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はっけんの水曜日
 
スールストロミングを食べに、北へ。


どうやって、そのサイトに辿り着いたのか、忘れてしまった。
モニタには、「スールストロミング試食会」という、魅惑のお知らせが踊っていた。

スールストロミング……!!
シュールストレミングとも呼ばれる、世界一臭い、ニシンの発酵缶詰。スウェーデンの珍味だ。
最近はテロ対策で、飛行機に液体を持ち込めなくなってきたため、入手困難な食べもので、
テレビでお笑い芸人が、ギャーギャー騒ぎながら食べる食べもので、
「食べた事あるよ!」という人が、皆、ちょっと得意げな食べもの、だ。

正直に言おう、私は珍味が得意ではない。
それなのに…、一度は食べてみたい、嗅いでみたい、という好奇心に負けたのだ。

参加させてください、というメールを、主催の「スウェーデン交流センター」に送ったら、ほどなく返信が来た。

「いらっしゃってもいいですよ、でも、ウチは北海道にある施設ですけど、大丈夫ですか?」

……あ、あれ?
北海道!?

(text by 大塚 幸代

私はすっかり、誤解していた。スウェーデン交流センターが、都内のスウェーデン大使館のお隣あたりにあるものだと、勝手に思い込んでいたのだ。
ものすごい間違いをしてしまったわけだが、ここで「やっぱいいです」と言ったら、一生スールストロミングと出会わない気がしたので、思い切って行くことにした。
スウェーデン交流センターのある当別町・スウェーデンヒルズは、札幌から1時間ほどの町。
飛行機、電車、バスを乗り継いでいく。
自分は都内ですら、乗り換えを間違う方向音痴なので、一人旅の時は必死だ。
案の定、前日は眠れなかった。身体中を緊張させて乗り物に乗る。
「はじめてのおつかい」のテーマ曲が、脳内で鳴っていた。ぱやぱぱぱやぱぱ、ぱっぱぱやぱぱ。


羽田から札幌までは、あっというま。文明の利器はすごいなあ、と。
飛行機より、初めての電車に乗るほうがビビってしまう。後から考えたら、単純な経路だったんだけど。

札幌は東京と同じくらい都会なのに、少し離れると、景色が横長。ひろい、とにかく、ひろい。この先にスウェーデンが待っている…。

最寄り駅について、地域バスを待ちながら、ふと見ると、フツーに針葉樹が生えていた。
駅前に針葉樹って、北国ならではだな、と眺めていると、少し緊張がとけたらしく、「寒い」ことに気が付いた。

Tシャツとアノラックだけだったので、背筋からぶるるるっと冷えてきていた…、
でも「気の持ちようかもしれない!」と、寒くない、寒くない、と自分に暗示をかけた。
現に、地元の人たちは、私と同じくらい薄着だった。

その日、急激に気温が下がって、しかも初雪が降って、地元の人も寒がっていたことは、後に知った。

バスに乗っていくと、可愛い赤い建物群が見えて来た。スウェーデンの街づくりをモデルにつくられた地域で、その中心にスウェーデン交流センターがある。
芝の青さが濃く、空気が透明で、日本っぽくなかった。素敵なところだ。
スールストロミング試食会は、10年ほど前から開催しているそう。


受付で、担当者さんに、
「遠くからようこそ。もの好きですね、楽しんでいってください!」
と言われた。

テントの下には、徐々に人が集まってきた。近所の方と、札幌の方がほとんど、だそうだ。

数人に声をかけられ、「東京からです」と言うたび、「もの好きですね!」と、言われた。

臭い缶詰を食べに来る、好奇心旺盛な皆さんに、さらに「もの好き」と言われ…。
ひきつる笑顔。
でも後悔はしていない。

当別町の姉妹都市、スウェーデンのレクサンド市から寄贈された釜で焼かれた、スウェーデンのパンも、試食に用意された。歯ごたえのある素朴な味わいで、噛み締めると甘い。美味しかった。


さあ、スールストロミングとご対面。
おっかなびっくり缶をさわる。さほど膨れていなかった。

「今回は1年ものと2年ものを用意しました。
こっちは内蔵、卵の入ってるやつで、こっちは身だけのやつですね」
と、担当者さんが説明してくれる。

スールストロミングは、毎年、8月の第三木曜日が解禁と決まっているんだそう。ボジョレーヌーボーのように、発酵したてのニシン缶を楽しむんだとか。(そこを基点に、1年、2年と数えるらしい。でも普通は2年以上経つと、発酵し過ぎて、骨と皮だけになっちゃって、食べられないらしい)。

缶が切られると、案の定、
「ぶしゅーーーーー!」
と、汁が飛び散った。これは服にひっかかると、3日は匂いがとれないんだとか。

「わあ、テレビと同じだね」「テレビで言ってたみたいに、風下にいるだけで、くさいね」
と、皆、眺めながら、デジカメを撮っていた。

でも、別にリアクション芸人ではないので、誰も大騒ぎはしていなかった。
「臭いけど、まあ、こういうものかな」という顔で、一人一人が、お皿に、たんたんと盛っていた。


 

 
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