。なんといっても堂々とお酒をのみながらでも社会見学と銘打てるのは、酒蔵の見学しかありえないだろう。 古い工場は足を踏み入れただけでノスタルジックな気持ちになる。夏になったらおっちゃんの酒造りを見学しに行きたい。