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ロマンの木曜日
 
東京都心の蔵探し

文京区千石に残る蔵

南池袋の次は西新宿と、都心にもほどあると言うような場所で立て続けに蔵を発見することができた。なかなか幸先良いスタートだ。他にも蔵はないものか。引き続き捜索していこう。

それからしばらくして、文京区の千石に蔵が残っているという情報を得た。文京区と言えば昔から文人など著名人が居を構えた地。確かに蔵がありそうな感じではあるが……さっそく見に行ってみた。


そして見つけた。立派な商家だ(→地図

おぉ、なかなか絵になる立派な店だ。こんな商家が東京に残っていたとは。

主屋に寄り添うようにちょこんと蔵が建っている。これはあくまで主屋が主役。蔵はそれの引き立て役だ。常に旦那から一歩引いた位置に立つ、できた奥さんのようなつつましさがある。

元々は主屋ともども明治の初期に作られた土蔵らしいが、後にモルタルを塗って石造りっぽく外観を整えたらしい。西新宿の蔵もそんなような感じだった。東京都心の蔵はモルタルで塗るのが流行りだったのだろうか。


主屋と蔵が互いの良さを高めあってる 顔だけをひょっこり出すいじらしさ

しかしこの店舗と蔵、本当にお似合いのご夫婦だ。旦那も奥さんを大事にしているようで、蔵は店舗にしっかり守られていて全景を見ることができない。上部しか見学できないのは残念だが、それでも仕方ないかというほど全体の完成度が高い。

良い蔵を見ることができてちょっとした感動を覚えたが、それで満足したワケではない。私は知っている。古い建物がある付近には、他にも古い建物が残されていることを。この付近には、他にも蔵が残っているのではないだろうか。


そう思っていたら、やっぱりあった(→地図

しばらく自転車で住宅街をうろうろしていたら、こんな土蔵を発見することができた。いやはや、「古い建物の近くには古い建物」「蔵の近くには蔵」の法則は確かだったようだ。


しかし、木とか塀とかが邪魔で全貌が見えない まぁ、でも蔵というのは大抵そういうものだ

随分のっぺりした印象の蔵だ。漆喰で均一に塗られているというのもあるが、上部に窓が無いというのが大きいのだろう。木々や塀によって下部の窓が目に入らないというのも一つの要因か。

ところで、私が何故蔵に惹かれるのか。ここまできてようやくそれが分かってきた。それは安心感だ。「あ、まだ蔵が残っているんだ」というような安心感。古い木造建築を見たときにもそのような感じはあるが、シンプルな造型の蔵はよりシンボリック。古いものの象徴として、見たときに得られる安心感は強い。

 

樋口一葉も利用した、質屋の蔵

さて、先ほどは文京区といっても豊島区に近い北西部の千石だったが、今度は南東部、千代田区よりに位置する本郷。そこには、5000円札でおなじみの樋口一葉ゆかりの伊勢屋という質屋がある。次の蔵はその伊勢屋の土蔵だ。


文京区本郷にある伊勢屋質店(→地図

この伊勢屋、現在はもう質屋としては営業していないが、かつては金に困った樋口一葉が度々通った質屋だそうだ。一葉の日記にもこの店のことが記されているらしい。一葉が24歳で亡くなった時には、葬儀に伊勢屋の主人が参列したそうだ。


互い違いの窓が面白い ひさしも立派だ

蔵としては、まぁよくあるタイプの土蔵ではあるが、その扉やひさしなどに富を感じることができる。扉が上下で若干位置が異なっているものおもしろい。

隣の主屋と比べると、若干出張っている感はあるか。いや、主屋が小さいからそう感じるのか。いずれにせよ、千石の伊勢五の蔵とは対照的だ。

 

うどん屋になった煉瓦蔵

最後に、これまでの蔵とは一味違うタイプの蔵を紹介しよう。場所は文京区の東の端、根津。


これまでの蔵とはちょっと違う、煉瓦蔵だ(→地図)

なんていうか、煉瓦蔵である。煉瓦蔵はやぼさが無くモダンな印象を与えるので、店舗に活用される例が多いようだ。この蔵もまたうどん屋の座敷として利用されている。

もともとこの敷地には、明治時代に建てられた大きな屋敷があったらしい。それらは取り壊されてしまったものの、この煉瓦蔵だけは残されうどん屋として蘇ったのだそうだ。


ひさしの装飾がさりげなくおしゃれ 竹が扉の半分を隠しているが、それもまた良し
煉瓦はイギリス積みという積み方 さりげなく掛けられた営業情報。好感度高し

しかしこの煉瓦蔵、表面の質感がとても良い。

長手(煉瓦の長い方の面)だけの列、小口(煉瓦の短い方の面)だけの列が、一段ずつ互い違いに積まれたイギリス積みの煉瓦。その一つ一つ、微妙に色が違っていて味となっている。つなぎに使われているモルタルの白も、また煉瓦の色を引き立てていて……

はぁ、たまらん。

蔵にくらくら

今回、東京の都心部分ということで、山手線周辺およびその内側のみに絞って蔵を探してみたが、それでもこれだけの蔵を見つけることができた。

もちろん、今回見た蔵が全てというワケでもなく、これら以外にも東京にはぼちぼち蔵が残っているようだ。山手線圏から出てしまうが、かつての宿場町である北千住には今でも相当な数の蔵が残っており、蔵の町などとも言われているらしい。

とはいえ、今に残る蔵がこの先ずっと残るかどうかは分からない。でも、できれば残っていてほしいところ。最後に訪れたうどん屋の煉瓦蔵のように、積極的に活用するのも蔵が残る一つの道なのでしょうな。

久々にうまいうどんをいただきました

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