山に登れず捺印マットを見つめる
最初にご説明すると、この企画はデイリーポータルZストアという当サイトのグッズ販売コーナーのお知らせを目的としている。
当初は商品の1つである「おとまりセット」についている小さなトートバッグ、OLが昼休みにちょっと持って出るのをイメージしたこの小バッグひとつを持って、けれど高い山に登ってしまおうという企画を考えていた。
が、登山当日の朝、私は肩を寝違えてしまったのだ。首を寝違えたように肩がうまくまわらない。外は雨。
……登山。しかも、小さなカバンひとつを持って……。
やってやれないことはないが、希望としては中止! とひよった私の目に入ったのが、同「文具セット」についている捺印マット、その人だったのである。いや、人ではない、マットだったのである。
捺印マットの微妙さにむしろ感心する
「捺印マットか……」
そう思った。もしかしたら、小さなバッグで山に登るよりも面白い記事が書けるかもしれない。そんな淡い自信がわいた。
なぜそんな自信がわいたのか。最初に書いたとおり、捺印マットは重要ではないけどあると便利だけどなくても困らないという、人間の人生にとって非常にぼんやりふわふわしたツールである。そんな微妙な立ち居地に魅力を感じたのだ。
なにしろ印鑑を押すときに、下に敷くものだ。まずもって地味。そんなんでいいのかお前よ、と手にとりじっと見つめるが当然捺印マットはなにも言わず、なにやら感心した気持ちになってきたのだった。
捺印マットと人間
ここまで読んで、いやちょっと待ってくれ。俺は私はおいらは捺印マットがなくちゃ毎日仕事がたちゆかない、捺印マットがなくちゃ困るんだ、そんな微妙だなんて生ぬるい関係ではないのだ、という人もきっと世の中にはたくさんいると思う。
想像するに、プロの事務員さんや毎日腱鞘炎になるくらいハンコを押しまくらねばならない偉い人のみなさん、銀行などの窓口で日々お客さんに印鑑をもらっている方には必需品だろう。
食べ物にたとえると、コーンフレークあたりだろうか。
食べる人は毎朝食べて絶対切らさないけど、食べない人は5年に1度も食べないコーンフレーク。うん、近い。
そんなコーンフレークのような捺印マット(なんだろうこの文章)。だが、コーンフレークは日々食べては買う人がいるのに比べ、捺印マットはどうだろう。ヘビーユーザーもそれほど買い換えるものではないだろう。
むしろ、捺印マットって買うものなのだろうか。意識して「よし、捺印マット、買うぞ」と人はそう決意するものなのだろうか。疑問だ。
なんとなく捺印マットを持っている人たちは、どうやって入手しているのだろう。 |