デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


ひらめきの月曜日
 
鮭を丸ごと一匹買ってしたこと

病に伏せる

買って帰ったシャケは冷蔵庫に入る大きさではなかったので、家の中の寒い所に放置しておいた。そして「よし、そろそろ調理に取りかかるか!」と思った日の朝。

吐き気と共に目が覚めた私は思うさま腹を下し、嘔吐を繰り返した。悪寒とダルさにやられながら病院に行くと熱が38℃あるという。とてもシャケどころの話ではなくなってしまった。


熱さえなければなんとかなったのに。

寝込んでいる間にも、シャケはどんどん傷んでくる。いくら塩が利いているからといって、どんなに寒い所だからといって、そんなに長時間ほったらかしにしたらダメだろう!

…とは思うのだが、体が動かない。

結局、買ってから一週間近くが過ぎようとしていた時点で、やっと4千円と向き合うことができた。長かった。本当に長かった。


ほったらかしにしてゴメン。
ちょっと痩せましたか?

腹にきた風邪の為、軟弱な物ばかり食べ続けて痩せた私と同様、シャケも塩が体内の水分を奪ったものとみえて少し身が細っていた。色もちょっと黄色っぽくなった気がする。

…大丈夫か。いや、シャケの身を案ずるというより、これ食べて大丈夫なのか。せっかく腹が治ったばっかりなのに、いっちゃっていいのか。

匂いを嗅いだ結果「特に問題なし」とゴーサインが出た(注:あくまで自己判断)ので、そのまま食べることにした。


やあ、待たせたね。

それにしてもデカイ。普段使っているまな板から大きくはみ出したシャケを前に「寝込んでる時に無理して手を出さなくてよかった」と、改めて己の英断に拍手を送った次第だ。

しかし、サバ級の大きさでさえ魚を下ろすのがヘタクソな私に、こんな大きなものをさばけるんだろうか。

しかもウチには出刃包丁なんてものはない。


太い骨は、手でボキリと折ることにした。
もう、キレイに切るとかいう以前の話だ。
これくらいの大きさにカットして、と。
あとはアラ、頭、身と分けて冷凍しておこう。
とりあえず、いまは大きな皮が欲しい。
ウロコもきれいに取って、と。

「お前は何をやっているのだ」とお思いだろうか。私もまさか、こういうことをするとは思ってもみなかった。本当は丸ごと全部をどうやって消費したか、そのドキュメントをお送りする予定だったのだ。が、そんな悠長なこともしていられなくなった。

となると、この大きなシャケで「おおお!」と感動を覚えるような、「丸ごと買ってきたからこそ!」な何かを作らねばなるまい。


まずは大好きな皮を焼く。

以前、「皮でミルフィーユ」という記事を書いたことがあったが、あの時使った皮は切り身で売ってた細い物だった。しかし今回は違う。手のひらより大きなサイズの一枚皮である。

こんな立派な皮なんて、次にいつお目にかかれるか分かったもんじゃない。となると、どうしてもこれをやらずにはいられなかった。


焼けた。なにやらボコボコになったが目をつぶろう。
巻き簾に皮を敷いたら、そこにゴマ入りごはんを乗せて、
ギュウっと巻きます。はい、もう何をやろうとしてるのかお分かりですね?
海苔巻きならぬ「皮巻き」を作ってみました。

皮は焼くとパリパリになる。それを巻くことなんて出来るんだろうか、皮が折れるんじゃないだろうか、すべては絵に描いた餅ではないのか、そもそもシャケを買った時点で遊び過ぎたバチじゃないか、そうだよ食べ物で遊んじゃダメだって子どもだって知ってるよ、シャケだって怒ってるよ、怒ってるか、そうか怒ってるか…。

不安で泣きそうになりながら、切ってみた。


あ、そんなに怒ってないみたいです。

今回の皮は身離れが悪く、皮と一緒に身の部分もたくさんついていたのだが、それが幸いしたらしい。

皮がパリンと折れている部分でも、その裏側の身や薄い膜のようなものがキレイにごはんを巻いてくれていた。


ブチッといかずにクルンと巻いてます。
内側のシャケがたっぷりなのが嬉しい。

我慢しきれずにひとくち食べてみる。

カシャッ、といういい音がした後は、そのサクサクとした部分やねっとり部分、身と僅かに残った塩分などがドヤドヤと一気に口の中に押し寄せてきて、なんとも言えない気分になった。


早い話が、皮好きにはたまらないうまさです。

ああ、なんでさっき、急いで切り身を作ってしまったんだろう。これ以外にも大判の皮を剥いで、もっと皮巻きを作るべきだった。そしてもっと皮巻きを食べたかった。食べたかった…。


時すでに遅し。(23切れできました)

大事に、そして急いで食べよう

予期せぬ事態に襲われ、当初の計画は全てパーになってしまった。なにかドキュメントだ(違った意味でのドキュメントにはなったが)。やれ粕汁だ石狩鍋だ、ちゃんちゃん焼きだ氷頭なますだと浮かれていた自分が心底情けない。前ページでヘラヘラ笑って小芝居まで披露している自分が憎い。

でも、こんなアクシデントにでも見舞われない限り、大判の皮を使ってごはんを巻くという一発勝負的な物を作ろうとは思わなかっただろうから、これはこれで良かったと思うことにしよう。

記事にはならないが、もちろん冷凍保存した物で鍋やら焼き物やらにどんどん使っていこうと思う。それが今からとても楽しみだ。

解体中に出たカスはフレークにして海苔巻きに。そりゃもうおいしいのひと言に尽きますよ。

< もどる ▽この記事のトップへ  

 
 
関連記事
鮭フレークに代わるもの
鮭のおにぎり徹底解剖
鮫皮おろし板を作ろう

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.