●ハナゲなめんなよ

　 ところで今回目指すハナゲの滝、ほんとにハナゲの滝なのだろうか。先ほどのコース案内の地図でもそうだが、公的な表示で明確にハナゲだと書いてある例は見つけられなかった。

　誰かがふざけて適当にハナゲとか言ってるだけじゃないだろうか。そういうことではダメだ。

　心配になって、みなかみ町の役場に電話して聞いてみたところ、

• 確かにハナゲの滝というのはある。
• (役場にある)地図にはちゃんとハナゲの滝と書いてあるから、正式な名前と言える。
• でもどうしてハナゲの滝という名前になったのかはわからない。

　ということがわかった。よし、由来はともかく、ハナゲであることは確定したぞ。

　山の中を沢に沿って歩く。清冽な空気と水の流れ、輝く新緑に包まれる。まずい、「ハナゲ、ハナゲ！」という感じでやってきた自分の中のテンションが、真っ当に感動する気持ちに変わっていく。

　それはまずいというわけではないのだが、自然の素晴らしさは素晴らしさで置いておいて、ハナゲに興奮する自分も忘れたくはない。

　距離としてもたいしたことはないし、地図で確認して道もある。そんな軽い気持ちで歩いていたのだが、程なくあるはずの道がなくなった。

　あれ…。沢はすぐそばにあるから迷うことはないのだが、道はない。なんとか進めということか。

　…うーん、思っていたより大変だ……。

　ヒイヒイ言いながら石を登ったり、木々をかき分けたりしながら進む。ハナゲハナゲと浮かれてやってきたら、思っていたよりハードな展開。下手したら怪我するぞ。

　どうしても前に進めなくなって、川に足を入れて渡る。水はものすごく冷たくて、渡ったあとしばらくしびれて動けない。

　ふざけてすいませんでしたと言って帰りたくなるくらいの行程。ハナゲに対するテンションも下がる。

　もりもりと生えている植物も、なんだか見たことないようなものばかり。自然を愛でる余裕はなく、強そうな生命力にまたしてもすいませんでしたと言いたくなる感じだ。

　普段、登山らしきことをしないこともあって、自然に圧倒された自分の中の警報がさっきからずっと鳴ってる気がする。

　それでも引き返すきっかけを見つけられないまましばらく歩く。なんだか様子が変わって見えるところまでやってきた。

川の流れがとぎれているように見える。なんだこれは？