●はばたけ地上の鳥たちよ
確かにこれまでの鳥たちは、男性的な演技だったかも知れない。女性はあんまり落ちてる葉っぱをくわえたりしないような気がする。
ならばどんな演技になるのだろうか。エントリー探しは難航するかに思えたが、知人のNさんが快諾してくださった。まずは男性陣の演技を見せて、鳥気分を高めてもらう。
そして、いざフライトだ。日本風の庭園が向こうに見えるロケ地も、これまでとは違う雰囲気を醸し出していい感じだ。
おお、これまでにない感じだ。しっとりと優雅な鶴である。
これまでの鳥を「動」とするならば、こちらは「静」の鳥。アクティブに動いてわかりやすい鳥っぽさを狙うばかりだった自分には、欠けていたアプローチだ。
偶然なのか何かを察したのか、本物の鳥のさえずりがずっと聞こえてくるのも鳥ムードを俄然盛り上げる。
見どころポイントである、人間に戻る瞬間も意外だ。手を少し広げ、飛び立つような風にも見えたところで演技終了。鳥っぽさのチラリズム、全てを見せないところにエレガントな余韻が残る。
そして、そのあとの笑顔まで含めてのエントリーとしたい。やりきった充実感と、何やってんだ感とが交錯してこその表情だと思う。
今回最後のエントリーは母だ。帰省のついでに参加をよびかけてみた。
一応、「鳥人間コンテストって番組があるでしょ、それでさ…」と企画の趣旨を説明したのだが、伝わらなかったような気がする。よくわからない感じを浮かべた、あきらめたような表情で、まず母はカーテンを閉めた。
やはり近所の視線が気になるのか。確かに「小野さんとこ、こないだ鳥の真似してたわよ」という噂が流れるのは避けたいところだろう。
そしてもう一つ、この写真には気になるところがある。手にタマゴを持っているのだ。
結構本気なのか。果たしてどんな演技になるのだろう。
「こんな歩き方だよね、だからね、ペンギン」と言っているのが聞き取れただろうか。母によると、ペンギンは生んだ卵をこのように足に乗せて運ぶらしい。
これはまた意外な鳥っぷりだ。大自然系ノンフィクション番組が好きな母ならではだと思う。
厳寒地に生息するペンギンたち。こうすることで、凍てつく大地に触れて卵が凍結することを防げるのだそうだ。なるほど、そんな知恵なのか。鳥の生態に特化したエントリーだ。
それはいいのだが、「これ、卵、生だからな…」とつぶやくのも聞き取れる。それはそうだろう、ペンギンはゆで卵を運んだりはしないだろう。
このあたりに鳥の演技をしつつも、人間としての心が垣間見える。鳥と人間とをうつろう姿をどう評価するか、人によって意見が分かれるところでもあるだろうが、個人的には趣深さにもつながっていると思えた。
●人それぞれの心にいる鳥
ここまでお送りしてきた、別の意味での鳥人間コンテスト。先にも書いた通り、特に主催者側で順位をつけるつもりはない。それぞれの方が思い思いに味わっていただければいいと考えている。
あんな鳥、こんな鳥、意外な鳥。そして人間とのコントラスト。静かなドラマがどの演技にもあった。
いつでもどこでも誰にでも、気軽に参加できるこの鳥人間コンテスト。人の目が気になるという場合は、まずは一人っきりでいるときにやってみるとその楽しさがわかると思う。