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フェティッシュの火曜日
 
美容院での会話 傾向と対策


 だらだらとしているうちにまた髪が伸びてしまった。切りにいくのは床屋より美容院のほうがかっこよくできる気がするので美容院にいこうと思うのだけど、あの空気感が苦手なので、髪を切ること自体から足が遠のいてしまう。

 僕だけではないと思うが、鏡越しの会話というのがどうにも慣れない。でも、無言で押し通そうとするのも心が苦しい。でもでも、このまま美容師との会話を避け続けたら、髪が肩まで伸びてしまう。

 

そんな事態にならないように、あらかじめ傾向と対策を検討しておこうと思う。

(text by 藤原 浩一

髪を切ってもらいたいだけなのに

 雑誌を読んでいると話しかけられずにすむ、という話を聞いたことがある。しかし、僕は普段めがねをかけていて、髪を切るときにはそれを外さなければならないので、雑誌は読めない。

 美容師とはタイマンをはらねばならないのである。逃げることはできない。


でもいい加減切ってしまいたいくらい伸びた


 さて、美容院に行ったときに美容師からふられる会話を思い出してみると、こんなものではないかと思う。いわゆる職務質問というやつである。

1.どんな髪型にするか
2.職業について
3.休日の過ごし方について
4.最近の出来事について

 「悪いことはしていないので許してください」と言いたくなるが、それではいい気分で髪を切ってもらうことができない。

 これら4つのパターンの他に、「美容師が延々と自分の話をして、その後に然るべき反応を迫られる」という場合もありそうだが、それはケースバイケースなので今回は保留とさせてもらいたい。案としては、そういう場合「すごいですね」と「本当ですか」と「きついですね」の3語でだいたいは対処できると考えられる。


指で切れたらいいのに


1.どんな髪型にするか

 髪を切りに行く度に、「今日はどうします?」と聞かれる。避けては通れない最初の難関だ。というか、この質問なしに髪を切られるのは問題だ。

 ここで躓いている人は僕のほかにもいるのか心配だが、この質問になんと答えたらいいのかわからない。決まって「あー・・・えー・・・」となってしまう。このとき美容師に「何か考えてないのか」という顔をされているような気がして直視できない。

僕にとって髪を切りに行くということは、服を買いに服屋に行くというよりは、怪我をしたので病院に行くというイメージなので、「どうする?」と聞かれてもこまってしまう。処置してほしいだけだ。

 ここでもたもたしていると、ヘアカタログなどを見せられながら「どんな感じですかねえ」と言われ、自分と全く顔の違うモデルの顔を指さしながら「こんな感じですかねえ」と答えねばならない。恥ずかしい。


読んでみてもわからない

というか5年前の雑誌だ


 髪が伸びたので切りにきたわけだから、伸びた分だけ切ってもらえばいいのではないだろうか。要するに「前に切ったのが○ヶ月前なんですけど、伸びた分だけ切ってください」と言えばいい。これならきっと予想外の髪型にはならず、かつ、すっきりすることができるはずだ。

 (あとは「あんまり考えてないんですけど」とか言えば、フォローしてもらえると思う。)


ポイント:
髪は伸びた分だけ切ってもらうことにする

 

2.職業について

 続いて、普段の生活について、つまり職業に関連した職務質問が飛び出すことであろう。平日に髪を切りに行くと「今日は休みですか?」と聞かれる。ここでそんなの関係ないだろと怒ってはいけない。

 そもそも自分の日常なんて嬉々として他人に話すようなものではないし、それほど深く説明したいものでもない。ここは「美容師と客」という単純化されたアイデンティティ観を脱するべく、会話のコンテクストを形成する作業と捉えるべきだろう。お互いに、いったいどんな人なのかわからずに対峙し続けるのは気持ちが悪いもの。

 ここは話が広がらないことを前提に、ざっくりと社会的アイデンティティ説明すればいいと思われる。


自分のアイデンティティについてまとめる

要するに自己紹介だ


ポイント:
要するに自己紹介。会話が盛り上がらなくてもいいことにする。


3.休日の過ごし方(趣味)について

 おそらく職業の話から、休日の過ごし方や趣味に話題がシフトしていくのではないかと思われる。職業は定められてしまっているものだが、休日の過ごし方は人それぞれで、もはや自由の支配と言っていい。

 社会的アイデンティティに対する個人的アイデンティティの紹介である。ここでは自分の自分らしさを伝えるエピソードなんかを披露すればいいのではないかと思われる。最近あった印象的なイベントなどを控えておこう。


年末年始の記憶(本当はもっとちゃんと書き出しました)

 

ポイント:
この機会に最近の自分を見つめ直しておく

 

4.最近の出来事について

 個人的な話の後は、一般的な世間の話題に移ったりもするかもしれない。季節や時期によって、いろいろな話題がある。今の時期なら年末年始どのように過ごしたかなんていう話になるだろうか。

 あたり前のことのようだが、すごく気を抜いていると最近何があったかなんて忘れてしまうものだ。最近何かあったかと聞かれて特に何もないと答えるようでは、何も考えていない人みたいに思われてしまう危険性があるので、美容院へ向かう前に、あらかじめ確認しておきたい。

話題にでてきそうなことを携帯で確認

 

いざ髪を切りに

 加えてさらに、上記の話題から派生した話題(例えば、最近やっているゲームとか)を、いくつか想像して、また受け答えを考えておく、といったイメージトレーニングをしばらく繰り返した。

 よし、ここまで準備しておけば大丈夫だろう。多分大丈夫だ。僕は大丈夫。イメージトレーニングもばっちりだ。イケる。今までの僕とは違うんだ。よしよし。

 早速行きつけの美容院に駆け込んだ。

駆け込んだ


 トレーニングのかいあって、どんな髪型にするかは滞りなく伝わった。

 髪を洗ったあと、鏡の前の席に着く・・・が、一向に会話が始まらない。美容師さんは髪を切ることに集中しているようだ。僕はいつ話題を振られるか首を長くしているが沈黙。


沈黙する美容師さん

 こういうときに限って、である。

 隣の席のお客さんが担当の美容師さんと楽しそうに会話をしているのがうらやましい。「そう質問されたら、こう答えるのに!」と思っていた。

 結局最後まで会話が弾むことがなく、美容師さんからふられた話題は「今日はこれから予定があるんですか?」と「髪を切るのって久しぶりですか?」の2つだけであった。

 それぞれに対する僕の返答は「特に予定はないです」「久しぶりです」で、特訓の成果はまるでなかった。

難易度高し、美容室

 いつも行くだけで疲れてしまう美容室に、今度こそは気持ちよく行こうと思ってイメージトレーニングを行った今回の試みだったが、こういうときに限って美容師さんが全くと言っていいほど話題を振ってこない。いつもだったら困るような質問とかしてくるのになあ。進路とか。

 それにしても美容師さんとしゃべれなくて悔しい思いをしたのは、これが初めてである。こうして気持ちはすれ違っていくのだろうか。まるではさみの刃のように。

ま、さっぱりできたのでいいです。

 
 
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