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ちしきの金曜日
 
広島から来たプロレスラー

地方プロレスってそんなに増えてるの?

メインの第三試合の前に、今の地方プロレスについて今回の興業を主宰したバッドガイ☆ナベさんに聞いてみよう。彼は僕が友人らとやっている映像イベントで主に「世界のプロレス」部門として出ていただいてる仲間。アメリカの無名レスラーからアルゼンチンやブラジルのプロレスなど、珍しすぎるネタを掘り当ててくる映像ボーリング技師にして、好きが高じて今回は興業の主宰まで。


興業終わって落ち着いた頃にインタビュー

関東に住む彼がどうしてダブプロレスを知ったのか、そしてプッシュしたくなった理由も聞いてみた。


「3年くらい前に存在を知って、ネットなんかで動画漁ってたりするうちに選手と知り合いまして。主宰の504選手の趣味が前面に出てて、これは面白いなと。それで昨年の11月くらいから『ゴールデンウイークあたりに東京でやりたいね』って話はしてたんです」

−−大変だったのは?

「会場探しです。あてにしてた所がやっぱりゴールデンウイークは確実に客の多いイベントしかやれない、と貸してくれなくて。でも今回お借りしたハコが非常に好意的だったんです。ただ、新宿二丁目ということで週3でこの辺のお店回って営業してたんですけど『ゲイイベント以外はちょっと‥』って断られたり(苦笑)」

−−「ゲイイベントはちょっと‥」てのはありそうだけど(笑)

「あと広島の選手も皆本業持ってるんで、そのスケジュールもギリギリになっちゃって。でもダブプロレスは日本の地方団体の中でも異質な面白さがあるんで、ぜひ東京でやりたかったんですよね」


地方のプロレス団体といえば、岩手県議にもなったザ・グレートサスケ選手がいる『みちのくプロレス』が有名。だが、それ以外に一般の人が知ってるというと‥何だろなぁ、という感じではないだろうか。実際、そんなに増えてるんだろうか?


「ローカル団体の元祖は今年で15年目の『みちのくプロレス』ですけど、最近は各地方の主要都市に出来てますね。今度『沖縄プロレス』って団体が出来るんですけど、これで北から南までまんべんなく団体がある感じになるんじゃないかなぁ」

−−そんなに細々と出来てるんだ。

「茨城だけでも『SSS(トリプルエス)』、『常陸プロレス』、『WXW』と3団体ありますからね。今一番熱いのが名古屋で、ざっと思いついただけでも10団体(&プロモーション)はあります。時期によっては東京より熱い興業戦争が起きてますから」

−−昔はプロレスやる、となると団体に入るしか発想がなかったですけどね。今は団体作っちゃう。

「10年くらい前からですかね、地方でも増え始めたのは。まずリングがリース出来るようになったのと、最近は安く買えるようになったんです。昔は500万くらいしたのが、今は100万。価格破壊があったんです(笑)」

−−あー、500は無理だけど100なら何人か集まれば何とか出来そうですもんね。

「あと、地方の方が土地が安い分、道場作ったりリング設営したりしてもお金かからないんですよ」

−−確かに東京だと中途半端な金持ち程度じゃ土地も買えないけど、地方の田舎なら倉庫とか安く借りれそうですもんね。

「それにあとは学生プロレスやってた人が地元に戻ってそのままやってたり‥同好会みたいなもんですね。それに娯楽の少ない地方だと重宝される、ってのもあるみたいです。地元の遊園地とタイアップしたり」

−−東京だと選択肢がありすぎて選べない、って所もあるけど、地方だと選択が少ないからその分強い結びつきがある、ってこともあるんでしょうね。

「今度旗揚げする『九州プロレス』なんか業界初のNPO法人だったり、東京発じゃできないやり方で突き抜けてる所も多いですね」


地方ならではの苦労も少なくないだろう、だけど地方だから絶対的なマイナスではない。

 

プロレスってひとつの共通言語かも

さて最後の試合はメキシコ帰りのマスクマン・レイパロマ選手とダブプロレス主宰の504選手の一騎打ち。飛び技とハードヒットな一撃が交錯する一戦に。


華麗なドロップキック!
さらに脚立からのダイブ!
504選手はハードコアな武器使いで反撃
でも最後はキッチリ投げ技で3カウント

時には観客席に突っ込むこともあるけれど、見てるうちにアドレナリンがほのかに出てるようでそのくらいじゃひるまない。むしろさらにアガる。

この距離感、臨場感はデカいホールでは味わえるもんじゃない。ちなみに地元・広島ではこの3倍以上の観客の中でやることもしばしばだという。盛り上がるんだろうなー、飛び交う広島弁がすごく似合うんだろうなー。

試合終了後、主宰の504選手に話をうかがった。


「最初の頃は『広島でプロレスってなんだよ』って地位低かったんですよ。そういうところからやってきたんで、メジャーな団体な人より努力してるよ、って思いはあります。プロレス出来ないって言われるのはシャクなんで道場持って練習もしてますし、もちろん本業もやりながら。ポッと出で練習してるやつとは違うって」

−−企画から試合まで全部やんなきゃいけないですからね。

「地方なんで動員は大変ですよ。グチになりますけど、周りからは30(歳)までにものになんなきゃ辞めるの?とか言われたり、ぜんぜん世間的なプレッシャーが違いますしね。それでもやっていきますけど!アハハハハ」

−−ダブプロレスのこれからの目標は?

「年末に『バンプバンプレボリューション』って大きなイベントをやってるんですけど、その名の通りバンプ(受け身)で革命を起こそうと。広島だけでなく『俺らを見た次の日のお前はもう違う人間だ!』と。人を変えていきたいですね」


広島から車で東京にやって来て、また次の試合会場に向かうダブプロレスの選手たち。音と酒を楽しみながらのプロレス、ということもあって、その姿はどこかバンドマンのツアーのよう。格好いいなぁ。

そう考えると、かつての昭和のプロレスブームの頃の選手たちは決して手の届かない存在、いわば山口百恵やピンクレディーみたいな「昭和のアイドル」だったのかもしれない。自分もあの場所に立ちたいなんておこがましい、という。

今現役のプロレスラーたちに大きな影響を与えたのは大仁田厚だと言う。いわば彼が「スター誕生」だ。たとえ小さく弱くても立ち向かう姿に「自分もなれるかも」と夢を与えた。

そして現在、あちこちに団体が生まれ、試合をしている様を見ると、今のプロレス界は「バンドブーム」なんじゃないか。楽器を手軽に全国で買えるようになったのと同様に、比較的リングや試合をすることが不可能ではなくなった。しかも全国で。夢への距離はどんどん近づく、ただそこに届いてからも大変なのだろうけど。

でも、やっぱりそこへ跳べた人間は格好良いよ!


メイン後も試合は続く

メイン試合終了後、出場選手+観戦していた選手を交えてのフリースタイル試合が行われた。次々と選手が入れ替わっては組み合っていく。

その顔はさっきの試合までとは違ってどこか笑顔。これも音楽でいうジャムみたいで面白かったなぁ。広島だろうと東京だろうと跳べた者しか分からない、プロレスという言語で会話してるような。羨ましいよなー。


終わる頃にはもう真っ暗

地方プロレスはまだまだ深い

ちなみにナベさんによると、今後注目の地方団体は『でら名古屋プロレス』(名古屋)『北都プロレス』(北海道)『FUCK』(大阪)『SEDアマチュアプロレス』(福島)だそうです。各HPを見ただけでもいろいろあるんだなぁ‥。ひとたびハマると底なし沼のようです、地方プロレス。

取材協力:ダブプロレス


 
 
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