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はっけんの水曜日
 
練馬で、すっぱいビールが美味しかった
 


「車で偶然通りがかった時、『梅酒、30種類あります』って看板が目に入ってきて、思わず店に入っちゃって。それから通ってるんだけど」
---マニア向けのお店なの?
「いや、マニアというか…店構えは街の酒屋さんなんだけど、品揃えが普通じゃないっていうか、すすめられたお酒が全部美味しいんだよ。とにかくスゴイんだよ」
---どうスゴイのよ。
「普通っぽいのに、ハンパじゃない感じが…。
その酒屋さんが『試飲会』をやるんだけど、会費1000円くらいなんだけど、行く?」
---んー、よく分からないけど行く!

(text by 大塚 幸代

そんな訳で私は、友人の誘いで、上石神井にある噂の酒屋さん「酒舗 石塚(石塚商店)」に向かった。
行ってみたら、本当に街の酒屋さんであった。街道沿いではあるが、商店街からは遠い。売り場面積的にも普通の酒屋さんサイズ。
でも、棚には「おすすめのお酒」が、説明書きとともに、ずらーっと並んでいて、店主の熱意を感じた。「勧めたいお酒しか売りません」的な、セレクトショップの雰囲気。しかし高価ではなく、お手頃価格のものがほとんどだ。

初めて参加する会合は、どんなものでも、それが酒を飲む会であっても、緊張するものだ。私は「お酒を飲めば何とかなるだろう」と考えつつも、店内でかたくなっていた。
だんだん「参加者」らしき人が集ってきた。20代〜30代を中心に、12人くらい。後できいたら、ほとんどの人は地元の常連さんであった。

最初は店内の、小さなカウンターを使うことになっていたらしいのだが、
「大勢で狭過ぎるので、外でやることにしますー」
と、店主が駐車スペースに、テーブルを準備した。オープンエア。椅子はビールケース。
道沿いなので歩行者がチラチラ見ていた。

「つまみ一品持ちより」というルールだったので、おのおの、持ってきたものを並べる。
みんな「あ、かなりの酒飲み」と一目で分かる、粋なおつまみを持って来ていた。
マスカルポーネチーズに酒盗をかけたもの、ヌカのような匂いの(でもとても高級そうな)チーズ、唐辛子でピリッと味付けた自家製もやしサラダ、珍しいマスカットの茎付き干しぶどう、マッシュルームにアボガドオイルをかけたもの、糖度の高いフルーツトマト、などなど。
私は地元商店街で焼き鳥を買って持っていったのだが…、「ハズしたかな」と思いながら、袋を開けた(結局、皆、食べてくださった)。
この後、おかみさんが、ハタハタの焼いたもの、焼酎漬けのキュウリなど、シブいおつまみをどんどん出して来てくださって、テーブルは一杯に。

店主が、皆にプリントアウトした資料を配って、試飲会は始まった。
一本目からトバしていた。
「日本では、賞味期限の切れたビールは捨ててしまいますよね。
でもベルギーでは、熟成されたビールのほうが好まれるので、古いほうが珍重されるんです」
えー!
そこでまず出されたのは、ベルギービール「クリークデランケ」を熟成させたもの。

ワイングラスについでもらって、かいでみる。
匂いは、さくらんぼだ。
「甘いのかな?」と予想して口に含んだら、意外な味がした。
ツイーンと、酸っぱかったのだ。鼻と喉と口に、立体的な刺激が走る。お酢のよう。衝撃。
「新品のほうが、もっと酸っぱいんですよ」
店主は淡々と説明してくれる。なぜかウンチクくさい感じはしない。
「これは、最近出たビール特集の雑誌なんですが…、『日本では入手困難』って書いてあるんですけど、入手困難というか、ウチでしか扱ってないんです…」
それじゃあ飲んだことのない味のはずだ。
っていうか、この店って一体…? 

「これ、本当は自分で飲もうと思ってたんですけどね…」と店主。

ヒューガルデン。コリアンダー(パクチ−)が入ってるので有名なビールだ。
「これよく見てください、賞味期限が1年前に切れてるでしょ。このほうが味がまろやかになるんです」

本当なのかな? と思って飲んだら、本当にまろやかだった。
ヒューガルデン、買って1年寝かせておくなんてこと、自分には出来ない。

他にも怒濤のように試飲は続く。「信州駒ケ原ドルチェ ヤマソービニオン」。ワインにブランデーを加えて熟成させたお酒。甘い! めちゃめちゃ飲みやすい! しかも安い! 1本1900円くらい。

シェリー樽で熟成した日本酒「刻ノ宵」。いい香りと口当たりの良さが危険なお酒。調子のって飲むと倒れる感じ。洋と和のツマミ、両方に合った。

「紅一点」。芋焼酎を樽熟成させたもの。これも芋が甘く樽がいい香りで、飲みやすく、危険なお酒。サンプルボトルが可愛くて、持って帰ろうと思ったのに、いつのまにか飲みきってしまった。

これは女子には絶対に好かれそうな味、「大地の煌き」。味はほとんどモンブラン。

詳しい人にナビゲートしてもらいながら飲むと、本当に面白い。
しかも、全部うまい。

「これ、試飲?」という位、ありえないほどふるまわれてしまったので、最初は緊張していた初対面同士、打ち解けていった。

常連さんと話す。
「もうねえ、この店に来ちゃうと、外で酒が飲めないんですよ! だって外って美味しいお酒、置いてないんだもの。もう、飲み会は別物と割り切ってますよ。イシヅカの酒は、家でじっくり、一人で飲みますよ!」
「僕は近所に住んでますけどね、近所にあると、やっぱり週2、3回とか通っちゃうじゃないですか。ヤバイんですよ、エンゲル係数が!」
「でもこの店は安くて美味しいの勧めてくれるからね、ネームバリューだけで選んでないからね! あの有名な焼酎**よりも、紅一点のほうが全然美味しいですからね、本当に信用出来る!」
皆、引き返せないほどに「舌」を育ててしまっているんだろう。

一流店でも飲めない、すごく美味しい、石塚クオリティの酒を道ばたで飲む。
そんな練馬の秋の夜。

店内には、ほんの少し高いけど、やたら美味しそうなツマミも売っている。

私は店主に、
「チェコ行ったことあるんですけど、チェコビールいいですよ! チェコビールなんで無いんですか! チェコの珍しいビール輸入してください、あ、コゼル輸入してくださいコゼル! なんならチェコ関係者、紹介しますから! 何故かコネがありますから!」
と言って、からんでいたような気がする。申し訳ない。
でも珍しいチェコビールが飲みたいと言ったら、それを叶えてくれそうな雰囲気が、お店にあったのだ。

最後、おもに男子参加者たちは、酔っぱらったまま、次々にお酒を購入してしまっていた。
「おみやげです、でも、家族は誰もお酒は飲まないので、自分で飲むと思います!」
と言ってる人もいた。
私もちろん、自分へのお土産を買った。

しかしまあ、どのお酒も、個性的だった。
私は舌には自信がないので、基本的には「香りがする、しない」「むっとする、しない」「飲みやすい、飲みにくい」くらいしか分からないのだが、そんな舌でも、「ああ、これは私が普段飲んでいるお酒の味と、明らかに次元の違う味だ!」ということが分かった。
そういうことって、なかなかない。
「まだ知らないことがいっぱいある!」って知るのって、大きな喜びだ。

でも、あまりに美味しいものを口にいれると、「舌」をどうコントロールしていいのか、不安になる時もある。
先日、魚を食べている時、魚介類に合わない発泡酒を飲んで、あまりの不味さに吐き出しそうになったことがあった。
でも決して、発泡酒を否定するわけではない。アレは、アレ。マクドナルドにも行くけどフレンチも食べたい。だって庶民だもん仕方がない。感覚を切り替えることが自在に出来たらな、と思う。

ああ、それにしても、街にある普通の酒屋さんが、飛び抜けてるって、とても羨ましい。
近くにあったら、やっぱり通っちゃうんだろうな。
近くになくても、行こうと思ってる位だもんな。
西友で買った発泡酒を飲みながら、そう思った。

 

酒舗 石塚
東京都練馬区関町東1-1-8
03-3920-1124

http://www16.ocn.ne.jp/~ishizuka/27.html
試飲会は不定期ですが、常時、いろんなお酒の試飲が出来ます。


 
 
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