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土曜ワイド工場
 
道のない県道に挑む


ぼくの住む町に起点をもつ岩手県道30号線は、はじまって数百メートルもすると山のふもとで通行止めになってしまう。ところが地図上では、そこから数キロ先の峠を越えたところで、ふたたび30号線が姿をあらわす。
調べてみると、この道はもともと古い街道だったのだが、県道に指定されたあとも峠部分が整備されないまま残され、途中に通行できない部分を持つ1本の県道になっているらしいのだ。
数年来ふしぎに思っていた道路なので、通行不能区間(だけど県道)がどんな様子なのか、そして本当に通ることができないのか、いって確かめてきた。

櫻田 智也



県道30号線とは

まず県道30号線は、地図の上でどのように記されていることが多いのか。部屋に貼ってある観光パンフレットの地図がみやすかったので、それで紹介したい。


 

マジックで地図に直接丸をつけてあるのが、ぼくが住む葛巻という町の中心部だ。岩手県の北部に位置する。そこから西にのびる緑色で描かれた道路が県道30号線。
赤の矢印で示したのが県道の起点なのだが、みてわかるとおり、はじまってすぐに道は途切れている。そして数キロにあたる空白を経てふたたび地図上にあらわれて、やがて国道4号線(東京都と青森県とを結ぶ)に交差する。国道に達するまでの距離は空白部分も含めておおよそ20キロといったところか。
一方で、こういう表記の地図もある。これもパンフレットの地図なのだが、


 

こちらはしっかり道が描かれており、冬のあいだは通行止めであることが注意書きされている。逆にいえば、通行止め期間以外は通ることができるということではないのか。

 

塩を運んだ古い街道だった

調べてみるとこの道、もともとは江戸時代に太平洋側の町から内陸へと塩を運ぶための古い街道(通称「塩の道」)だったらしい。葛巻を経由する塩の道において、この通行止め区間(黒森峠)は、最大の難所だったのだという。


塩は牛の背に積まれ運ばれた

古くからあるこの街道はやがて県道に指定されたのだが、黒森峠に至る急坂はついに道路として整備されることがなく、県道の通行不能区間となった。
ただ、町が編纂した『葛巻町誌』によれば、戦後のある時期までは、昔と同様に利用されていたのだという。
ということは、いまでも道としての体裁を少しは整えているのではないだろうか?

 

とりあえずみにいった

もともと町に住んでいる会社の同僚に訊ねてみても、県道30号線とか黒森峠とか言ってピンとくる人がいなかった。訊いてわからないのなら実際にいってみるしかない。さて、冒頭の地図でわかるとおり、県道30号線は国道281号線から枝分かれする。この国道は頻繁に利用するのだが……県道の入口があった記憶がない。

はやめに仕事を終えられた日の夕方、とりあえず車をはしらせてみた。


町内にみられる『塩の道旧道入口』の案内
ときに川沿いを、山の中へと導く
 
 

県道の入口に注意しながらはしる。すると、


 

『200m先行き止まり』の大きな看板。これはいつもみている。通り過ぎようとしたそのとき、いままで気づいていなかった標識が目に飛び込んできた。



なんと、国道をはしる車からは微妙にみえにくい角度でその標識は立っていた。行き止まりの看板があるので農道にでもつながると思っていたのだが、ここが県道の入口だったとは。


気づいてなかったよ

 

標識にみる矛盾

それにしても興味深いのは、この道路標識だ。


 
 

『行き止まり』とありながら、道路標識にはたしかに、『17キロ先で国道4号線に通ずる』旨が記されているのだ。つまりこの標識に従うのなら、県道30号線はちゃんと1本の道として通っているということ。

なんにせよ、みないことにはわからない。県道へと車を進めた。


民家の中をはしる県道
と思ったらはやくも山道の様相

 

門のその先へ

そして県道入口からまもなく……


再度あらわれた行き止まりの看板


そして目の前には門が


だが門は開け放たれている。まだ行けるのだ。轍だって続いている。不安だが、いけるところまでと意を決めて進入する。


 
 

思いきって進んだものの、かなり荒い砂利道。しかも山の緑が日の光を遮り、一気に道は暗くなる。踏みはずす危険と、パンクの怖れを感じながら奥まで。何分はしったろうか、とうとう轍が消え、車でいける限界に到着した。


夜のような暗さ


まだ日は暮れていないのだが、ここまでくるとすっかり夜のような暗さに。車のライトをつけながらあたりを観察してみるが、道らしい道は認められない。

どうやら今日のところはここまでのようだ。週末あらためてくることにして引き返す。幸いにも、かろうじてUターンできるだけのスペースがあった。バックで戻る自信はとてもない。


怖いのはくだり
門がみえてほっとする

門まで戻りほっと一息。おりてきてみれば、まだライトなんて必要のない明るさ。
ところでこの門はいったいいつ閉まるのかと思ったら、


『積雪のため下記の期間は通行止めとなります』

どうやら冬になるとこの門が閉まり、完全な通行止めになるらしい。

とりあえず下見はできた。週末あらためて、この日いけなかった通行不能区間に挑むことにしよう。


 

 
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