高級住宅街を歩いていたら、面白い物を見かけた。庶民の皆さんには珍しい物ではないかと思う。庶民派のぼくといっしょに鑑賞しましょう。
(大山 顕)
■どうやらガスメーターの覗き穴のようですが
今回はじめて気づいたのが、これ。みなさんご存じでしたか。
なんてことない住宅の塀に見えるが、一点ぼくが気になってしょうがないポイントがある。どれだかお分かりだろうか。そう、塀の右上にぽっかりと空いた穴だ。なんだ、これは。かわいいじゃないか。
ソリッドな壁にぽっかりと空いたその佇まい。1:2の縦横比。すてき。一目惚れですよ。
穴の正体が分からないときの解決方法は単純だ。覗けばいいのだ。
ちょいと失礼して覗いてみたところ、そこにはガスメーターがありました。そうか、これは検針のための覗き穴なのか。
重厚な塀を建てる余裕がある、比較邸高級な住宅街ならではの穴だ。集合住宅やアパートにはこういう物は必要ではない。ディスクローズを旨としているからな。
上下で切り返しのある、異素材の組み合わせを魅せるセレブ塀。そこにつつましくも確かな存在感を感じさせる覗き穴。なかなかの穴作品である。
壁というのもは基本的には現場仕事で、の素材や仕上げも多種多様であり、従ってそこに空けられる穴もまた規格化されていない。結果的に、思いの外バリエーション豊かな穴世界が広がっている。注目に値する作品群だ。
本来壁は外と内とを隔てる境界であり、通行人の視線を遮る機能も期待されている。そこに穴を空けるというのは、いわばやむを得ぬ策。だからご家庭の様子が覗えてしまうような大きな穴であってはならず、メーターの数字が読み取れさえすればよい。
壁の構造に影響を与えるほどの大きさではないので、穴の形も自由だ。そこがいい。四角があれば丸もある。楽しい。楽しいよね。楽しいって言ってよ。
上はなかなか考えさせられる覗き穴である。これまでのものと異なり、一面壁で覆うのではなく柵を施した風通しのための部位がある。ならばそこにメーターを置けばよさそうなものだが、そこはしっかりと覗き穴は別個に用意。覗き穴に対するこだわりが感じられる作品である。
塀全面に仕上げを施していないので、穴がブロックに対してどのように穿たれるのかがわかりやすい点も注目である。鑑賞家によっては評価が分かれるポイントかと思うが、その飾らないオープンな姿勢は一定の評価をされてしかるべきだろう。
細かく縦にスリットが入ったテクスチャの塀。これも実はブロック塀なのだが、この穴の位置と形はいただけない。工具で比 較的簡単に空けられる丸い穴。それだけにその位置選びには慎重を期していただきたい。これまで見てきた覗き穴が、その裏にメーターが置かれてしまっている という事情と、表から見たときのブロックに対するバランスの良い位置とのせめぎ合いの中から生まれた穴美を感じさせるものであったのに対し、この穴は単に この位置にメーターがあったから、ということ以上のこだわりが感じられない。ブロックのテクスチャと丸い穴ということでごまかしがきくと思ったかもしれな いが、手練れの鑑賞家を甘く見てもらっては困る。昨今のこのような安易な穴プレイには警鐘を鳴らしたい。