ドキュメント「鈴木さんとマリモ」
鈴木さんがマリモと出会ったのは二十歳のころ。ボーイフレンドと山中湖や河口湖をめぐっていたときのこと、ぶらりと立ち寄った土産物屋で初めて目にした。
「かわいいな。」と思った鈴木さんは彼と相談し、共通の友人のお土産に、とマリモを購入した。後にそのマリモはお土産として渡したものの、「すぐ枯れてしまった」そうだ。
だが、今鈴木さんの手にあるマリモは枯れない。いつまでも残る。十年、二十年、そう、そのボーイフレンドが今のご主人であるように、鈴木家と鈴木マリモは何十年も続いていくのだ。人の家庭をホコリに例えていいものか、ちょっとドキドキしている今である。
鈴木さん、ほら松居先生にも胸を張って
どうですか!?と手の上のマリモについて意見をもとめると、「恥ずかしい!」と顔を手でおさえて前に倒れこんでしまった。
「こんなにたまっていたとは…」「ああ…ホコリだな、と思いました」と語る鈴木さんが恥ずかしがるのは多分それは主婦だからで松居先生(おそうじ棒の人)のお顔が頭をよぎるからだ。
鈴木さんが恥ずかしがれば恥ずかしがるだけ、どす黒い自分マリモのことが頭をよぎる。これが恥ずかしいのなら、あの茶色いモンスターを生み出した自分は何なのだろうか。あまり感じのよくない眩暈がした。 |